グリーン水素の事業「CQ-H2」は丸紅や岩谷産業が参画を予定している=AAP
【シドニー=今橋瑠璃華】
オーストラリア東部のクイーンズランド(QLD)州政府は3日、再生可能エネルギーでつくる「グリーン水素」事業への追加出資を取りやめると発表した。
丸紅など日本企業が参画している。事業が頓挫する懸念も出てきた。米国ではトランプ大統領が化石燃料の活用に意欲的で再生可能エネルギーの活用に対する逆風が世界で強まる。
州政府が所有するエネルギー企業スタンウェルと丸紅や岩谷産業などが組み、2028年をめどに年間7万トンのグリーン水素を製造する計画だった。
グリーン水素は太陽光や風力といった再生エネ電気で水を分解して作られ、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない。
日豪が水素のサプライチェーン(供給網)を共同で発展させる構想だった。
豪州で最も進んだグリーン水素プロジェクトの1つとされ、豪州政府は23年12月に同プロジェクトを最大20億豪ドル(約1900億円)の補助金支給対象の候補に選定した。
ただ同州では24年の州議会選挙で与党・労働党が敗れて9年ぶりに政権交代し、10月に保守系の自由国民党政権が誕生した。
新政権は、環境問題に関心の高い労働党が進めてきたグリーン水素プロジェクトは採算の見込みがなく、補助金の対象にすべきではないと判断した。
QLD州のジャネツキ財務相兼エネルギー相は「(プロジェクトへの)投資は州政府の目標と合致しない」と説明。
同氏によると、スタンウェルから水や港、送電のインフラ整備などのため10億豪ドル以上の追加出資を求められていた。豪メディアは、プロジェクトが新たな大口投資家を確保しない限り、継続は困難と報じる。
連邦政府のボーウェン気候変動・エネルギー相は3日、日本経済新聞に「プロジェクトは9000人の関連雇用と89億豪ドルの経済効果を生み出すもので、(州政府の)資金引き揚げは驚きであり、失望する」と述べた
。一方で「どのようにプロジェクトを進めるかは、最終的には関係者のビジネス上の判断に委ねられる」とした。
豪メディアによると、当初125億豪ドルとされた建設費は、22年の実現可能性調査では147億5000万豪ドルに上昇していた。日豪政府や民間企業がすでに1億豪ドル以上の資金を投入している。
関西電力はすでに撤退決定、採算合わず
水素を引き受ける予定だった関西電力はすでに撤退を決めた。製造コストが想定以上に高く、採算に合わないと判断した。
丸紅は現状、事業を継続するかどうか協議している段階だ。同社は3日、「補助金を打ち切るという報道に関して承知しており、関係者にて内容確認および協議をしている」とコメントした。岩谷産業も「関係者にて今後の対応を協議中」としている。
米国でトランプ新政権が発足し、脱炭素への風当たりは世界的に強まりつつある。トランプ氏は気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を決め、大統領令へ署名したほか、再生可能エネへの政府支援を大幅に縮小することも掲げる。
豪州でも24年以降にグリーン水素プロジェクトの見直しが相次いでいる。採算面での課題が多いほか、急速に脱炭素を進めてきたことへの反動の面もある。トランプ新政権の発足を受けて脱炭素の先行きには一段と不透明感が強まっており、関電や丸紅といった日本の電力大手や商社のみならず、幅広い企業が戦略の見直しを迫られる恐れがある。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
わが国が世界に先駆けて開発してきた水素は、日本が中心となって世界のエネルギー環境を一変させると考えていました。
しかし残念な事にこの分野でも中国に先を越されています。中国では、水素の製造、貯蓄、運搬というサプライチェーンの川上から川下まで整備が進み、すでに社会の至る所で利用されつつあります。
昨年は水素で動くシェアサイクルも話題になりました。トラックやバスなどでも実装が進んでいます。
この記事からもわかるように、わが国では水素製造を海外依存しており、相手国の都合で供給が不安定になります。
エネルギー安全保障の観点からも、早急に戦略を練り直す必要があると思います。