廃業方針が決まったDMMビットコインの看板。仮想通貨交換業界では再編の動きが相次ぐ
巨額の暗号資産(仮想通貨)を不正流出させたDMMビットコイン(東京・中央)が経営再建を断念した。
SBIグループの同業者に資産を移管し、廃業する道を選んだ。業界では今年に入って買収の動きが出ているが、安全対策の負担が企業再編を加速させる可能性がある。
DMMビットコインは5月末に482億円相当のビットコインを不正流出させた。
流出直後からサービスを制限しており、顧客は新たな仮想通貨の購入や、保有する仮想通貨の他業者への移動ができない状態が続いている。
金融庁は9月、仮想通貨の管理に欠陥があったとして同社に業務改善命令を出し、流出リスクに適切に対応する態勢の構築を求めた。
金融庁幹部は「サービス再開には流出原因を踏まえて再発防止策が講じられていることが条件」との姿勢を示していた。DMMビットコインの2日の発表では、不正流出の調査状況に関しては「調査を続けている」との記載にとどまった。
顧客への影響の長期化を避けるため、預かり資産を同業のSBIVCトレードへ移管する。SBIVCトレードは70万程度の口座を持つ中堅業者だ。
DMMビットコインの24年3月期の事業報告によると保有口座数は45万で、移管後のSBIVCトレードの口座は100万を超える見込みだ。
国内交換業界では再編の動きが相次ぐ。
国内大手のビットフライヤーホールディングス(HD、東京・港)は7月、経営破綻した米同業大手FTXトレーディングの日本法人、FTXジャパンを買収した。
中核事業として仮想通貨の資産管理(カストディー)事業を展開する構想だ。
ビットフライヤーHDの加納裕三社長は6月の日本経済新聞の取材に「顧客資産の保護には莫大なお金がかかる」とした上で、「こうした投資ができない交換業者が簡単にカストディー事業にアクセスできるようにして、業界のインフラとなることには社会的意義もある」と語った。
ソニーグループは23年8月、子会社を通じて仮想通貨交換業のアンバージャパン(東京・港、現エスブロックス)を買収した。
次世代インターネットのウェブ3サービスを展開していくにあたり、同社のビジネスを役立てたい考えだ。香港の仮想通貨取引所のOSLグループは11月上旬、仮想通貨交換業のコインベスト(同・中央)の買収を発表した。
国内外で繰り返されてきた不正流出を受け、交換業者に対する規制は厳しくなってきた。
17年に交換業者の登録制が導入され、20年にはインターネット環境に接続しない「コールドウォレット」などでの顧客資産の管理を義務付けた。
交換業界ではコールドウォレットで管理していれば不正流出が発生する可能性は低いとの認識もあり、今回のDMMビットコインの事案で「安全神話が崩壊した」(業界関係者)との指摘も出ている。
交換業の経営にとって、ハッキングなどによる不正流出やマネーロンダリング(資金洗浄)の対策の負担感は重い。犯罪者集団の手口も巧妙になっており、交換業者は安全性の向上を絶えず求められている。
仮想通貨交換業者は国内に約30ある。近年の国内取引量は低調で、日本暗号資産等取引業協会の統計によると9月の現物取引高は9097億円だった。
ピーク時の21年5月の5兆円超と比べれば5分の1以下の水準にとどまる。
業界内からは「取引規模の割に業者の数が多い。市況の影響を受けやすく、経営が厳しいところも多い」との指摘が複数ある。
金融庁幹部は「経営が厳しかろうと、安全対策を万全にできないのであれば、業界から退場してもらうしかない」と顧客保護を最優先とする姿勢を貫く。
ひとたび不正流出を起こせば、再建への道のりは容易ではない。交換業者の幹部の一人は「得られる利益よりも、交換業が背負うリスクの方が大きいとの見方もある。
再編の動きが今後も続いてもおかしくない」と指摘する。