中央省庁の官僚(特にキャリア組)は、「空気」を読むのが出世競争に生き残るための必要十分条件である。「空気」を読み損ねると、一気に出世街道のレールから外れてしまうからだ。
財務省理財局長から国税庁長官に出世した佐川氏の場合はどうか。
東大経済学部を1982年に卒業して大蔵省入省、主流の税務畑を歩み、88年に近畿財務局理財部長、2004年主計局主計官、08年主税局総務課長を経て16年6月に理財局長に就任、この時期に国有地の森友学園への払い下げ問題で国会に参考人招致され、「森友学園側との交渉記録はすべて破棄したが、法令どおりに交渉は行った」と証言、安倍総理や昭恵夫人への疑惑波及を防いだ功績で17年7月には国税庁長官に昇格した、と言われている人物だ。佐川氏にとって残るポストは、財務省事務次官だけで、これまでは最有力視されてきた。
が、前回のブログで書いたように、佐川氏の運命が一転しそうなのだ。事務次官ポストが危なくなったどころではなく、更迭の可能性すら急浮上したようだ。が、国税庁長官に地位にある人を更迭するにしても、財務省にはそういう「偉いさん」を遇するポストがない。かといって天下りは今禁止されており、とりわけ佐川氏の人事にはメディアが目を光らせているから、行き場がない。文科省の天下り問題で責任をとらされた前川氏と同様、当面は浪人するしかなくなる。
もし、そういう事態になると、安倍総理としても安穏としていられない。前川氏の場合、頭にきて内部告発に踏み切ったのかどうかは知らないが、佐川氏がもし前川氏のように「どの道、自分の人生は終わった」とやけくそになって内部告発に踏み切ったら、安倍総理とお友達閣僚たちの運命はどうなるか? 「神のみぞ知る」ということかな…。
11月1日に安倍第4次内閣が発足して40日になる。
野党から「モリカケ疑惑隠し」と批判を浴びながら、北朝鮮からの「襟裳岬上空をかすめる弾道ミサイル発射」という「たなぼた」的プレゼントが届いたのを危機脱出の絶好の好機ととらえて臨時国会冒頭で解散し、その作戦が見事に効を奏して総選挙で圧勝して再び「安倍一強体制」をいったん回復したものの、9日に閉会した特別国会でモリカケ疑惑が新たな局面を迎え、「総選挙で禊は済んだ」ことにはできない状況になっている。今回の窮地は、さすがの安倍総理の剛腕でも逃げ切れないのではないか。
大相撲の世界では、日馬富士が起こした暴力事件は、相撲協会としては日馬富士に引退させることで幕引きを図りたかったようだが、そうはいかなかった。この事件の真相はいまだ闇の中で、カギを握る貴乃花と貴の岩が協会の事情聴取にも応じず(貴乃花は協会の呼び出しに応じてはいるが、「事件は私の手を離れた」と聴取には一切応じようとしていない)、真相は依然として闇の中だ。
モリカケ疑惑も、日馬富士の暴力事件と同様、疑惑解明のカギを握るとされる安倍昭恵夫人と加計孝太郎の参考人招致を求める野党に対して、「丁寧に」「真摯に」としていた政府・自民党が一切応じず、真相は闇の中のままだ。
が、外堀は徐々に埋められつつあるようだ。特別国会終盤になって事前価格交渉の経緯の一部を、現在の理財局長である太田氏もしぶしぶではあるが認め始めた。ということは、財務省が組織として安倍一強体制はもう持たないと、見切りをつけたのかもしれない。
財務省の姿勢が一変したのは6日の衆院国交委員会。昨年3月に近畿財務局と森友学園との間で価格交渉が行われていたことを、富山理財局次長が認めたことで明らかになった。そのいきさつは前回のブログ(7日投稿)の冒頭に「緊急割り込み記事」として、いったん投稿した後で急きょ書き加えた。
さらに、この事前価格交渉のいきさつの詳細が朝日新聞の報道で明らかになった。同紙によると、学園の籠池前理事長が近畿財務局に「新たなごみが見つかった」と報告したのが3月11日、その4日後財務省の田村国有財産審理室長(当時)が籠池氏と面会、この日を境に価格交渉が一気に加速したという。なお、田村氏は昭恵夫人付きの女性職員が問い合わせた時対応した人物だという。
田村氏との面会の席で籠池氏は「昭恵夫人から聞いていただいていると思う」と言い(まぎれもなく暗黙の圧力)、「新たに見つかったごみの処理の対処」を要求したという。田村氏は「重大な問題と認識する」「「明日財務局のほうからうかがう」と応じた。この面会での会話はすべて録音されており、特別国会で開示された。この日を境に、交渉は一気に加速したという。
