1985年という年は何人もの個性的なアイドルがデビューした年だ。ミドルティーンと思えない色っぽさで日本中の男子を魅了した中山美穂。お嬢様らしさ溢れる清楚な雰囲気とスケバン刑事というミスマッチな役どころでファンを増やした南野陽子。おとなしめで図書館が似合いそうな知性派斉藤由貴。小柄でキュートな元気娘浅香唯。
そんな個性的なスーパーアイドル達の中に、小さく華奢な体から素晴らしいパワフルな歌声を聴かせてくれた子がいた。
当時、おニャン子クラブ、とんねるず、稲垣潤一などでヒットを飛ばし、日本一の売れっ子作詞家となっていた秋元康が書く詞に乗せて、伸びやかな歌声で歌うその女性は、当時アメリカでブレイクしていたマドンナを彷彿させたりもした。
事実、私の手元にもある彼女の1stアルバム「M’シンドローム」のジャケットは、マドンナの1stアルバム「バーニング・アップ」のジャケットでのマドンナのポーズと似ているし、2ndアルバムの「リップス」は、マドンナの2ndアルバム「ライク・ア・ヴァージン」を意識したようなジャケットだった。
しかし、彼女はそんな「和製○○」などという小さい枠には収まらず、次々と新しい試みをして既存のアイドル歌手の枠組みから華麗にはみ出していった。私の好きな彼女のシングル曲で「Crazy Nights」という歌がある。「この街のノイズは 最高のドラッグさ~」と歌われるこの曲は、女性ロッカーブームを先取りしたかのようなカッコイイ先進的な曲だった。
やがて、彼女はミュージカルの舞台へと活躍の場所を変えていく。そして、彼女は日本を代表するミュージカル歌手の一人になり、クラシックの世界でも活躍した。
アイドル歌手から舞台歌手へ。新しい道を切り開いてくれたその女性、本田美奈子さん。カッコ良くて可愛かった実力派歌手のまま、天国でも歌い続けてください。
本田美奈子さんが新人賞を獲った曲 Temptation(誘惑)を今夜のBGMに。