あるくみるきく_瀬戸内シーカヤック日記

瀬戸内を中心とした、『旅するシーカヤック』の記録

『芸予ブルー』_テーマカラー of 印象派_”瀬戸内シーカヤック日記”

瀬戸内シーカヤック日記: 四国遠征(2)_田井ノ浜で『あるくみるきく』

2009年04月30日 | 旅するシーカヤック
2009年4月28日(火) HORIZON・尾崎さんのおススメで急遽目的地を変更し、徳島の道の駅で車中泊した朝、今日の目的地である蒲生田岬へとクルマを走らせる。
曲がりくねった狭い山道を抜け、尾崎さんに教えていただいた場所に到着。 なかなか良い感じじゃないか!

でも風が強い。 北東の風である。 うーん、これはなかなか厳しいなあ。

天気予報によると、高気圧が近付いているというので、その影響で風が吹いている可能性もある。
ここで風待ちする? 夕方までには風が落ちて、のんびりツーリングを楽しめるかも。 でもせっかく時間もあるので、下見も兼ねて、四国最東端だという蒲生田岬まで行ってみるか。
 
いやはや、なんとも。 景色は良いのだけれど、ピューピューと岬を吹き抜ける強い北東風で、これではとてもカヤックを出す気にはなれない。
急勾配の階段を歩いて登り、景色を堪能した。
 
***
地図を開く。 うん、この北東風なら、少し南下すれば風裏でカヤックを漕げる場所があるかも!
特に宛てはないが、出艇場所を探してクルマを走らせた。

お! ここはなかなか良さそうだ。 『田井ノ浜』
 
偶然見つけた浜だけど、景色も良くて今日は風裏。 穏やかな海。
 
浜に居られた地元の方に伺うと、ここにクルマを停めても良いらしい。 またここは、南風が吹いたら良い波が立つのでサーファーが集まるスポットでもあるとの事。 『今日の風なら波は立たんし、あそこのスロープから出したらええよ』 『はい、ありがとうございました』

早速シーカヤックを降ろし、ツーリングの準備を完了。 独り静かに太平洋に漕ぎ出した。
うーん、この岩の雰囲気、コバルトブルーに輝く海の色と鮮やかな新緑、そして晴れ渡った空。 いやはや、なんとも、最高である!
***
岬を回った所に浜があった。 近付くと、袋を手にしたおじいさんが浜を歩いている。
『こんにちは』 すると、『おお、この船は速そうじゃなあ。 どっから来られた?』
『はい、田井ノ浜から漕いで来ました。 今日は、蒲生田岬を漕ごうと思うとったんですが、北東が強くて諦めたんです』

『あそこは、風が強い所じゃから。 ここも、今日の風なら波は立たんが、ハエ(南風)が吹いたら波が立つ』 『今日は、テングサを拾いよるんよ。 南風が吹いたらテングサが海から打ち上げられるじゃろう』 シーカヤックを浜に揚げ、しばし立ち話。

『このフネは早いなあ』 『ええ、長さがあって幅が狭いでしょう。 時速で7キロくらい、一生懸命漕げば10キロ位出ますからねえ』
『ひっくり返ったりせんのんか?』 『はい、幅は狭いんですけど、パドルが長いから、その分安定性が高いんだと思います。 今日は空荷ですけど、荷物を積んだら重心が下がってすごく安定しますよ。 津軽海峡の凄い波の中も漕いだことがあるんですが、ひっくり返りませんでした』

『波は入ってこんのか』 『ええ、漕ぐ時はこのカバーを付けるんです。 すると波は打ち込んでこない』 『なるほど』
『こっちの櫂は?』 『予備用です。 こっちが折れたり流されたりしたとき用に』
***
『ところであんた、学生さんか?』

これまでも何度か『学生さんか?』と聞かれたことがある。 さすがに見た目はオヤジなのだが、平日の昼間に海を一人で旅するなんて、まともな社会人じゃないと思われるのであろう。

