小林真 ブログ―カロンタンのいない部屋から since 2006

2006年開設の雑記ブログを2022年1月に市議当選でタイトル更新しました。カロンタンは40歳の時に飼い始めたねこです

カラックスのデヴィッド・ボウイ(2009年のネットラジオ―その1<accuradio> )

2009-01-18 22:12:57 | 音楽
今回はジャンル「音楽」の記事が書けました。

・・・

「ラジオの音楽」で忘れられないのは、レオス・カラックス監督1986年作『汚れた血 Mauvais sang』の一シーンだ。ひょっとしたら大女優のキャリアでもベストのショットとさえ思える赤と黒のやわらかで完璧な絵の中、虚空を見上げるジュリエット・ビノシュが視線を落とすとドニ・ラヴァン:アレックスがつぶやく。定かでないが、最初にみたビデオ版の日本語字幕はこうだった。

「ラジオはいい……こうすれば、いつでも音楽が始まる……」



"Voila, ecoutons..."
懐かしい荒々しさでダイヤルが回されてすぐにかかるシャンソンが何という曲かは知らない。緊張に耐えられないように部屋を出るアレックスの吐き出す煙草の煙は何度みても完璧な流れを引くが、観客はやがてここまでのシークエンスがすべてその後の一瞬のために用意されていたことを知る。デヴィッド・ボウイ『モダン・ラヴ』、スティーヴィー・レイ・ヴォーンの奇矯なカッティングが画面をつんざき、アレックスが走り出した数秒後だ。

ラジオは音楽に対して特権を持っている。たとえその曲の音源を持っていたとしても、自分で選んできくよりしばしばよくきこえるのはなぜか。ダイヤルを回す前のアレックスの言葉を借りれば、ラジオは「魔法―C'est magique.」なのだ。確かにわれわれはすばらしい音楽を「ききたい」。しかも実は、そういう音楽を、「きかされたい」のではないか。

1980年代の終わりにみた「カラックスのデヴィッド・ボウイ」が私にとってショックだったのには、当時の個人的と社会的、両方の音楽環境から、私自身が「ラジオの音楽」に興味を失っていたことも大きかったように思う。
大学を出たのが1987年。CDプレイヤーを買ったのもその頃だ。CDは買ったし借りたりもした。姿を消しつつある小規模レンタル店で叩き値のアナログ盤も買っている。たいした額ではなかったが給料ももらうようになって、音源購入費も増えていたのだろう。そんな中、学生時代のようにFMをエアチェックするということもなくなっていた。
当時は関東地方でも、FMが2局しかなかったことも忘れてはいけない。東京2局目のFM局としてJ-WAVEがスタートしたのが1988年。20年前のことでつい忘れがちだが、当時は関東でNHKとFM東京のみしかなく、それでも時間通りに家に帰って、BHFとかAD、UDとかのカセットに宝のような音楽を録音したものだ。
野球ファンだった私のラジオデビューは、ご多分に漏れず野球延長の続きだった。北関東でよく入るTBSで、『夜のミステリー』なんかに興味を持ったのが最初ではないか。それからテレビの『欽どん』と連動したのか、ニッポン放送をよくきくようになった。
高島秀武(当時)から、中学に入る頃には、落合恵子、かぜ耕士らをきくようになる。テレビできく音楽より、ラジオできく音楽の方がいい、ということに気がついたのはこの頃だ。
具体的な曲名をあげよう。中島みゆき『時代』、チューリップ『風のメロディ』、洋楽ではオリビア・ニュートンジョン『ジョリーン』、シカゴ『愛ある別れ』……。たとえばシカゴなら『長い夜』を知ったのはもっとずっと後で、落合恵子がつぶやく『愛ある別れ』、"If you leave me now"の状況を、おそらく赤城おろしがごうごうきこえる旧い家の二階できいていた。「ロック」と「フォーク」と「ディスコ」の違いもわからずラジオからきこえていたあの取り戻せない栄光は、音楽は携帯できくのが常識の若い世代からも、奪ってはいけないものと思う。
AMとFM2局あれば十分だった。ものごとがわかるようになるにつれ、二つ上の姉が好きだった甲斐よしひろのほか、午後のNHKの東郷かおる子、オールナイトニッポン2部の近田春夫、農村から地方都市に出た高校時代からは渋谷陽一、その後、大滝詠一、佐野元春、途中『ミスDJリクエストパレード』などという軟派な番組にうつつを抜かしたりもしたが、大学に入って東京に行ってからは、これはけっこうきいた元ゼルダ、小島さちほのNHK午後とか、同じ頃か萩原健太、車に乗ればFENなんかもきいていた。
しかし、数々の音楽雑誌からも情報を得、CD、レコードも買えるようになっていた1980年代の終わり。私はラジオから遠ざかっていて、だからこそアレックスが「J'aime bien radio.(僕はラジオが好きだ)」とつぶやく「カラックスのデヴィッド・ボウイ」が衝撃だったのだ。
そして車にもFMが当たり前になった1990年代以降、北関東では入りにくいJ-WAVEで私のラジオルネサンスが起こる。いまもある小曽根真のほか、細野晴臣、くるり、スガシカオ、大貫妙子、菊地成孔、音楽以外の部分でモーリー・ロバートソンらの番組は楽しみにきいていたが、最近はどうにも若者狙いのレベルの低い番組が多くなってきたのが残念だ。
その点、さすがにスポンサーのないNHKはけっこうがんばっている。老舗、渋谷陽一のほか、いつからやっているのか、これはいまもっともききたいピーター・バラカン、はがきで当たればいいので多分10回くらい行っていて毎週録音してきいている『ライブビート』、それと夏や冬の民放にはまねのしようのない贅沢な特別番組と、考えてみればそれなりにきいているな。

