ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

黒い時計の旅

2011-01-26 23:05:50 | Weblog
『黒い時計の旅』スティーヴ・エリクソン著、柴田元幸訳、白水uブックス

ヒトラーが死ななくて、第三帝国が続いていて・・・、という
あったかもしれない20世紀のお話。
「よくできてるな~」という物語だった。

ポルノ小説を書いている人が話の中心となっているので、
電車の中で読むには、もし隣の人に見えてしまったら、
少し恥ずかしいなあ、というシーンがあるけれども、
結局、電車の中でも読んでしまった。

読みながら改めて思ったのだけれど、
欧米にとって、やはりヒトラーは悪魔だったのだなあ。
日本のことなんて、まるで出てこない。
ドイツとのからみで、少しその存在にふれられるのみ。
日本がアメリカ本土に攻め込む可能性なんてまったく考えられていなくて、
第三帝国が続いているという設定なので、文中では、
もちろん日本ではなく、ドイツが攻めて行っている。
よっぽど中国人の移民の方が存在感がある。

そんな程度の存在感しかなかったのに、
実際には、日本はアメリカと戦争をして、
そして2つも原爆がおとされて、多くの方が、一般の市民が殺されたんだ。
無差別大量殺人が行われたのは、
ドイツの収容所と、原爆が投下された広島と長崎。
もちろん日本軍も中国や朝鮮で多くの人を殺した。
それを棚に上げるわけではないけれど、
20世紀の、あの戦争のことを幻視をもってながめるにあたって、
ヒトラーの惨さだけを見て、原爆を見ないのは、やはり納得いかない。

ということで、
物語のプロットとしてはよくできていると思ったのだけれど、
視点としては、非常に寂しさを感じるお話だった。