NATOは13日の国防相会合で、加盟国の国防費支出目標を引き上げる検討を本格化させた(ブリュッセル)=ロイター
【ブリュッセル=辻隆史、飛田臨太郎】
北大西洋条約機構(NATO)は13日の国防相会合で、加盟国の国防費目標を引き上げる議論に着手した。米国はこれまで国内総生産(GDP)比2%以上としてきた目標を、5%に改めるよう正式に求めた。
「トランプ大統領は(ウクライナを巡る停戦を保障するための)欧州各国の強さを明確に望んでいる」。ヘグセス米国防長官は会合後の記者会見でこう強調した。「緊急性が高い」とも述べた。理由として早期停戦をめざすウクライナ情勢と中国の二つを挙げた。
米国以外のNATO加盟国が軍備増強を進めなければ、停戦の前提となるロシアの再侵略を防ぐ抑止力が確保できないとみる。
中国に対応するため、欧州からインド太平洋地域に軍事力をシフトすると説明した。「インド太平洋における抑止は、米国が主導しなければ実現できない」と説いた。
ウクライナへの軍事支援の金額は米国が突出して大きい。国防費もGDP比で3%超を支出する。ヘグセス氏は「トランプ氏は、米国をカモにするようなことは誰にも許さない」と言い放ちブリュッセルのNATO本部を去った。
NATOが現目標を「2%」とした根拠は、1991〜2003年に加盟国の軍事費の中央値が2.05%だったためだ。足元の安全保障環境での必要に応じて厳密に算出した数字ではない。
NATOのルッテ事務総長は会合後の記者会見で、米国の主張に理解を示した。「少なくともGDP比3%以上でなければならない。米国からの負担のシフトが必要だ」と訴えた。
ルッテ氏もこれまで、欧州の加盟国が責任感をもって自らの安保に支出すべきだと繰り返し説いてきた。
ルッテ氏は1月13日、欧州連合(EU)の立法機関である欧州議会の委員会で、NATOの軍事能力の目標を達成するためには最大3.7%を国防費に充てなければならないと分析した。
実際に加盟国が目標を引き上げるのは容易ではない。32の加盟国のうち約3分の1は2%の目標すら達成できていない。1%台のベルギーやスペインなどは厳しい財政のなか、国防費を捻出するために歳出削減や増税といった対応を迫られる。
現在、5%を実現した国はない。最も目標に近いとされるポーランドは、25年に4.7%への引き上げを計画する。
同国のコシニャクカミシュ国防相は1月12日、英紙フィナンシャル・タイムズとのインタビューで、NATO全体での5%達成は「10年はかかる」としつつも評価した。
ロシアと国境を接するポーランドや北欧、バルト3国の国々の危機感は強く、NATOの国防費増加のけん引役となっている。
新たな国防費目標は、6月にオランダ・ハーグで開くNATO首脳会議で決定する見通し。新目標の決定には全加盟国による「コンセンサス(同意)」がいる。
国防費目標に達しなくても罰則はない。ただ欧州のNATO加盟国が明確な成果を米国に示せない場合、トランプ氏のさらなるNATO不信を招くリスクがある。
ルッテ氏は24年12月の講演で、防衛への投資を怠れば「安全を失い、子や孫の自由や学校、ビジネスもなくなる」と指摘し、各国の政治家が国民を説得すべきだとの考えを示した。
首脳会議での決着に向け、目標値や目標年を巡る駆け引きが本格化する。加盟国間だけでなく、加盟国内の賛否も分かれるテーマだけに合意形成の難しさは増す。
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