ともかく、私だけではない。あふれるほどの音源を持つ音楽ファンの多くは、それでも時々ラジオに耳を傾ける。それは「きかされる」ということのほかのもう一つの魔法、すなわち「知らない」曲がきけるからにほかならない。

そして21世紀に入ると、ルネサンスどころか、市民革命級といえるラジオに出会うことになる。ADSL導入、インターネットつなぎっぱなしで心置きなくきけるようになったネットラジオ。なんといっても、J-WAVEだNHKだの話ではない。膨大な音源がいつでも鳴っているのである。
最初は Mediaplayer にあった「ラジオステーションガイド」から局を探し、今回の主役の一つである Accuradio
http://www.accuradio.com/
をはじめ、VH1、これは母体が変わったらしい Virgin Radio、BBCなど国営系もけっこう充実していた。
無料できけることに対してCD業界からの反対もあったようで、よくきいていたMSN、Yahooとも撤退している。しかし私としてもMSNで知った Cat Power をその後も何枚か買ったのをはじめネットラジオ購入のCDは少なくないから、Accuradio あたりが主張するセールスへの貢献も小さくはないだろう。

というわけで、確か2002年くらいからだから、もう5、6年はきいているネットラジオで、さらに昨年、二段階革命の「1.5」くらいが起こる。Accuradio Multichannel を知ったことだ。
Rock, Pop, Jazz, Classical...など10以上のチャンネルの下に多くのサブチャンネルを持つ Accuradio はそれだけでも十分魅力的だ。中でも、最新ナンバーが次々にかかる Listening Post、クラシックならロマン派以降に絞った Romantic Piriod、これはちょっとほかにないラテンジャズ専門の Latin Illusion などには舌を巻いてきた。
しかし、自宅仕事中はほとんど音楽を流している私は、ロックだけでなく時々はポップスも、ジャズもクラシックもソウルもききたいというファンには、たとえばベン・フォールズファイブの次にバド・パウエル、そしてワーグナーと続くようなそんなラジオがあればいいとよく思っていた。
そして、それをかんたんに実現したのが Multichannel
http://www.accuradio.com/build/
なのだ。いまもきいているが、さっきまでかっかっていたのはコルトレーンで今はガンズアンドローゼス。なお、私が選んでいるサブチャンネルは次の通りである。

Classical: Avant-Garde, Romantic Period
Jazz: Accujazz, Latin Illusion
Brit Rock
Celtic
Classic Rock Days
Classic Soul
70's Shuffle
1968-79
Listening Post
Modern Rock Classic
Latin Jazz
World Music

参考までに、昨日記録しておいた数時間の流れは、
Fleetwood Mac~Oisin McAuley(ケルトの人)~Marvin Gaye~Doobie Brothers~George Crumb(前衛だった)~Lionel Hampton(ブルースかジャズ1976)~Chopin~David Bowie~The Horace Silver Quintet(ジャズ1964)~Ari Hoenig(ジャズギター2008)~Brahms~Apocalyptica feat. Adam Gontier(西海岸かな2008)~Black 47 with Suzzy Roche(アイリッシュかな2004)

( )の中は私が知らなかったアーティストで、このくらいの割合でちょうどいい。「知らない音楽」がかかるのはラジオの魔法のすばらしさ。
このブログ記事も、Accuradio でかかったから、というパターンは多くなっているが、それもみんな魔法のおかげだろう。

今かかってるので、おっ、ピアソラかなと思ったら、Barenboim / Mederos / Console というミュージシャンの1996年の作品。こういうのはとくに、あまりよく知らない現代ジャズでよくあって、そのたびにラジオの魔法に酔いしれる。おっ、今、この4ビートも新しいかなと思ったらモンク1952年の作品でした。

と、本当は、こちらは年明け6日に出会った imeem についても書こうと思っていたのだが。ここまでで長くなりましたので、以下後編に続くにします。多分、今週週間日記の後になるでしょう。
お、今、Pearl Jam。イントロのギターでは、レッチリかな、フルシアンテにしちゃあちょっと硬いなあなんて思ってました。

(BGMはもちろんAccuradioのほか、 imeem のプレイリストもきいてました)

One of the listeners of Accuradio 01/12 13:35



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