『ところであんた、学生さんか?』 苦笑いしながら、『いえいえ、普通の会社員です。 もう連休なんで』
『ほう! じゃああんたはええ会社に勤めとるんじゃろう。 普通なら今日はまだ仕事じゃ』 『まあ、ええかどうかは知らんですが、連休だけはそこそこ長いですね』
***
『あのう、漁師さんなんですか?』 『今は引退したけど、それまでは漁師やったよ』
『このあたりでは、どんな漁をされよったんですか?』 『前はのう、”藻ジャコ”漁をやりよった』
『”藻ジャコ”って何ですか?』 『海藻に付いたブリの子供よ。 これを採って、養殖業者に卸しよった。 だいたい5月頃が季節で、わしらも潮岬の方まで採りにいきよったもんじゃ』

『ハマチの養殖が盛んじゃった頃は良かったが、その後どんどん値が下がってしもうて駄目じゃ。 今じゃあ、漁師も減ってしもうて。 よっぽど子供がやりたい言うたら別やけど、漁師を継がせる人はほとんど居らんよ』 『確かに。 日本海をシーカヤックで旅した時も、漁師さんがそう言うとられました。 魚は安い、油は高い。 とんと儲けにならん。 船を出すのは、定年して年金暮らしの人ばかりじゃ、言うて』 『そうじゃろ、そうじゃろ』

『少子化じゃ何じゃ言うとるけど、人は結婚せんようになっとるし、子供は減るし、そのうち漁師はおらんようなって、日本は滅びるんじゃないかのう』 『漁師さんだけじゃなくて、農業も高齢化が進んで将来やる人が居らんようになるんじゃないか言うてニュースで言いよったですよ。 それに最近は水産業や農業なんかでも、外国人の人が増えよります。 日本の若い人はあまりやらんみたいですね』
『ほんまに日本は滅びるんじゃないかのうと心配しとる。 最近は、志(こころざし)のある政治家が居らんよのう』

話が弾み、そのうちおじいさんは浜に座り込んだ。 私もつられて座り込み、四方山話は続く!

『若い頃はどうされよったんですか? やっぱり漁師さんですか?』 『ああ、最初は東シナ海の底引き網船に乗って、漁に行きよった』
『その頃は、まだ朝鮮半島の人らは漁には出よらんかった』 『それが、日本が中古の船を売ってから、漁に出て来るようになったんよ』 『日本の政府は貧しかったからのう。 中古の船を売って儲けよう思うたんかのう』

『その頃は、楽しかったでしょう!』 『ほうよのう。 魚も多かったし、水揚げの時は天草辺りに上陸して、船が出るまで数日間遊んだもんよ。 ハッハッハッ』 『天草は、当時は賑やかじゃったんですか?』 『おお、船が魚を揚げよったし、賑やかな町やったよ』

『漁師は安定しとらんし、農家やったらイザとなったら土地を売るゆうこともできるが、漁師は海を売る事はできん』 『そりゃあそうですね』
『でも、自分の思うように自由にできるいうのはええよ』『なるほど。 漁師さんは一人親方ですもんね。 やっぱり魚を獲るんが好きじゃから、あまり金にはならんでも続けられるんでしょうねえ』
『ほうよ。 漁師は一人親方、子分無し、じゃ』と笑う。

『ここの土地には長いんですか?』 『うん、うちの家は古くからここ。 かなり昔からここに住んどったみたいじゃのう』 『阿波水軍の末裔じゃという話もある。 まあ、これは証拠がある訳でもないけどなあ』
***
『この辺りは、今はどんな漁なんですか?』 『今は、アマダイや鯛。 それでも卸値は上がらんし、なかなか儲けにはならんね。 若い漁師らの漁を見よったらもどかしいし、言いたい事もいろいろあるけれど、もう引退した身じゃけえ口は出さんようにしとる』

『ここは、台風が来たら荒れる。 あそこにハエがあるじゃろう。 あれは烏帽子岩いうて言いよったんよ。 それが台風で折れてああなった』

『このあたりは、土佐日記を書いた紀貫之が歩いた場所でもある』 『わしゃあ、短歌や俳句もやる。 息子の子供が、山頭火の古い本があったよねえて言うから、あるよ、言うたんよ。 そしたらその本をくれえいうけえ、ええよ言うてやったんよ』
『山頭火ですか! ええですねえ。 ”どうしようもないわたしが歩いてゐる(山頭火)” 自由に旅に生きる人にはたまらんですよねえ』 『ハッハッハ! 確かにそうじゃの』

