ショルツ政権の政策不透明感もドイツ企業が投資を手控える一因だ=ロイター
【ベルリン=南毅郎】
欧州最大の経済大国ドイツで景気回復の遅れが目立っている。ドイツ政府の試算では2024年の実質成長率は0.3%と振るわず、日本を含む主要7カ国(G7)で最低になる見通しだ。ショルツ政権への不信から産業空洞化の懸念も影を落とす。
「生産性と潜在成長率の見通しが非常に低い。中長期的に高成長を実現するには構造変化が必要だ」
ハベック経済・気候相は24日、春の景気予測の発表で危機感を訴えた。景気は底打ちして緩やかに持ち直す想定だが、24年の実質成長率の見通しは0.3%と従来の2月時点から0.1%の上方修正にとどまる。
想定より長引く低空飛行はショルツ政権にとって大きな誤算だ。
ロシアがウクライナに侵略した後、22年秋の時点では成長率が24年に2%台まで戻る姿を描いていた。
ドイツ経済の苦境は先進国の中で際立つ。23年に名目の国内総生産(GDP)はドル建てで日本を超え、米国と中国に次ぐ世界3位に浮上したものの実質成長率では日本を下回る可能性がある。
国際通貨基金(IMF)が4月に公表した24年の経済見通しでは、フランスとイタリアの0.7%や日本の0.9%を下回った。ユーロ圏全体の0.8%より低く、ドイツの低迷が欧州経済の足を引っ張る。
景気低迷の主因は、インフレや欧州中央銀行(ECB)の利上げの影響だ。
ドイツ連邦統計庁が30日発表する1〜3月期のGDPは、市場予想で前期比0.1%増と小幅なプラス成長になりそうだ。23年10〜12月期は0.3%減で、2四半期連続のマイナス成長となるかの瀬戸際にある。
ドイツ経済が持続的に改善する兆しはまだ見えていない。今春にかけて鉱工業生産は持ち直したが、建設需要などは冷え込んだままだ。
ドイツ政府は賃上げとインフレ鈍化による消費の持ち直しで景気回復のシナリオを見込むものの、直近2月の独小売売上高は前月比1.9%減とユーロ圏20カ国で最も落ち込んだ。
より深刻なのは、ショルツ政権に対する政治不信の高まりだ。ドイツ連邦銀行(中央銀行)は「経済政策の不確実性の高まりが企業の投資を抑えている」と分析する。
「失われた2年だった」。日本の経団連に相当するドイツ産業連盟(BDI)のジークフリート・ルスブルム会長は4月、南ドイツ新聞とのインタビューでショルツ政権を痛烈に批判した。
欧州各国と比べた成長の遅れから、有効な経済対策を打てない独政府を非難する。
主要産業の自動車業界でも混乱は目立つ。ドイツの電気自動車(EV)販売は3月、前年同月比29%減の3万1000台だった。
23年末にEV購入の補助金が打ち切られた余波で、EVの販売台数が初めてフランスを下回った。
ドイツ経済の苦境は外交姿勢にも映る。ショルツ首相は16日、最大の貿易相手国である中国を訪れて「中国企業の対独投資を歓迎する」と経済重視の姿勢を前面に打ち出した。
一連の訪中には高級車大手BMW社長らドイツの代表企業10社以上の幹部も同行した。
企業向けの電気料金は米国や日本より高く、産業界は立地拠点としての競争力低下に身構える。
ドイツ経済研究所(IW)によると、ドイツへの直接投資額は23年に218億ユーロ(約3.7兆円)と14年以来の低水準だった。海外向け直接投資は5倍超の1159億ユーロで流出超過が続く。
IWのシニアエコノミスト、クリスチャン・ルッシェ氏は「政治が現状のままであれば産業空洞化が大幅に加速する可能性がある」と指摘する。
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日経記事2024.04.29より引用