その後、財務局職員が籠池氏に「反省している」と全面的に屈服(近畿財務局がすでに汚染土撤去を完了したと報告していたため)、森友学園は賃貸から買収に方針を転換し「買収価格の上限は1億6千万円」と財務省に伝えている。財務省側は、汚染土撤去費としてすでに1億3200万円支払っていたことから、「1億3000万円以下の金額はあり得ないが、ゼロに近い金額まで努力する」と「誠意」を見せ、さらに森友学園側の要求に応じて最終的に折り合った金額1億3400万円の分割払いまで認めた。国有地を公益目的で売却した過去5年間の「公共随意契約」1214件のうち、分割払いを認めたのはこの1件だけという。
大阪地検特捜部も、土地取引の経緯に関して市民による背任容疑の告発を受け、本格的な捜査に乗り出した。特別国会が終了したいま、財務省理財局や近畿財務局の関係職員をはじめ、佐川国税庁長官も、当然聴取の対象になる。昭恵夫人からもおそらく事情を聴くことになるだろう。昭恵夫人が、この土地に作る予定だった「瑞穂の国記念小学院」の名誉校長の職に就いていた時期、籠池氏に「主人からです」と、100万円が入った封筒を渡した事実と、その目的についても明らかにされなければならない。
もはや昭恵夫人が、この国有地払い下げ問題に深く関与していたことは隠しきれない。総理はかつて「私の妻が関与していたとしたら、私も責任をとって総理を辞任するだけでなく議員も辞職する」と、国会で答弁したことがある。いまさら「記憶にありません」は通用しない。
その安倍総理は、野党の昭恵夫人の参考人招致要求に対して「妻のことは私が答える」と言いつつ、実際には特別国会での野党の追及から逃げ回っている。安倍総裁の3選をとりあえずは支持しつつ禅譲を狙っている岸田自民党政調会長も、特別国会で「モリカケ問題に国民の多くが疑問を持っている。総理は説明責任を果たすべきだ」と追及して見せた。この土壇場で総理をかばうような質問をすると、禅譲が難しくなると読んだのだろう。
こうした状況の中、次期総裁候補として突然河野外相の名前が浮上した。世論調査ではポスト安倍の最有力候補であり、安倍氏が自民党総裁に返り咲いた総裁選でも、一般党員票ではトップに立った石破氏が、来年9月に迫った総裁選で総裁に選出されるようなことになったら、当然安倍一強体制を支えてきたお友達は一気に冷や飯を食わされることになる。
では時期を早めて岸田氏を、ということになるとマスコミから「安倍院政政権だ」と批判を浴びかねない。河野氏の名前が突如浮上したのは、「安倍総裁の3選はない」と、お友達も見切りをつけたことを意味しているのかもしれない。
財務省理財局長から国税庁長官に出世した佐川氏の場合はどうか。
東大経済学部を1982年に卒業して大蔵省入省、主流の税務畑を歩み、88年に近畿財務局理財部長、2004年主計局主計官、08年主税局総務課長を経て16年6月に理財局長に就任、この時期に国有地の森友学園への払い下げ問題で国会に参考人招致され、「森友学園側との交渉記録はすべて破棄したが、法令どおりに交渉は行った」と証言、安倍総理や昭恵夫人への疑惑波及を防いだ功績で17年7月には国税庁長官に昇格した、と言われている人物だ。佐川氏にとって残るポストは、財務省事務次官だけで、これまでは最有力視されてきた。
が、前回のブログで書いたように、佐川氏の運命が一転しそうなのだ。事務次官ポストが危なくなったどころではなく、更迭の可能性すら急浮上したようだ。が、国税庁長官に地位にある人を更迭するにしても、財務省にはそういう「偉いさん」を遇するポストがない。かといって天下りは今禁止されており、とりわけ佐川氏の人事にはメディアが目を光らせているから、行き場がない。文科省の天下り問題で責任をとらされた前川氏と同様、当面は浪人するしかなくなる。
もし、そういう事態になると、安倍総理としても安穏としていられない。前川氏の場合、頭にきて内部告発に踏み切ったのかどうかは知らないが、佐川氏がもし前川氏のように「どの道、自分の人生は終わった」とやけくそになって内部告発に踏み切ったら、安倍総理とお友達閣僚たちの運命はどうなるか? 「神のみぞ知る」ということかな…。
11月1日に安倍第4次内閣が発足して40日になる。
野党から「モリカケ疑惑隠し」と批判を浴びながら、北朝鮮からの「襟裳岬上空をかすめる弾道ミサイル発射」という「たなぼた」的プレゼントが届いたのを危機脱出の絶好の好機ととらえて臨時国会冒頭で解散し、その作戦が見事に効を奏して総選挙で圧勝して再び「安倍一強体制」をいったん回復したものの、9日に閉会した特別国会でモリカケ疑惑が新たな局面を迎え、「総選挙で禊は済んだ」ことにはできない状況になっている。今回の窮地は、さすがの安倍総理の剛腕でも逃げ切れないのではないか。
