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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
平成はじめの頃です。
* あゆかさんの怪
あゆかさんが、アル中になりつつある。この間もこうだった。
「おい、ドン作! エテ公! 安い給料であまり威張るな」
ドン作とは、休人のアダナである。根がドン臭いものだから、皆からこう呼ばれている40を過ぎた一人前の男の呼び名にしては、軽すぎる。しかし、これも奴の身から流れ出す錆、致し方あるまい。彼は、アルコールに滅法弱い。
古来より、下戸は猿に見えるようだ。実際は、赤い顔して、顔を歪めて、わめき散らす酒飲みの方が、よっぽど猿に似ているように思うのだが・・・
それにしても、あゆかさんの酔った姿は色っぽい。
「酒はなあ。酔い泣きしながら、飲むに限る。おい、ドン作。何で、私を嫁なんかに、した。か弱き乙女、世間知らずのこの私を、よくも誑かしてくれたな」
休人は何も答えない。悲しそうな目をして、ただあゆかを眺めるだけである。
「そんなに見つめるな。気持ち悪い。その目つき何とかならないのか。
ぼっとつっ立ってないで、茶わんの一つでも洗っておけよ」
「まだ、ご飯食べてないのだけれど・・・」
「ナニっ! 飯だと。今、何時だと思っているんだ。9時までには帰ってこい」
「残業があったので」
「残業。お前、会社で真面目に仕事やってるのか。要領が悪いから、5時までに仕事が片づかないんだろ。昼間、ちゃらんぽらんに働いているから、ずるずると残業なんかするハメになるんだ。そんな姿勢でいるから、いつまで経っても、うだつがあがらないじゃねぇのか。手抜いて、エエ加減な態度で勤めているから、いつまで経ってもヒラのままじゃないのか!」
「そんなこと言われても、団塊の世代は、どこの会社でも肩書き無しが多いんだよ。あっても、名目だけだと言うよ。会社にはヘッドが一つでいいとも言う。
ヘッドとは、会長や社長だろ。それ以外は、気のきいた木偶でいいんだ。それに、会社の地位なんて、私の自由になる訳じゃない。どこかで、誰かが決めていることなんだ」
「アホ! そんなに大きい会社じゃあるまいし。決める者も知らないから、おべっかの一つも言えないんだ。家族の為を思うんだったら、もっとしっかりしろよ。
もっと気をきかせ! 子供たちの調査書、書くときの私の恥ずかしさが分かるか。役職欄に何も書けない恥ずかしさが分かるんかい。
お前は、学校なんか関係ないって顔しているけど、しょっちゅう学校に顔を出さなければならない、私の立場を考えてみろ。どの面下げて、顔出せばいいんだ」
わっ、これは、もうあゆかさんではない。オニだ。悪魔だ。あんまりだ。
休人は、そんなに賢くはないが、バカ呼ばわりするほどじゃない。
彼の力では、どうしようもないに違いない。それを、そんなにきつくポンポン言わなくてもいいと思うんだけど・・・
「あーあ、あんたと結婚するとき、あんな人止しなさいと、母に言われたの、
素直に聞いとけばよかった」
しゅーん。あゆかさんが、鼻をかんでいる。ゲンメツ!
