トランプ米大統領㊧と中国の習近平国家主席との神経戦が続く(大阪、2019年6月)=共同
【北京=塩崎健太郎】
米国と中国が関税の引き上げ合戦に動き始めた。貿易戦争の再来を懸念する声もあるが、双方ともに初手は抑制的にとどめており、有利な条件を引き出そうとする「ディール(取引)」の応酬の面も否めない。
それぞれ「次の矢」を残したかたちで、世界経済は米中間の神経戦に当面振り回されそうだ。
中国、関税プラスαで報復
トランプ米政権の対中追加関税に対し、中国の習近平(シー・ジンピン)指導部も即座に報復措置を打ち出した。
中国政府が4日発表した対抗策は関税引き上げに重要鉱物の輸出規制、米企業への調査を組み合わせた複合的なものとなった。
関税自体は第1次トランプ政権時に発動した内容と比べ、対象品目は少なく税率も小幅だ。
前回は大豆や牛肉といった農畜産物、自動車、液化天然ガス(LNG)など幅広い540品目以上で最大25%の関税をかけた。今回は石炭とLNG、農業機械など計80品目に限り、追加税率も最大15%にとどめた。
トランプ氏の支持基盤であるエネルギー企業や農家に照準を絞った。最初から全面的な報復に動くのではなく、まずトランプ政権に関連業界からどういった反応が出るか確認する狙いとみられる。
今回は関税以外の対米報復策も打ち出した。
米グーグルに独禁調査
中国商務省と税関総署が4日からタングステンやモリブデンなどの重要鉱物を輸出規制の対象に加えた。
たとえばタングステンは車や医療など幅広い産業で使うが、中国当局の許可がない限り、企業は米国に輸出できなくなる。
米国が強みを持つテック企業への締め付けも強める。
国家市場監督管理総局は独占禁止法違反の疑いで米グーグルの調査に乗り出す。
グーグルの検索エンジンは中国で使えないが、同社と親会社のアルファベットは広告やスマホ向け基本ソフト(OS)で中国企業と密接だ。中国企業に不当な要求をしていないかどうかを調べるもようだ。
英フィナンシャルタイムズによると、中国当局は半導体大手のエヌビディアに続き、同業のインテルに対する独禁法調査も検討し始めた。
中国の対米貿易は輸出額が輸入額を大きく上回っており、報復関税を打ち出すほどもろ刃の剣となって自国経済に跳ね返りやすい。その点、重要鉱物の輸出、テック企業の調査は当局の裁量が働きやすく、指導部や政府の意思を介在させやすい。
中国は経済圧力の手段として、関税以外にもフリーハンドを広げようとしている節がある。
何より中国側は今回、米国産の大豆やトウモロコシへの関税を引き上げなかった。米国が対中関税を今後大幅に引き上げた際の対抗手段として、温存しているとの指摘もある。
中国は世界最大の大豆消費国で、米国からの輸入は全体の2割を占める。すでに米農家のなかには18〜19年の貿易戦争の経験から、中国による関税上げの影響を危惧する声が上がっている。
トランプ氏「まだ口火切っただけ」
対する米国も追加措置に動く気配を見せる。
トランプ大統領は3日「まだ口火を切ったにすぎない。中国と合意できない場合、関税は非常に高くなるだろう」と述べ、さらなる税率引き上げの可能性を示唆した。
トランプ氏は大統領選からの公約で「60%の対中追加関税」を掲げている。米議会では与党・共和党議員が中国の最恵国待遇(MFN)を剝奪し、関税を大幅に引き上げる法案をまとめた。
米国内では中国が鉄鋼や電気自動車(EV)の不当廉売に動いているとの不満は根強い。トランプ氏の強硬政策には追い風が吹いており、MFNの撤回となれば一定の製品に的を絞った制裁関税よりも広範な貿易戦争を引き起こす恐れがある。
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