小保方晴子さんの博士論文のコピペ(コピー・アンド・ペースト)問題がニュースで話題になっています。
このコピペについて私は数年前から
CADを使っての設計図面の作成過程においても
問題意識を持っておりました。
ちょうど小保方さんと同じくらいの年代のスタッフを数年前、雇っていたことがありまして、
スタッフにCADで図面を描いてもらってたのですが
その図面をチェックしていて
非常に苦労したことを思い出します。
整合性がとれてない
細かいところが納まっていない
のに
なんとなく描いてある図面。
チェックしていると
なーんかおかしいぞ
あれ???
ここも、あそこも
合ってないし、
この線は何ぞや?!
不必要な線やら
意味のわからない線やら。
寸法も基準がはっきりせず
どこのなんの寸法かも読み取れない。
で
肝心な必要な線が無かったり、、と。、
これはどういうことなのだ?
仕舞いには
自動計算で弾き出される数値すら
電卓で計算し直してみると
合ってない!
という不思議な状態。
コンピューターなんだから
計算は合っていて当然(だと思っていたが)
なのに、合ってない?!
その時点から
すべての図面が信用出来なくなり
徹底的にチェックする破目に。
そんなケアレスミスを含めた徹底チェック、
本当は所長の仕事じゃないと思うんだけども。。。
解らないことがあるならば
本来なら、
線が描けない筈なんです。
なのに図面はできている。(←ここが問題)
でもおかしい図面。
どうして描けたのか?
少なくとも「手描き」図面ではあまり起こらないミスばかりだったのです。
図面というものには
まず正確さが求められますし
設計図の役割がどういうものなのかを
理解していれば
自分で解らない線は
安易に引けない(描けない)筈なんです。
(↑ ここも重要)
なのに
描いているし
なんとなく描けているように見える
(↑ これがまた問題)
図面の食い違いや、
多少のミスは最初はあってもいいです。
人のやることですし、
まだ経験が浅いわけですから
完璧な設計図が描けなくても仕方ありません。
でも
明らかにそういうことではない図面に直面し
とにかくチェックするのが大変で
当時かなりイライラしていたものです。
(スタッフが一生懸命やっていたのは分かってますが)
うちの旦那さんもCADで図面を描きますが
スタッフの描いた図面をチェックするような
ストレスは感じたことはなく、
何故なんだろう?と思っていたところ、
旦那さんがその原因を見つけました。
原因は、そう「コピペ」だったのです。
コピペの元図が
どういう意図で作られた図なのか、
或いは、
全体に対してその部分が
どのような意味を持っているのか
まだしっかり理解できていない段階で
コピペを巧みに用いて
図面が出来てしまっていたのです。
CADデータがあれば
簡単にコピペ出来ますからね。
一方、手描き図面ではどうでしょう。
そうは簡単に複写なんてできません。
せいぜい、トレーシングペーパーで
部分的に書き写すくらいは出来るでしょうが、
条件が違えば
都合よく繋ぎ合わせられる訳ではありません。
そういえば、そのスタッフは
「手描き」で図面を描いたこと無いと言ってました!
大学時代からCADを使っていたことになります。
(大学に問題ありだと思う)
図面を手で描くことは基本だと思うのですが、
子どもが文字を覚えるのに学校で何度も何度も
字をノートに書いて覚えるのと同じで
その後で、パソコンで打つようになるのなら分かります。
小学生のように文字を書く訓練をするのと同じく
図面も手で描く訓練を一度はするべきなんじゃないかと思うのです。
幸い(?)にも
建築士の資格試験には
学科試験と製図試験がありまして、
製図試験では手描きで図面を描かなければなりません。
大学で手描きで図面を描く機会が無かったとしても
資格を受ける時に必ず一度は手描きをやることになります。
なので
最近の建築士を目指す方々の大半は
資格学院に通って猛特訓することになります。
が
そんなんで
本当によいのでしょうか。。。
(ちなみに私は一切、資格学院へはお世話になりませんでしたけども)
CADがいけないということではありません。
また手描きがいいと言いたいのではありません。
設計を思考する上で、
手描きで図面を描く時の思考方法が必要なのではないかと、ずっと感じているのです。
どのような材料を、
どのような寸法で、
どのように組み合わせれば良いのか
を知らないと
本当は設計図は描けないものなのです。
だから、私だって未だに線を描く手が止まる(考える)ことはありますし、
設計事務所に入って新人だった時は
解らないところばかりで線が引けず(描けず)
空白になるわけです。
その空白を埋めるために
いろいろ調べ
納まりを教えてもらったり、
参考図を探して
それを手元に置きながら
それでも
「線の行く先が決着つかず」
(納まらないということ)
悩む、考える
という繰り返しを経て
空白部分が多かった図面が
段々埋まっていき
線が増え
線の数と共に
内容のある濃い図面に
成長していくのです。
なので
解らないうちは空白だっていいと思ってます。
むしろ、空白の方が「実害」は少ない。
解らない事を明示しておくことの方が
大きな問題にならない。
解らない線をいい加減に描いてしまった方が
