トランプ次期米大統領㊧と、ロシアのミサイル攻撃を受けたウクライナの首都キーウでの消火活動
=ともにロイター
2024年は国際社会のあちこちで亀裂が深まった。政治や経済をめぐる課題で日本には変革の芽も生まれている。それをどう育てられるか、来年を展望する。
火をふきはじめた西洋への不満
12月13〜15日、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビに欧州や中東の要人らが集まり、国際情勢を議論した。
25年1月に控える第2次トランプ米政権の発足を恐れる声が、欧州などから飛び交った。米欧の分断は深まる。ロシアはそこに乗じ、さらに強硬になるに違いない……。
ところが、新興国の見方は異なる。経済上の損得を重視するトランプ氏の再登板を、歓迎する向きも少なくない。典型がインドだろう。
「第1次トランプ政権はQUAD(クアッド)を再開した」。首都ニューデリーで12月上旬に開かれた国際会議。ジャイシャンカル外相はそう語り、日米印とオーストラリアの枠組みを強化したトランプ氏の手腕をほめちぎった。
大統領選を争った民主党のハリス氏より「人権について他国に説教しない」。インドの参加者にたずねると、こんな見方が大半だ。
サウジアラビアやトルコでも同様の「本音」を聞く。こうしたグローバルサウスの中核国は近年、西洋への不満を強めてきた。
根底にあるのが暗い歴史だ。10月下旬、英連邦がサモアで開いた首脳会議は荒れた。16世紀以降の奴隷貿易をめぐり、カリブやアフリカの加盟国が対応を求めたからだ。
人権や民主主義を説く西洋の偽善を糾弾する声が新興国にこだまする。英外交筋は「歴史問題の爆弾が火をふきはじめた」と身構える。
世界の国内総生産(GDP)に占める新興・途上国のシェアはおよそ6割。主要7カ国(G7)の2倍に達するのに、国連安全保障理事会などで立場が反映されていないとの不満は根強い。
日本は法秩序やインフラ面で役割
この流れが勢いづき、世界が多極化するにつれ、日本が果たすべき役割はさらに増える。まず大切なのが、2つの取り組みだ。第一に西洋の理念を説くより、互恵の協力を深めることだ。
新興国は福祉や教育といった社会の基盤を充実する途上にある。中国などよりも、日本の方がこうした分野で長年の経験を提供できる。
特に東南アジアは経済で中国に深く結びつく一方、中国の軍事拡張に不安を強める。安全保障上の要となる各国の港湾や空港、通信インフラの整備でも、日本が果たせる役割は大きい。
23年5月に開催されたクアッド首脳会議(広島市)
第二に地域や課題に合わせ、複数国からなる「ミニラテラル」の枠組みをつくり、他の友好国と一緒に経済協力を進めることだ。
クアッドのような連携の輪を、日本はインド太平洋内でさらに主導していく必要がある。
もっとも、互恵協力だけでは十分ではない。ロシアのウクライナ侵略などで世界の法秩序は崩れた。この原則を立て直さなければ、世界の安定は戻らない。土台になるのが、主権や領土の尊重をうたった国連憲章だ。
互恵の協力で培った各国との関係を生かし、法秩序を尊ぶ連携の輪を広げていく。険しい道のりだが、それが日本の大きな課題になる。
(本社コメンテーター 秋田浩之)
長年、外交・安全保障を取材してきた。東京を拠点に北京とワシントンの駐在経験も。国際情勢の分析、論評コラムなどで2018年度ボーン・上田記念国際記者賞。著書に「暗流 米中日外交三国志」「乱流 米中日安全保障三国志」。
日経記事2024.12.24より引用