22年に稼働させたジャクソン火力発電所については権益を保有し続ける(米イリノイ州)
Jパワーが米国で火力発電事業を縮小する。
権益を保有する11の火力発電所のうち、老朽化などで発電効率が低くなった拠点を売却する方針だ。対象は最大で9カ所になる可能性がある。売却で得る資金は海外の再生可能エネルギー発電の開発に充て、電源構成を入れ替える。
海外事業を担当する関根良二副社長が日本経済新聞の取材で明らかにした。
Jパワーは米国では11の火力発電所の権益を保有している。2023年度末時点で合計出力は251万キロワットと、同社の海外事業ではタイに次ぐ規模だ。
18年に営業運転を始めたウェストモアランド火力発電所(東部ペンシルベニア州)と、22年に稼働させたジャクソン火力発電所(中西部イリノイ州)については発電効率が高いとして権益を保有し続ける。
残る9拠点について売却するかどうかを判断し、24年度中にも一部で売却先を決める。
売却候補の9拠点のうち、すでに米中部オクラホマ州のグリーンカントリー発電所については保有する50%の権益のすべてを25年6月末までに地元の電力事業者に売却すると公表している。
取引が成立した場合には26年3月期に売却益を計上する。
脱炭素を掲げるバイデン米政権は火力発電に対する規制を強めつつある。
24年4月には火力発電所の温暖化ガス排出量の削減を義務付ける新たな規則を公表した。長期稼働を予定する石炭火力と新設のガス火力の発電所では二酸化炭素(CO2)を分離回収する設備などへの追加投資が必要になる。
Jパワーが権益を保有する既存のガス火力発電所は現時点では規制の対象外だが、米政府は今後新たな基準を策定する方針だ。
Jパワーは中長期的に米国事業の収益環境が悪化するとみて規模の縮小を決めた。人工知能(AI)ブームに伴ってデータセンター向けの電力需要が拡大し、発電所の購入に関心を示す企業が増えていることも売却に向けた判断を後押しした。
Jパワーの海外事業は現状、発電能力の約9割を火力が占める。脱炭素の流れに対応するため、売却で得た資金は海外の再エネ発電の開発に投じる。
関根副社長は「先進国では再エネ電源の開発後に権益を売却して新規投資に充てる『回転型』に注力する。資産効率を高めながら電源構成を切り替えていく」と述べた。
特に注力するのがオーストラリアだ。8月には約370億円を投じて現地で再エネ電源開発を手掛けるジェネックスパワーの全株式を取得した。
同社は同国内で大規模な蓄電池や太陽光発電設備を持ち、州営の電力会社などを顧客に持つ。
ジェネックスパワーはすでに15万キロワット分の再エネ電源を稼働させている。陸上風力や太陽光発電などを増設して、20年代後半に新たに130万キロワット分を開発する。
発電所は共同出資で開発する計画で、Jパワー側の投資額は400億円を見込む。地元政府との調整や用地取得などでジェネックスパワーの知見を生かす。
東南アジアでは水力発電の電源を新たに開発する。
フィリピンやインドネシア、ベトナムなどが候補地となる。先進国では再エネ電源を開発後に売却するモデルで規模を拡大するが、東南アジアでは電源の保有を続けて収益を確保する。
Jパワーは1960年代から南米ペルーで発電所建設のコンサルティング事業を始めるなど、国内電力大手のなかでは早くから海外事業を伸ばしてきた。
24年3月期の同事業の売上高経常利益率は17%と、会社全体(9.4%)をけん引する稼ぎ頭となっている。
国内では青森県内に建設中の大間原子力発電所の稼働が30年度に遅れ、投資が先行している。
主力の石炭火力もアンモニアとの混焼など脱炭素に向けた投資負担が重く、国内の成長余地は限られる。今後は再エネ発電の拡大によって海外事業の経常利益を30年度に現在の2倍の600億円規模に伸ばす目標だ。
(泉洸希)