『この辺りの町も、昔は栄えとったんですか?』 『おお、ここはええ湊じゃいうて、いろいろな船が寄りよった。 子供の頃にはまだ遊郭が残っておった』

『昔は”テングス売り”も来よったなあ』 『テングスって、天蚕糸(テグス)の事ですよね! あの蚕から取れる』 『そうよ。 前は、テングス売りがあちらこちらを回って商売しよった』 本では読んだことがあるが、テグス売り/テングス売りの話を直接聞かせていただいたのは初めてである。 貴重なお話。
***
偶然に浜で出会った元漁師のおじいちゃん。 『あんたは ”旅の人” じゃから、恥もなにもないが』と言う事で、若い頃の楽しく興味深いお話も伺った。 ここには書く事は出来ないが、『えー、そりゃあええですねえ! うらやましいなあ』 『アハハ、そんな事もあったんですか!』 『いやあ、たまらんですねえ!』 浜に二人の笑い声が響く。

『この年になってなんじゃけど、やっぱり若い頃にもっと遊んどったらえかったなあ、って思うんよ』 『えー、これまで充分に遊んどられるじゃないですか!』 『でものう、歳をとって体が動かんようになったら、やっぱりそう思うもんよ』

昔から現在までの漁の事、今の社会の状況、遊びの話から山頭火、紀貫之まで。 話題の幅が広く、自分の経験に基づいているから話が深く、そして面白い。
一生懸命漁に取り組み、遊びを心底楽しみ、様々な事に興味を持ってチャレンジして経験を積むと、こんな文化系漁師さんになれるのだろうか。 うーん、ええなあ。 わたしもこんな懐が深く魅力的なジイさんになりたいものである。
***
四方山話で盛り上がり、時計を見るともう30分以上過ぎている。

『どうもありがとうございました! いろいろなお話を伺うことができ、おかげさまでとても楽しかったです』 『こっちこそ、長う引き止めて悪かったのう。 気をつけて行きや!』
いやいや、引き止めていただいて、こちらこそ感謝の気持ちでいっぱいである。
***
『さて、どちらへ行かう 風が吹く(山頭火)』 北東風が強く、予定していた蒲生田岬ルートを諦めて偶然訪れた『田井ノ浜』

今回は、北東風に導かれてこの元漁師さんにお話を伺うことができた。 偶然のように見えて、出会うべき人に出会う事ができた旅。

『あるくみるきく_旅するシーカヤック』、至福の一時。

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瀬戸内シーカヤック日記: 四国遠征(1)_今治、七五三ヶ浦→徳島移動

2009年04月30日 | 旅するシーカヤック
2009年4月27日(月) 朝起きると、いつものように天気予報をチェック。 週間予報では、晴れマークが続いている。
日本海はどうかな? うーん、今日明日は波が高そうだ。
瀬戸内は? 穏やかでツーリング日和になりそうである。 しかしせっかくの大型連休。 せっかくだから、今まで漕いだ事のない場所に行ってみたいなあ。

そういえば一昨日のニュースで、しまなみ海道は、ゴールデンウイーク中は平日でも上限1000円にするって言っていた。 『これって、まるで俺のためのニュースじゃないか』 『いやー、ほんまやね』 なーんて妻と二人で笑いながら見たニュースを思い出した。
はてさて、四国の天気はどうだ? おー、これはなかなか良さそうである。 絶好のツーリング日和になりそうだ。

『旅するシーカヤック_四国編』 出発日は今日だが、いつ戻ってくるか、どこで漕ぐかは、『風の吹くまま、気の向くままの、風来坊一人旅』 うん、決まりだ。 今回はこれで行こう!
***
『いつ帰るか分からんけえ、毎日連絡するよ。 じゃあ、行ってくるけん』 『忘れ物ない? 気をつけて』
最高の晴天の中、平日でクルマの少ない『しまなみ海道』をアテンザスポーツワゴンで走り、今治に到着。
今治にはシーカヤックツーリングを楽しめる場所があるって、シーカヤック仲間のマサさんから聞いている。 たしか、七五三ヶ浦(しめがうら)だったよなあ。 行ってみるか。
カーナビの目的地を設定し、狭い山道を抜けると、目の前に海が広がった。

