ウクライナ軍拠点に突撃した北朝鮮兵士を上空から撮影したとする映像の一場面
(ゼレンスキー大統領のXから・共同)
【ウィーン=田中孝幸】ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、同国軍との戦闘のためにロシア西部クルスク州に派遣された北朝鮮兵のうち、3千人超が死傷したとの見方を示した。
「北朝鮮がロシア軍に追加の兵士と装備を送るリスクがある」とも指摘した。
ウクライナ軍の情報に基づく分析としてX(旧ツイッター)で明らかにした。「ロシアからの近代戦の経験の移転と軍事技術の拡散は世界的な脅威だ」と述べ、西側諸国にロ朝への厳しい対応を呼びかけた。
米国務省はかねてクルスク州に約1万1千の北朝鮮兵が配置され、同州の要衝スジャなどを支配下に置くウクライナ軍との戦闘に参加していると表明。ゼレンスキー氏は14日、北朝鮮兵が戦闘に大量投入されていると明らかにしていた。
韓国の情報機関である国家情報院は19日、北朝鮮兵の死者は少なくとも100人に上り、負傷者も1000人以上との分析を示した。
今回発表された死傷者数は判明している兵員数の4分の1に当たり、事実であれば短期間で損耗が拡大している公算が大きい。
死傷者数が膨らむ背景には、北朝鮮兵とロシア軍との部隊統合の難しさがある。
臨機応変な対応が迫られる軍事作戦には、将校から兵卒まであらゆるレベルで意思疎通が十分にできることが不可欠となる。多国籍の軍隊では、北大西洋条約機構(NATO)のように部隊員の公用語として英語を採用するケースが多い。
北朝鮮兵は今秋に急きょ派遣されたため、ロシア語の学習は不十分だった可能性が高い。
「将官は意思疎通ができたとしても、部隊全体としてコミュニケーションは大きな問題になる」(オーストリアのワルター・ファイヒティンガー戦略分析センター長)との見方が出ていた。
北朝鮮兵に現代戦の経験が乏しいことも影響しているようだ。韓国の国家情報院は19日、北朝鮮の犠牲が増えている要因としてドローン(無人機)戦に不慣れなことを挙げた。
そもそも北朝鮮軍は1953年の朝鮮戦争の休戦以来、大規模な通常戦闘の経験がない。装備の少なさなどで訓練が不足しているとの見方もある。米戦争研究所も11月の報告書で、北朝鮮兵の近代戦における準備不足を指摘していた。
バイデン米政権が11月、米国製の長距離地対地ミサイル「ATACMS」のウクライナ軍によるロシア領内への使用を認め、クルスク州に投入されていることも響いている。
国家情報院によると北朝鮮軍高官の犠牲も出ており、北朝鮮部隊の司令部も攻撃されているとみられている。
それでも北朝鮮の軍事支援が細る気配はみられない。韓国軍の合同参謀本部は23日、北朝鮮がロシアに追加の兵力と装備品を送る準備をしている兆候を察知したと発表した。
北朝鮮兵に大量の死傷者が出たとしても、一部は実戦経験を得て帰還するのは間違いない。ドローン戦などにたけた精鋭部隊が編成されれば、日本や韓国にとって大きな脅威になる。韓国軍によると北朝鮮はロシアに提供する自爆ドローンの増産準備をしているという。
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2022年2月、ロシアがウクライナに侵略しました。戦況や世界各国の動きなど、関連する最新ニュースと解説をまとめました。
日経記事2024.12.24より引用