copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
ガラッキーの所に着いた。
{よう来たな、オッさん} 例のドスの利いた太い声。
{よろしくお願いします}
{オッさん、ゴキブリになんか化けなくても、その姿、ゴキブリにそっくりではないのか?} 口も悪い。
むかーっ。
なるほど黒ヘルメに黒い革ジャン・革ズボン・黒いロングブーツ。手足は短い。言われてみたら、まさにその通り。でも、アンタに言われたくはない。Oさん一人に言われるだけで十分だ。この服装で事故に備えて少しでも怪我の程度を軽くしようとしている、オレの努力を解ってはくれないのか!
{失敬、失敬! でも、40も超えて、そう怒りを顔に出すな。修業が足りんぞ!}
お土産を手渡す。涎を落としそうだ。何が顔に出すなだ。この古狸め! テメェこそ顔に丸出しではないか! 人に説教出来ても自分のことが解らないのか、クソ食らえだ。それでも今日は教えを乞う日。低姿勢、低姿勢。
ガラッキーとサヤカが、しきりと話している、ように見える。もちろん人間のオレには何も伝わってこない。30分ぐらい経っただろうか。
{よし、終わりだ。さすがはサヤカ殿。聞きしにまさる聡明さ、飲み込みがいい}
どうやら秘術が伝わったみたいだ。ガラッキーに礼を言って帰る。ヤツのことだから、葡萄酒を徳利に移し変えて飲む気だろう。何ともアンバランスな、オレの同類。その姿を想像すると笑いが込み上げてくる。
{何がおかしいの?} サヤカがたずねる。そうだ、サヤカにも礼を言うの忘れてた。
サヤカも、オレと遠出するのが楽しいらしい。そりゃそうだろう。いつもは一日中シートを被せられて大半を過ごしているものだから当然と言えば当然だろう。かといって、シートを掛けてないと錆びたり痛んだりするのだから仕方ない。家に着くと夜中の12時を回っていた。近所に気を使ってエンジンの音を弱め、こっそりと帰る。Oさんはもう寝ていた。さぁ、明日の日曜が楽しみだ。思いっきり驚かしてやるぞ!
日曜の朝が明けた。夜になるのが待遠しい。月曜に近づくことなど、普段の日は憂欝な気分を生み出す原因の一つなのに、その日は違っていた。目的があれば変われるものだ。人間なんてちょっとしたことでコロコロ変わるこんころの持ち主でもあるようだ。ゴキブリ変身後の筋書きを作っては一人ニヤニヤしていた。その姿をOさんにチラッと見られてしまう。
「気持悪ーっ。オッさん止めてよ」 冷たい他人の眼差し。
今にみておれ!
やっと夜がやってきてくれた。夕食後、「本屋にちょっと行ってくる」と言ってサヤカに跨がる。道具は昼間から用意してあった。近くの公園で本番開始だ。
ゴキブリに変身するには、狸の置物がいる。これは、ずっと昔に信楽で買い求めたものだ。その狸を両手で撫で一心不乱に
{ごきごき母ちゃん、ごき父ちゃん、オイラを子供にしておくれ}と唱えるのだ。頃合を見計らってサヤカが術を投げる。変身時間は狸時間、嘘800秒、人間時間にして5分である。オレは、黒ヘルメ、ロングブーツの完全防備姿。縮小コピーに掛かったみたいだ。
空を飛んで家に帰る。気持いいっ。勝手知ったる我が自宅。
すいーっ。
「きゃーっ、ゴキブリが飛んでるーっ」
長女のマイカが気づいてくれる。まずは成功。
「何処に!
ワッ、ぎゃーっ」
「ぎゃぎゃぎゃ!!!」
派手なマイカ。
それっ。
「ひいーっ。ナニよ、このゴキブリ!!」
Oさんの恐怖に歪んだ顔。おもろー。
Oさんすれすれに飛んでやる。
「ママっ、早く殺してよ!」
Oさんが新聞紙をまるめた。やばい。根がドン臭い、このオレのこと。大怪我しそうだ。{オレだ。オレ! 脅してゴメン}
術が掛かっているので何も伝わらない。必死でOさんの追撃から逃げ回る。Oさんの顔つきは真剣そのもの。彼女もそう運動神経は発達していない。でも2回ほど当たってしまった。
「あのゴキブリしぶといわ」
その時だった。リビングルームのドアが開いて長男のドン太郎が入ってきた。ドン太郎様々だ。二階でパソコンゲームをしていたのだが咽喉が乾いたので降りてきたのだ。オレは入れ替わりに出てゆく。出た途端、術が切れた。
疲れた!
Oさんの執拗な追っ掛けとぶつかった。
「帰っていたの。ゴキブリ見なかった!!!」
相変わらず凄い形相。おお恐っ。
「知らん」 とぼけた返事を返す。
お互い肩で息している。Oさんは追う身オレは追われる身。
しかしながら、彼女は本当の事は知らない。
「何してるの?」
「Oさんこそ何してたの?」
ころりと追求をかわす。ゴキブリの話をしてくれる。まさか、このオレだとも言えずフンフンと聞いてやる。いかにも残念そうな顔をしている。今度会ったらただでは済みそうにない。もう化けるのはよそう。
「こらーっ!」
ナ、ナンダ!!
