生まれおちて最初にできた友は
お祖父さんが中部電力の幹部だった。
そのお祖父さんが
原子力がまだ「夢のエネルギー」といわれていた時代に
原発のため邁進されていたと聞いたのは、
関西・中部・北陸電力の原発予定地だった能登半島の突端・珠洲(すず)へ
わたしが通いはじめたあとのこと。
さすがに一瞬、手がとまったような気がする。
わたしは既に
原発問題でゆれる珠洲で見聞き感じたことをとっぷり語っていた。
しばらくひとりで考えて、けっきょく言動を変えなかった。
否、より正確にいえば、
珠洲にいる時間がふえるほど地元にいる時間はへったので
語る機会はどんどん減った。
それでも時折かえってきては、珠洲の海山の幸をわけあったり
関連する署名などへの協力を求めたりということを続けた。
家族ぐるみの付きあいだったので、
「初友」ばかりか、「お祖父さん」の子であるその母親にも。
ノイズになろうと、あのときココロ密かにわたしは決めたのだ。
「チェルノブイリの後たくさんの人が原発反対といって集まったのに、
あの人たちは、いったい今どこへ行ったのか」
珠洲でそう言われたほど、当時の日本は原発問題を忘却していた。
わたしの周りに至っては、チェルノブイリの後でさえ
「原発反対といって集まった」人もいない。
世界を変えるためにまずは自分が変わろうと、
珠洲と出会ってから思いはじめてはいた。
変わるなら、生まれ育った世界と関わりつづけながらにしよう、
変わりゆくわたしがノイズになれば
無交渉だった二つの世界に少なくとも交渉がうまれる――
そんなふうに思うようになった。
それからたくさんの年が流れ、珠洲の原発計画は凍結になった。
でも「原発の代理戦争」と呼ぶしかなかった程の過酷な状況は
上関など別の地でつづき、いま福島で遂に原発震災までおきてしまった。
先日ひさしぶりに会った「初友」の母親は
こんなに地震も多い国なのに、どうしてまだ原発をやめないのかしら
やめなきゃだめよね、と言っていた。
彼女の父親が仕事人生をかけた「中部電力」の「原発」といえば
静岡県御前崎(おまえざき)市にある浜岡原発しかない。
東海地震の予想震源域にあり、
「日本一あぶない原発」といわれて久しい。
文科省の地震調査研究推進本部によれば
30年以内にM8クラスの東海地震が発生する可能性は87%。
5月6日、菅首相は
その浜岡原発のすべての原子炉の運転停止を中部電力に要請した。
(会見の様子は以下のURLからどうぞ:
http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg4791.html )
それをうけ、本日5月9日午後、
中部電力は国の要請を受けいれると発表。
数日以内にいま運転中の4、5号機を停止し、
7月の運転再開を目指していた3号機については、運転を見送るという。
(http://mainichi.jp/select/today/news/20110510k0000m040010000c.html?inb=fa )
賢明といえば賢明で、当然といえば当然な英断だけれど、
危険極まりないと言われる浜岡原発をひとまず止めることで
他の原発を延命させたいようにもみえる。
だが、原発が利権のためでなく、
夢のエネルギーと信じたから、あるいは別の大義のためと信じたから
国として会社として推進したという人であればあるほど、
いまは謙虚に人知の限界を悟るときではないか。
「君子は豹変す」という言葉を思い出したい。
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