予定外のルートを走り、偶然訪れた通潤橋で出会った地元のおばちゃんとの『あるくみるきく』旅を堪能した後は、本来の目的地である、『高千穂峡』へ。
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最高のドライブ日和となった快晴の下、妻が長年行きたいと言っていた『高千穂峡』でボートを漕ぎ、景色を堪能。
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『いやあ、来て良かったなあ!』
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その後は、『天岩戸神社』、『天野安河原』といった高千穂の観光地を巡り、夕方4時過ぎに、お世話になる宿に到着。
荷物を置き、手続きを済ませ、『国見ケ丘』へドライブ。
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静かな夕暮れ。 目の前には抜けの良い景色が広がり、気持ちのよい風が吹き抜け、なかなかよい場所である。
丘を降り、ガソリンスタンドへ。 まだ燃料系の針は半分位を指しているが、燃費を確認する。 計算すると、12.6km/L。 『うん、これはなかなか良いなあ』
熊本でICを降りてからは山道の登りが多かったが、今回は高速走行が大半であった。 モード燃費は越えたが、直感的には遠出ではまだまだ伸びる予感。
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宿での夕食。
前菜から始まり、フォアグラ、野菜のスープ、川鱒のスモーク。 ビールをゴクリ。
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地元の柑橘類を使ったシャーベット。 『これはおいしいね』
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高千穂牛のロースト。 『うん、うん。 これは、これは』 もう、無言で食べるだけ。 『うーん、美味いなあ』
デザートは、クリーム・ド・ブリュレ。 いやはや、もう何も言うことは無い。
地元の食材にこだわった、数々のおいしい料理。 『ごちそうさまでした。 最高においしかったです!』
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夕食後は、地元の神社で毎晩行われるという『夜神楽』へ、宿のクルマで送っていただく事になる。
ここの宿では、宿泊者全員が見学に行くと言う事で、10人を越えるお客さんがマイクロバスに乗り込んだ。
私たち夫婦は、早速着替えてマイクロバスへ。 一番乗りだったので、バスの一番後ろの座席に座って他の人を待つ。
すると、宿のご主人が、『あのう、お仕事は何ですか?』と聞いて来られた。 私は笑いながら、『極々、普通のサラリーマンですよ』と答える。 妻は横で笑いながら、『自衛隊じゃないんです』
『なんか、怪しい職業に見えましたか? よく、自衛隊とか、漁師さんに間違われるんですよねえ』と返すと、『いやあ、なんかキリッとして見えたもんですから』 そこから会話が弾む。
『実は、瀬戸内でシーカヤックをやってましてね。 土日はカヤックにテントを積み、家族を放って、瀬戸内の島々を巡ってるんですよ』 『私も昔は、サーフィンやウインドサーフィンをやってましてね、海が大好きなんです』
『今は、ボードです。 スノーボード』 『ええ、クルマにボードのキャリアが付いてましたね。 さっきも通潤橋の所で、このあたりは雪が多いって聞いてきました』
その後も、他のお客さんが大勢居るのに、宿のご主人は私に話しかけられる。
瀬戸内でのシーカヤックの話。 宮崎の海の話などなど。 ここのご主人、なんだか同じ匂いがするなあ!
それにしても、何で俺なんだろう?
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その後、夜神楽を見学して宿に戻った。
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翌朝。 これまたおいしい朝食を頂き、食後のコーヒーを飲んでいると、一枚の色紙が目に入ってきた。
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『生涯不良、春樹』と書かれている。
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宿のご主人に、『あの色紙、好いですね。 生涯不良。 私の中に、スッと入ってきましたよ』 『良いでしょう!』
『あの、もしかして、角川春樹さんとはお知り合いなんですか?』 『ええ、もうずいぶん長いんですよ』
昨日の夕食の時の四方山話から、なんとなくそんな示唆はあったのだが、やはりそうだったようである。
***
ご主人が、焼酎の瓶と、あるパンフレットを持って来られた。
『これ。 生涯不良っていう焼酎を作ったんですよ』 瓶の蓋を取り、香りを嗅ぐと、洋酒のような芳香が漂ってきた。
パンフレットには、角川春樹氏から寄せられた文章が載っている。
*** 以下、引用 ***
不良とは、何ものにも束縛されない自由な精神であり、生き方である。
社会という檻の中にあっても、その精神は枠の外にある。
(中略)
しかし、老子も、孔子も『遊び』を人生至上の境地とした。 古代中国の大きな思想である。
人間は、この地球に遊びに来ただけだ、というのが、私の究極の答えである。
人間は修行をする為に生まれてきた、という宗教の見地は嘘である。 人生は楽しむためにある。
(中略)
その遊びという思想を貫く生き方が不良という言葉なのだ。 あるときは、社会や家族という制約と対立することがある。
それでも生涯を不良で通すには相当な覚悟がいる。
不良というのは、当然、良でないということ。 しかし、優であり、秀でもある。
生涯不良の私が、人生を楽しむために一本の焼酎を創り出した。
私が生涯、この一本を飲みたいがためである。
名付けて『生涯不良』。 文句あるか。
角川春樹
*** 引用終わり ***
コーヒーを飲んだテーブルでこの文章に浸り、感動を覚えた。 でも、残念ながら他のお客さんで、この色紙に気が付いた人は居なかったようである。
うんうん、まさにこの言葉! 角川春樹さんはスゴいなあ。 笑いながら妻にもこのパンフレットを手渡し、『読んでごらんよ』
私はご主人に、『まさにこの通りですね。 私が思っている事に、ピッタリはまりますよ。 でも実際には、こうゆう風に生きて行くのは難しいんですよねえ』 するとご主人も、『そうそう、これがなかなか難しいんですよ』
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『今日は、どこへ行かれますか?』 『はい、鉄輪温泉まで。 阿蘇経由で行くか、海沿いに行くか、考えているんです』
『それは、海沿いが良いと思いますよ! あの辺りは景色も好いし、魚もおいしい。 絶対、お客さんにピッタリです!』
これでルートは決まった。 ガイドブックなんか要らない。 風の吹くまま、気の向くまま、そして出会った人に導かれて旅を楽しむのだ。
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『ありがとうございました。 料理もおいしかったし、なによりいろいろお話しできて楽しかったですよ』とお礼を述べると、『お気を付けて。 またぜひ、どこかでお会いしましょう!』とご主人。
『ええ、またここに遊びに来ますよ!』
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帰りには、宿おすすめのお土産屋さんに立ち寄り、『生涯不良』を購入。
通潤橋での予定外の『あるくみるきく』の旅に続き、お世話になった宿では、角川春樹氏の『生涯不良』という言葉に出会うことができた。
この旅はスタートから、偶然の様に見えて実は必然の様に感じられる、なんとも不思議な出合いに恵まれている。
さて、明日はどんな一日が待っているのだろうか?