青い空に、きれいなコバルトブルーの海。 目の前には、松が生えた小さな島?岩?があり、海の色も美しい。 なかなか雰囲気の良い場所である。
 
梶取ノ鼻の手前でUターンし、少し漕ぎ進むと、浜に大きな石が。 ???
これって、上から落ちて来たの? それとも誰かが運んで置いたのだろうか。 生名島にも、遠くから海を運んで来たという巨岩があるし、この丸い石も、巨石信仰と関係があるのかな?
なかなか不思議な雰囲気の浜で、神秘的な感じさえ受ける光景である。
***
錨掛ノ鼻を越えて、岸沿いに漕ぎ進むと、海の中に鳥居がある。 シーカヤックに乗ったまま潜れそうだったので、帽子を脱ぎ、サングラスを外し、手を合わせて『海旅の安全』をお願いして、潜らせていただいた。

ここから先の海岸線は、護岸されており単調な雰囲気。 うーん、ここまででいいかな。

再び漕ぎ戻り、梶取ノ鼻まで行くと、潮がザワザワと音を立てて流れている。 目の前には、大崎下島と岡村島。
いつもは、大崎下島と岡村島からこの梶取ノ鼻を眺めているのだが、今日は逆からの景色。 これはこれで、なかなか感慨深いものがある。
***
 
小さな浜に上陸し、お昼ご飯。 今日は、出がけに妻が作ってくれたお弁当である。 『いただきます』
***

出発した浜に戻り、1時間半ほどのショートツーリングを終了。
距離は短いが、海もきれいで雰囲気も良い場所である。 マサさん、今回は朝に突然思い立ってやって来たので連絡できませんでしたが、エリア情報役立ちました。 ありがとうございました!
***
さて、明日はどこを漕ごうか? 地図を広げてしばし思案。 香川県の粟島あたりに行ってみるか。
今日は、どこか適当な所で車中泊だ。

一般道路を走り、東へ。 途中、コーヒーを買うため、コンビニに立ち寄る。
お金を払うと、レジのおばちゃんが突然『触ってもいい?』 エーッ、触る? ??? ???
いくら店内にだれも居ないとはいえ、いきなりそれはないよなあ。

『さ、さわるんですか?』 『これこれ。 このバッグ』

そう、おばちゃんの興味の対象は、黄色いペリカンケースであった。

『これ、何で出来とるんやろか?』 私はニコニコと、『これは硬いプラスチックで出来とるんですよ。 ええでしょう!』と自慢する。 『ほうねえ』
『そしてね、防水なんです。 じゃから、貴重品を入れるんに重宝しとるんですよ』 『なるほどねえ、海で何かして遊びよるんね?』 『ほうなんですよ。 シーカヤックをしよるんです』

『これを持っとると、レジの人からよう話しかけられるんです。 ”ここから何が出て来るんじゃろうかと思いよった”とか、”カワイイ入れ物じゃねえ”とか』 『そうじゃろうね』
『ちょっと持ってみてもええ? どれくらい重いんじゃろう』 『どうぞどうぞ。 今は、ケータイとか財布とか入っとりますし、頑丈じゃから少し重いですけどね』 『ほうほう、こんな感じねえ』

今回もまた、私のトレードマークにもなっている黄色いペリケースが切っ掛けで、ほんの一時ではあるが、楽しい会話が盛り上がった。 良い旅になりそうな予感!
***
夕方、徳島にある『HORIZON』の尾崎さんに、別件で電話。

最初に必要な打ち合わせを済ませ、『じつは今、四国に来とるんですよ。 昼頃今治で漕いで、今は移動中なんです。 明日、粟島あたりを漕ごうと思うとるんですがどうですかねえ?』 『そうなんですか。 もし29日に四国に居るようやったら、こっちに来ませんか? 29日に日和佐でツアーの予定なんです』

『特に予定もないんで、じゃあ参加させて下さい。 それと、徳島やったら、蒲生田岬あたりはどんな感じですかね?』 『そら、ええですよ。 粟島辺りより楽しめると思いますよ。 近くに、車中泊に良い場所もあります』
『じゃあ、明日は蒲生田岬辺りを漕ぐ事にします。 今から行き先を変更して、徳島に向かいますわ。 で、どっかで車中泊します』 『では、29日に会いましょう』

『旅するシーカヤック_四国編』 特に予定のない風来坊一人旅。 風が、出会った人が、そして気分が行き先を決める。
楽しい旅はまだ始まったばかり。

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