温暖化ガスの排出量を実質的にゼロとする目標に向け、世界の金融機関の有志連合
「グラスゴー金融同盟(GFANZ)」の下に業界別の団体が設立された=ロイター
脱炭素をめざす国際的な枠組みから米国の大手金融機関が相次ぎ脱退している。7日には米大手6行のなかで唯一残っていたJPモルガン・チェースも離脱を表明した。
気候変動対応に後ろ向きなトランプ次期米大統領の就任を20日に控え、政治的な配慮を優先した格好だ。
脱退の動きが広がっているのは、2050年までに温暖化ガスの排出量を実質的にゼロとすることを目標に掲げる国際的な銀行連合「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」だ。
現時点で141の金融機関が加盟し、各行はネットゼロに向けて具体的な投融資の目標を定めている。
米国では24年12月から25年1月初めにかけてゴールドマン・サックスやウェルズ・ファーゴ、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレーが相次いで離脱を決めていた。
かねて共和党内ではNZBAの加盟行が石油・ガス企業への融資を縮小するとの警戒感が強く、強硬派の議員からは独占禁止法に違反しているとの声が上がっていた。
共和が優勢な州では近年、年金運用の委託や地方債の引受先から気候変動への対応に熱心な金融機関を外す動きも出ていた。
補助金などを通じた再生可能エネルギーの普及に力を入れてきた民主党のバイデン政権から打って変わり、トランプ氏は気候変動の問題を軽視し、化石燃料の採掘拡大をめざす。
銀行側はさらなる非難を浴びたり、ビジネスチャンスを失ったりするリスクが高まっているとの判断から離脱に動いたとみられる。
欧州など他の先進国では脱炭素の取り組みを続ける金融機関が多い。
グローバルに展開する米銀も「気候変動への対応に後ろ向き」と受け止められれば、米国外で気候変動関連の商機を逃しかねないジレンマを抱える。
NZBAから離脱しても脱炭素の目標は維持するという苦しい説明を強いられている。
日本では三菱UFJフィナンシャル・グループなど3メガバンクに加え、野村ホールディングスと三井住友トラストグループ、農林中央金庫の6社が加盟している。
現時点で具体的に脱退を検討する動きはないが、「米銀が抜けたネットワークに入っている意味はあるのか」と早くも疑問視する声が上がっている。
「年始から頭を悩ませている」。ある大手銀行の幹部は対応に苦慮していると打ち明ける。
世界的には金融機関の有志連合「グラスゴー金融同盟(GFANZ)」の下に業界別の団体が設立されたが、日本の金融機関も国際的な枠組みからの離脱を迫られた前例がある。NZBAの保険版である「ネットゼロ・インシュアランス・アライアンス(NZIA)」だ。
23年5月にテキサスなど保守色が強い全米23州の司法長官が連名でNZIAに対して「商品やサービスの高コスト化を引き起こし、住民に経済的苦境をもたらしている」と批判。設立メンバーだった仏アクサや独アリアンツが脱退すると、日本からは東京海上ホールディングスなど大手3社が離脱した経緯がある。
日本の生命保険会社も加盟するアセットオーナーの団体「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス(NZAOA)」では撤退の動きは広がっていない。日本生命保険なども「現時点で脱退を検討していない」としている。
国際的な枠組みから脱退しても、脱炭素に向けた取り組みの重要性は変わらない。それでもメンバーとして具体的な目標を定めて対外的に公約し、進捗状況を報告する取り組みが後退を余儀なくされる危うさをはらんでいる。
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2025.1.8より引用