現場で大変なことになる場合もありますし、
実務ではそれが賠償責任問題にまで発展することだってあるかもしれない、
ということまで
設計図を描く人は想像出来ないといけないと思うんです。
プロとしてやっているんですから。
学生と違うのはそこです。
また、
「全体」と「部分」を
相互に行ったり来たりしながら
関連性を常に意識しながら
図面を描いていかないと
辻褄の合わない
整合性の取れない
ちぐはぐな図面になります。
全体を見渡しながら部分を描くのには
手描きの方が意識しやすい
と思います。
そうやって図面を描く事に慣れてきてから
CADで製図するのならいいと思うんです。
CADでも、手描きのように
線一本一本で描くことが出来ますし、
効率的に図を描くために複写機能を使うことも
いいと思うんです。
ただ、若いうちから手を抜いて
コンピュータの便利な機能に甘えて
部分をまるごと複写して切り取ってくっつけちゃうようなコピペに頼っていたのでは
設計の本質を見失ってしまいます。
そうやって出来上がった図面は
一応体裁が整っているように見えますし
実線で表記された図面を印刷して見れば
あたかも設計図として出来上がったかのように見えてしまいます。
しかし手描きの図面では
そんなコピペのような小細工や誤魔化しは出来ません。
思考や時には感情までが線となって図面に現れます。
線に迷いがあれば弱い線となって現れますし
後で継ぎ足したり、訂正した線も
見分けることが出来ます。
描き手が複数いたとしても
誰がどこの図を描いたか
線の個性で見抜くことも出来ます。
それに比べるとCADは
製図過程が解りにくく
誰がどのように手を加えたか
見ただけでは全くわかりませんから
図面をチェックするのは本当に大変。
何度も言いますが
CADがいけないとは言いません。
CADには手描きには難しいこともできます。
手描き以上の精度を求めることもできます。
ただ、どちらにも言えることですが
「線」の表す意味を真に理解できなければ
どんな手段を使おうと、
線は描けない、描いてはいけない
と思うのです。
設計する能力、そして設計図を描く能力は、
CADソフトを使いこなして図を作成する能力とは違います。
そこを勘違いしないようにしないと。
シンプルでモダンにデザインされている建物は
それを本当に意図して設計されている方も当然いらっしゃいますが
大方、単に、
設計担当者の力量に応じた「描き表せる線」の結果が、今の建物なのじゃないかと思ってます。
(線が少ない)
伝統的な建造物に携わっていると
古建築を図面化してみれば分かるのですが
線の複雑さ、多様さに苦労します。
ということは、逆を返せば
古建築は
図面ありきで全てが決定付けられているのではない
ことに気づきます。
今回は長くなりました。
とりとめなく書き連ねてしまいましたが、
小保方さんの今回のニュースとは
分野も内容もレベルも違いますが
コピペに潜む問題は
他人事じゃない!と思ったのでした。。。
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「道具を使う」のではなく、「道具に使われている」のだと思います。
だいぶ前に、ある事務所の方が、若い人には、最低三年(だったか)製図版で描いてもらい、修練が確認できたらCAD使用を認める、と言っておられたのを思い出しました。
仰るとおり、まさしく「道具に使われている」ですね。
元スタッフの卒業した有名な某私立大学で手描きをしなかったというのが信じられませんでしたが、これからもこういう問題は増えていくような気がします。。。
話は違うのですが、
以前勤めてた事務所では「(製図)板つき3年」という言葉がありました。
3年間は現場へ出ずに図面を描いてなさい、という意味で、(当時はみんな手描きでしたけど)
それは違うだろうーって反発して、自分の時間を使って土日現場へ行かせてもらったことをふと思い出しました。
現場で通用しない〈設計図〉が「設計図」の名の下で描かれている・・・。施工図で決めればいいんだ・・・?!
困ったものです。
建築士の「定期講習」なんてのをいくらやったってダメ」ですね。
どうしたらよいのでしょう。
「良貨は悪貨を駆逐する」、でゆくしかないのかもしれません。悲しいです。
そのズレが、近年様々な形で露呈してきて問題になることが多くなって、事件に発展してしまって。。。
定期講習も、現行の制度のおさらい程度に過ぎませんし、s/sさん仰る通り、いくら講習やったところで、技術的な向上にはなりませんよね。
ただ、あまりにも技術以前のずさんな法律違反を是正しないといけない、という事なんだと思ってます。
話は変わりますが
古民家再生で謳っているある工務店で、そこで恐らく下請けで入っている建築士が古民家を壁量計算してまして、土壁をたすき筋交い相当で計算してあったのを発見したことがありました。
その計算書に基いて、柱を増やしたり、壁を増やしたり、部分的に筋交いを入れた改修計画だったのですが、計算書そのものがそもそも間違っていて、意味のない壁が増えていたわけなんですけども、
程度が程度だったので、構造的な害はなさそうでしたから、お施主さんには気にしなくていいとアドバイスしたことがありました。
悲しい現実です。
(自戒もこめてですが)