「土足で上がって、何してるの!」
しまった。とばっちりが来た。大分冷静になってきたみたいだ。
吊り上がっていた目が、大分下がってきている。
バシ、バシ、バシー。丸め新聞紙のお見舞い。けれども完全装備のお陰で全然痛くはないそのまま外に飛び出してサヤカを迎えに走った。
ゴキブリは われらの心の 拠り所
頭の一つも 撫でて叩こうぜ
ち ふ
つづく
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
ガラッキーの所に着いた。
{よう来たな、オッさん} 例のドスの利いた太い声。
{よろしくお願いします}
{オッさん、ゴキブリになんか化けなくても、その姿、ゴキブリにそっくりではないのか?} 口も悪い。
むかーっ。
なるほど黒ヘルメに黒い革ジャン・革ズボン・黒いロングブーツ。手足は短い。言われてみたら、まさにその通り。でも、アンタに言われたくはない。Oさん一人に言われるだけで十分だ。この服装で事故に備えて少しでも怪我の程度を軽くしようとしている、オレの努力を解ってはくれないのか!
{失敬、失敬! でも、40も超えて、そう怒りを顔に出すな。修業が足りんぞ!}
お土産を手渡す。涎を落としそうだ。何が顔に出すなだ。この古狸め! テメェこそ顔に丸出しではないか! 人に説教出来ても自分のことが解らないのか、クソ食らえだ。それでも今日は教えを乞う日。低姿勢、低姿勢。
ガラッキーとサヤカが、しきりと話している、ように見える。もちろん人間のオレには何も伝わってこない。30分ぐらい経っただろうか。
{よし、終わりだ。さすがはサヤカ殿。聞きしにまさる聡明さ、飲み込みがいい}
どうやら秘術が伝わったみたいだ。ガラッキーに礼を言って帰る。ヤツのことだから、葡萄酒を徳利に移し変えて飲む気だろう。何ともアンバランスな、オレの同類。その姿を想像すると笑いが込み上げてくる。
{何がおかしいの?} サヤカがたずねる。そうだ、サヤカにも礼を言うの忘れてた。
サヤカも、オレと遠出するのが楽しいらしい。そりゃそうだろう。いつもは一日中シートを被せられて大半を過ごしているものだから当然と言えば当然だろう。かといって、シートを掛けてないと錆びたり痛んだりするのだから仕方ない。家に着くと夜中の12時を回っていた。近所に気を使ってエンジンの音を弱め、こっそりと帰る。Oさんはもう寝ていた。さぁ、明日の日曜が楽しみだ。思いっきり驚かしてやるぞ!
日曜の朝が明けた。夜になるのが待遠しい。月曜に近づくことなど、普段の日は憂欝な気分を生み出す原因の一つなのに、その日は違っていた。目的があれば変われるものだ。人間なんてちょっとしたことでコロコロ変わるこんころの持ち主でもあるようだ。ゴキブリ変身後の筋書きを作っては一人ニヤニヤしていた。その姿をOさんにチラッと見られてしまう。
「気持悪ーっ。オッさん止めてよ」 冷たい他人の眼差し。
今にみておれ!
やっと夜がやってきてくれた。夕食後、「本屋にちょっと行ってくる」と言ってサヤカに跨がる。道具は昼間から用意してあった。近くの公園で本番開始だ。
ゴキブリに変身するには、狸の置物がいる。これは、ずっと昔に信楽で買い求めたものだ。その狸を両手で撫で一心不乱に
{ごきごき母ちゃん、ごき父ちゃん、オイラを子供にしておくれ}と唱えるのだ。頃合を見計らってサヤカが術を投げる。変身時間は狸時間、嘘800秒、人間時間にして5分である。オレは、黒ヘルメ、ロングブーツの完全防備姿。縮小コピーに掛かったみたいだ。
空を飛んで家に帰る。気持いいっ。勝手知ったる我が自宅。
すいーっ。
「きゃーっ、ゴキブリが飛んでるーっ」
長女のマイカが気づいてくれる。まずは成功。
「何処に!
ワッ、ぎゃーっ」
「ぎゃぎゃぎゃ!!!」
派手なマイカ。
それっ。
「ひいーっ。ナニよ、このゴキブリ!!」
Oさんの恐怖に歪んだ顔。おもろー。
Oさんすれすれに飛んでやる。
「ママっ、早く殺してよ!」
Oさんが新聞紙をまるめた。やばい。根がドン臭い、このオレのこと。大怪我しそうだ。{オレだ。オレ! 脅してゴメン}
術が掛かっているので何も伝わらない。必死でOさんの追撃から逃げ回る。Oさんの顔つきは真剣そのもの。彼女もそう運動神経は発達していない。でも2回ほど当たってしまった。
「あのゴキブリしぶといわ」
その時だった。リビングルームのドアが開いて長男のドン太郎が入ってきた。ドン太郎様々だ。二階でパソコンゲームをしていたのだが咽喉が乾いたので降りてきたのだ。オレは入れ替わりに出てゆく。出た途端、術が切れた。
疲れた!
Oさんの執拗な追っ掛けとぶつかった。
「帰っていたの。ゴキブリ見なかった!!!」
相変わらず凄い形相。おお恐っ。
「知らん」 とぼけた返事を返す。
お互い肩で息している。Oさんは追う身オレは追われる身。
しかしながら、彼女は本当の事は知らない。
「何してるの?」
「Oさんこそ何してたの?」
ころりと追求をかわす。ゴキブリの話をしてくれる。まさか、このオレだとも言えずフンフンと聞いてやる。いかにも残念そうな顔をしている。今度会ったらただでは済みそうにない。もう化けるのはよそう。
「こらーっ!」
ナ、ナンダ!!
「土足で上がって、何してるの!」
しまった。とばっちりが来た。大分冷静になってきたみたいだ。
吊り上がっていた目が、大分下がってきている。
バシ、バシ、バシー。丸め新聞紙のお見舞い。けれども完全装備のお陰で全然痛くはないそのまま外に飛び出してサヤカを迎えに走った。
ゴキブリは われらの心の 拠り所
頭の一つも 撫でて叩こうぜ
ち ふ
つづく