「あゆか、もうウィスキーは、よしたら」
「じゃあ、冷蔵庫から、冷えたビール取ってきて!」
「アルコールは、もうお止めよ」
「何よ! 私だって、好き好んで、飲んでいる訳じゃないのよ。飲まなければ、やっていけないような所へ追い込んだのは、一体どこのどなたなのよっ!!」
「何が不服なのかい?」
「何がって! もっ、無神経なんだから! 何もかもよ。今の生活、すべてよ。私は、小間使いなの? 召使なの? 私は、だいたい何なのよ」
「あゆかだろ」
「バカ! 間抜け! あんたと話していると余計イライラするわ。ビール取って来て、どこへでもいいから、私の前から消え失せてっ!」
もう、手がつけられない。あの優しくて上品で、旦那思い、子供思いのあゆかさんの心は、どうなってしまったのだろうか。
これは悪霊の仕業だ。あゆかさんに、悪霊が取りついたに違いない。
つい、この間までのあゆかさんは、こうだった。
つづく
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
平成はじめの頃です。
* あゆかさんの怪
あゆかさんが、アル中になりつつある。この間もこうだった。
「おい、ドン作! エテ公! 安い給料であまり威張るな」
ドン作とは、休人のアダナである。根がドン臭いものだから、皆からこう呼ばれている40を過ぎた一人前の男の呼び名にしては、軽すぎる。しかし、これも奴の身から流れ出す錆、致し方あるまい。彼は、アルコールに滅法弱い。
古来より、下戸は猿に見えるようだ。実際は、赤い顔して、顔を歪めて、わめき散らす酒飲みの方が、よっぽど猿に似ているように思うのだが・・・
それにしても、あゆかさんの酔った姿は色っぽい。
「酒はなあ。酔い泣きしながら、飲むに限る。おい、ドン作。何で、私を嫁なんかに、した。か弱き乙女、世間知らずのこの私を、よくも誑かしてくれたな」
休人は何も答えない。悲しそうな目をして、ただあゆかを眺めるだけである。
「そんなに見つめるな。気持ち悪い。その目つき何とかならないのか。
ぼっとつっ立ってないで、茶わんの一つでも洗っておけよ」
「まだ、ご飯食べてないのだけれど・・・」
「ナニっ! 飯だと。今、何時だと思っているんだ。9時までには帰ってこい」
「残業があったので」
「残業。お前、会社で真面目に仕事やってるのか。要領が悪いから、5時までに仕事が片づかないんだろ。昼間、ちゃらんぽらんに働いているから、ずるずると残業なんかするハメになるんだ。そんな姿勢でいるから、いつまで経っても、うだつがあがらないじゃねぇのか。手抜いて、エエ加減な態度で勤めているから、いつまで経ってもヒラのままじゃないのか!」
「そんなこと言われても、団塊の世代は、どこの会社でも肩書き無しが多いんだよ。あっても、名目だけだと言うよ。会社にはヘッドが一つでいいとも言う。
ヘッドとは、会長や社長だろ。それ以外は、気のきいた木偶でいいんだ。それに、会社の地位なんて、私の自由になる訳じゃない。どこかで、誰かが決めていることなんだ」
「アホ! そんなに大きい会社じゃあるまいし。決める者も知らないから、おべっかの一つも言えないんだ。家族の為を思うんだったら、もっとしっかりしろよ。
もっと気をきかせ! 子供たちの調査書、書くときの私の恥ずかしさが分かるか。役職欄に何も書けない恥ずかしさが分かるんかい。
お前は、学校なんか関係ないって顔しているけど、しょっちゅう学校に顔を出さなければならない、私の立場を考えてみろ。どの面下げて、顔出せばいいんだ」
わっ、これは、もうあゆかさんではない。オニだ。悪魔だ。あんまりだ。
休人は、そんなに賢くはないが、バカ呼ばわりするほどじゃない。
彼の力では、どうしようもないに違いない。それを、そんなにきつくポンポン言わなくてもいいと思うんだけど・・・
「あーあ、あんたと結婚するとき、あんな人止しなさいと、母に言われたの、
素直に聞いとけばよかった」
しゅーん。あゆかさんが、鼻をかんでいる。ゲンメツ!
「あゆか、もうウィスキーは、よしたら」
「じゃあ、冷蔵庫から、冷えたビール取ってきて!」
「アルコールは、もうお止めよ」
「何よ! 私だって、好き好んで、飲んでいる訳じゃないのよ。飲まなければ、やっていけないような所へ追い込んだのは、一体どこのどなたなのよっ!!」
「何が不服なのかい?」
「何がって! もっ、無神経なんだから! 何もかもよ。今の生活、すべてよ。私は、小間使いなの? 召使なの? 私は、だいたい何なのよ」
「あゆかだろ」
「バカ! 間抜け! あんたと話していると余計イライラするわ。ビール取って来て、どこへでもいいから、私の前から消え失せてっ!」
もう、手がつけられない。あの優しくて上品で、旦那思い、子供思いのあゆかさんの心は、どうなってしまったのだろうか。
これは悪霊の仕業だ。あゆかさんに、悪霊が取りついたに違いない。
つい、この間までのあゆかさんは、こうだった。
つづく