米クリーブランド・クリフスのゴンカルベス最高経営責任者(CEO)は日本や日鉄への批判を繰り返した
(13日、オンライン記者会見の映像から)
【ニューヨーク=川上梓】
米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスのローレンコ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)は13日、日本製鉄によるUSスチール買収計画をバイデン大統領が阻止したことを「歓迎する」と話した。
日鉄による買収計画に絡んで「日本は中国より悪だ」と批判。「私には(買収の)計画がある。米国の国家安全保障を守れるのはクリフスだけだ」としてUSスチール買収に意欲を示した。
日鉄が計画破棄なら、買収に意欲
同日、クリフス傘下AKスチールの買収5周年を記念して開いた記者会見で言及した。バイデン氏が日鉄によるUSスチール買収計画を阻止して以降、クリフスが記者会見を開くのは初めて。
同氏は「大統領が阻止命令を下したことをうれしく思う」と話した。その上で日鉄が買収計画を破棄した場合、USスチールを買収する方針を示した。
クリフスはUSスチール買収で日鉄に競り負けた。日鉄が失敗した場合、USスチールを買収するとの意向を示してきた。買収計画の詳細は「仮定や臆測には答えない」として語らなかった。
クリーブランド・クリフスはUSスチール買収に意欲を見せた(同社の工場)
USスチール買収を巡っては13日に米CNBCテレビが、クリフスが米電炉大手ニューコアと組んで買収する可能性を報じた。
米国の高炉や自動車用鋼板生産で100%近いシェアとなるため、反トラスト法(独占禁止法)に抵触する可能性もある。
クリフスによる買収は日鉄による買収契約の破棄が前提だ。ゴンカルベス氏は買収には「(日鉄が)既存の取引を断念する必要がある」と話した。
トランプ氏が買収阻止「信じ続けている」
日鉄の買収計画を審査してきた対米外国投資委員会(CFIUS)はバイデン氏の命令を受けた計画の破棄期限を当初の2月2日から6月18日まで延期することを決めた。
これについてゴンカルベス氏は延期は「大した問題ではない」とし、トランプ次期政権に移行してCFIUSが刷新されることに言及した。
「(バイデン政権下の)CFIUSは6月18日まで延長したが、(次期政権下の)新しいCFIUSは再び2月2日にずらすこともできる」と主張した。
トランプ氏は日鉄による買収を「絶対に阻止する」と発言してきた。ゴンカルベス氏は「トランプ氏は最初から阻止すると発言しており、信じ続けている」と話した。
米ペンシルベニア州にあるUSスチールの施設(2024年4月)=AP
日本や日鉄に対する批判も繰り返した。「日本は中国より邪悪でひどい」と主張。
日鉄が過去に中国国営の宝武鋼鉄集団子会社の宝山鋼鉄と合弁会社を組んでいたことに触れ、「日鉄は中国に鉄鋼の過剰生産やダンピング(不当廉売)の方法を教えた」と批判した。日鉄は24年に宝山鋼鉄との合弁事業を解消した。
ゴンカルベス氏は「労働者が中心となり、製造業が中産階級を取り戻す。クリフスのような米国人が経営する企業が先頭に立つ」と強調した。
「国家安全保障を守るためには、米国第一主義が必要だ」とし、バイデン氏による阻止命令には理由があったと繰り返した。
小野亮みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部 プリンシパル
別の視点
クリフスCEOの発言で、日鉄と宝山鋼鉄との関係以上に気になるものがある。
「日本よ気をつけろ。自分自身を理解していない。1945年以来、何も学んでいない。
我々がどれほど素晴らしいか、どれほど優雅か、どれほど寛大か、どれほど寛容か、何も学んでいないのだ。」 少数派の意見などと軽視すべきではない。
SNSの拡散力を踏まえ、こうした発言が広がらないための、安定した日米関係の維持に向け、日米双方の努力が求められている。
(更新)
<button class="container_cvv0zb2" data-comment-reaction="true" data-comment-id="49505" data-rn-track="think-article-good-button" data-rn-track-value="{"comment_id":49505,"expert_id":"EVP01193","order":1}">
9</button>
ひとこと解説
①こうした主張が飛び出すことは、十分予想されていたはずです。
改めて三井住友DSアセットマネジメントの白木久史氏が2024年11月13日に発表したリポート「USスチール買収はナゼもめるのか 日本人が無自覚なワシントンの視線」(https://www.smd-am.co.jp/market/shiraki/2024/devil241113gl/ )を挙げます。
②宝山鋼鉄への支援に象徴される、日鉄と中国の「長く、深い」関係が、米国からすれば問題視されているのではーーといった問題提起です。
③宝山は世界最大の鉄鋼メーカー。インフラ整備や自動車生産だけでなく、その鋼材で中国の急速な軍備拡張にも貢献している。
米国側にはそんな認識がある、と同リポートは強調します。
クリフスCEOの発言は孤立したものではないと思います。
(更新)
<button class="container_cvv0zb2" data-comment-reaction="true" data-comment-id="49500" data-rn-track="think-article-good-button" data-rn-track-value="{"comment_id":49500,"expert_id":"EVP01020","order":2}">
262</button>
日経記事2025.1.14より引用