大相撲の世界では、日馬富士が起こした暴力事件は、相撲協会としては日馬富士に引退させることで幕引きを図りたかったようだが、そうはいかなかった。この事件の真相はいまだ闇の中で、カギを握る貴乃花と貴の岩が協会の事情聴取にも応じず(貴乃花は協会の呼び出しに応じてはいるが、「事件は私の手を離れた」と聴取には一切応じようとしていない)、真相は依然として闇の中だ。
モリカケ疑惑も、日馬富士の暴力事件と同様、疑惑解明のカギを握るとされる安倍昭恵夫人と加計孝太郎の参考人招致を求める野党に対して、「丁寧に」「真摯に」としていた政府・自民党が一切応じず、真相は闇の中のままだ。
が、外堀は徐々に埋められつつあるようだ。特別国会終盤になって事前価格交渉の経緯の一部を、現在の理財局長である太田氏もしぶしぶではあるが認め始めた。ということは、財務省が組織として安倍一強体制はもう持たないと、見切りをつけたのかもしれない。
財務省の姿勢が一変したのは6日の衆院国交委員会。昨年3月に近畿財務局と森友学園との間で価格交渉が行われていたことを、富山理財局次長が認めたことで明らかになった。そのいきさつは前回のブログ(7日投稿)の冒頭に「緊急割り込み記事」として、いったん投稿した後で急きょ書き加えた。
さらに、この事前価格交渉のいきさつの詳細が朝日新聞の報道で明らかになった。同紙によると、学園の籠池前理事長が近畿財務局に「新たなごみが見つかった」と報告したのが3月11日、その4日後財務省の田村国有財産審理室長(当時)が籠池氏と面会、この日を境に価格交渉が一気に加速したという。なお、田村氏は昭恵夫人付きの女性職員が問い合わせた時対応した人物だという。
田村氏との面会の席で籠池氏は「昭恵夫人から聞いていただいていると思う」と言い(まぎれもなく暗黙の圧力)、「新たに見つかったごみの処理の対処」を要求したという。田村氏は「重大な問題と認識する」「「明日財務局のほうからうかがう」と応じた。この面会での会話はすべて録音されており、特別国会で開示された。この日を境に、交渉は一気に加速したという。
その後、財務局職員が籠池氏に「反省している」と全面的に屈服(近畿財務局がすでに汚染土撤去を完了したと報告していたため)、森友学園は賃貸から買収に方針を転換し「買収価格の上限は1億6千万円」と財務省に伝えている。財務省側は、汚染土撤去費としてすでに1億3200万円支払っていたことから、「1億3000万円以下の金額はあり得ないが、ゼロに近い金額まで努力する」と「誠意」を見せ、さらに森友学園側の要求に応じて最終的に折り合った金額1億3400万円の分割払いまで認めた。国有地を公益目的で売却した過去5年間の「公共随意契約」1214件のうち、分割払いを認めたのはこの1件だけという。
大阪地検特捜部も、土地取引の経緯に関して市民による背任容疑の告発を受け、本格的な捜査に乗り出した。特別国会が終了したいま、財務省理財局や近畿財務局の関係職員をはじめ、佐川国税庁長官も、当然聴取の対象になる。昭恵夫人からもおそらく事情を聴くことになるだろう。昭恵夫人が、この土地に作る予定だった「瑞穂の国記念小学院」の名誉校長の職に就いていた時期、籠池氏に「主人からです」と、100万円が入った封筒を渡した事実と、その目的についても明らかにされなければならない。
もはや昭恵夫人が、この国有地払い下げ問題に深く関与していたことは隠しきれない。総理はかつて「私の妻が関与していたとしたら、私も責任をとって総理を辞任するだけでなく議員も辞職する」と、国会で答弁したことがある。いまさら「記憶にありません」は通用しない。
その安倍総理は、野党の昭恵夫人の参考人招致要求に対して「妻のことは私が答える」と言いつつ、実際には特別国会での野党の追及から逃げ回っている。安倍総裁の3選をとりあえずは支持しつつ禅譲を狙っている岸田自民党政調会長も、特別国会で「モリカケ問題に国民の多くが疑問を持っている。総理は説明責任を果たすべきだ」と追及して見せた。この土壇場で総理をかばうような質問をすると、禅譲が難しくなると読んだのだろう。
こうした状況の中、次期総裁候補として突然河野外相の名前が浮上した。世論調査ではポスト安倍の最有力候補であり、安倍氏が自民党総裁に返り咲いた総裁選でも、一般党員票ではトップに立った石破氏が、来年9月に迫った総裁選で総裁に選出されるようなことになったら、当然安倍一強体制を支えてきたお友達は一気に冷や飯を食わされることになる。
では時期を早めて岸田氏を、ということになるとマスコミから「安倍院政政権だ」と批判を浴びかねない。河野氏の名前が突如浮上したのは、「安倍総裁の3選はない」と、お友達も見切りをつけたことを意味しているのかもしれない。