あるくみるきく_瀬戸内シーカヤック日記

瀬戸内を中心とした、『旅するシーカヤック』の記録

『芸予ブルー』_テーマカラー of 印象派_”瀬戸内シーカヤック日記”

瀬戸内シーカヤック日記: 生野島キャンプツーリング(1)

2009年06月20日 | 旅するシーカヤック
2009年6月19日(金) シーカヤックを浜に降ろし、キャンプ道具をパッキングしていると、『わーい、わーい。 かいすいよくに、またこれたあ!』と、かわいい声が聞こえてきた。 振り返ると、お母さんに連れられた小さい女の子が、それはそれはうれしそうに、海に向かって砂浜を歩いていく。
私の横を通る時、その子はニコリと笑い、『コンニチハ』と挨拶してくれる。 私もうれしくなり、笑顔で『こんにちは!』と返す。
***
パッキングを終え、スプレースカートを着けてPFDを装着。 出艇準備は完了だ。 先ほどのお母さんと女の子は、ひざまで海に浸かって遊んでいる。
『どう、冷たくない?』と聞くと、『うーん、すこしつめたい』と返ってきた。

『これ、乗ってみる?』 女の子は興味津々の顔でうなずいた。 お母さんに、『良いですか?』と聞くと、『はい』との事だったので、『ようし、乗ってみよう!』と、コックピットに座らせてあげる。
 
パドルを渡すとシーカヤッカー気分。 すると『いいねえ!』と、お母さん。 私はカヤックを持ち、浜に沿って少しだけ水の上を進ませてあげる。 『どう、楽しい?』 『うん、たのしい』

『ようし、じゃあ降りようか』 女の子を降ろすと、自分がカヤックに乗り込み、『おじさんは、今日はあの島に行ってキャンプするんだよ』 『そうだって、あそこの島に行くんだって』
『じゃあね、行って来るね』 すると、お母さんと女の子が手を振って見送ってくれた。
平日の静かな瀬戸内の海水浴場。 晴れた空、穏やかな海、そして小さな女の子のうれしそうな笑顔。 うん、これは良いツーリングになりそうだ。
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今日は休業日。 不況の影響で未だに月に二日の休業取得が続いている。 収入面では厳しいが、月に最低でも2回は3連休ということなので、資金面からどうしても近場中心にはなってしまうが、カヌーライフという面ではなかなか充実しているということは言えるだろう。

気持ちのよい出発後、引き潮に乗って順調に契島を越え、臼島を経由して、箕島へ。  
 
箕島の周囲は浅瀬になっており、アマモが群生している。 ここは、まるで海の森のようだ。
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今回は少し大回りコースだったので、約2時間でいつもの浜に到着。
昼食を済ませると、あまりの暑さにたまらず海へ! 例年よりかなり遅いが、今年初めての海水浴。
 
青い空、白い砂浜、そして澄んだ海。 さすがにまだ少し水温は低いが、なんといってもこの暑さ。 一度頭まで浸かり、泳いでしまえばなんとも快適である。
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海水浴の後は、最高の眺望が楽しめる海辺のプライベートバーをオープン。 
 
キーンと冷えたビールをコップに注ぎ、グビリ、グビグビと飲って、東屋のベンチに寝転がる。 あー、気持ち良い。
最高の書斎で開く本は、『舟と港のある風景(日本の漁村・あるくみるきく)、森本孝』 こういう本は、海辺で読むのが私のお気に入り。

私が一番好きな章は、『家船漁師の思い出』

*** 以下、引用 ***
『兄さん、旅は面白いもんじゃった。 若い時分はどこまでも行けると思うて、九州の果てまで歩いてきた。 昭和三年じゃったね、長崎には魚が多いそうじゃから、行ってみようゆうて、亭主とその弟と、二人ばかりの漁師を雇うて出かけたんよ。 あっちこっちの港をへぐりへぐりしながらの旅じゃった。 長崎は遠いのうー、この先どこまで行ったら長崎にいけるんかと思うたが、恐ろしいことはなかった。 (後略)』

もっとも家船という呼称はその漁民自身は使っていない。 学者による造語のようである。 尾道市の吉和港を訪ねた時に、港に係留してある船を見て、あれは家船ですか? と付近に居た吉和の漁師さんに聞いたところ、『いや、あれは漁船(りょうせん)だ』という応えが返ってきたのである。
*カヤッカー追記: 私が豊島でお話を伺った時、家船は正式には『えぶね』と読むと教えられていたので、『”えぶね”について聞きたいんですが』と言ったら、『えぶね? なんじゃそりゃあ』と聞き返される事が多かった。 『あの、前に部屋がある”いえぶね”があるって聞いてきたんですが』と言うと、『ああ、いえぶねね』と納得された事を思い出す。 やはり、家船/えぶね、というのは、学者さんが付けた呼名なのだなあ。 納得。

きくのさんは、ぶらりと箱崎を訪れた風来坊のような私になんの疑念も抱かず、家にも招いてくれた。 苦労話を明るい調子で話すきくのさんの話しぶりは若い娘のように華やいで、心惹かれたものであった。 きくのさんの魅力、それは、見知らぬ土地を歩き、漁をし、時には船に住まう家なしの特異な漁民との理由だけで、心ない村人から冷たい視線や言葉をあびつつも、それに耐えて海に生きた家船漁民ならではの、人に優しい、広々とした心の醸し出す魅力だったように思える。
*** 引用、終わり ***

この章を読むと、ご主人と一緒に数年前まで家船に乗っていたというおばあちゃんにお話を伺った、地元の呉にある『豊島の家船』の話を思い出す。
あの時、偶然公園で出会った70歳だと言うおばあちゃんは、それこそ風来坊のような風貌の初対面の私に、様々な話しを聞かせて下さった。 (以下、豊島訪問のブログより)

『18で結婚した頃はねえ、そりゃあ貧しい暮らしじゃったよ。 小さい島で、兄弟も多くて。 島の廻りで鯛やタコやなんやら釣って、麦や芋や食べよったけどねえ』 『やっぱりお金を儲けるには、魚が多い所へ出て行かんとと思うて。 一生懸命働いて、船を造って、おとうちゃん、稼ぎにいこうやゆうて、それから遠くに行くようになったんよ』

『なあ、兄ちゃん。 人間言うたら十人十色じゃろう。 借金しとうない、遠くの知らん所へ行くのは嫌じゃ言うて、島の廻りで漁をする人も居るし。 大勢の人間が、この島の廻りの漁で食べていく事はできんけえ、地で漁をしたい言う人にはそこで漁をしてもらって、なにがあるかわからんけど、遠くに行って儲けちゃろう思うとるモンは遠出するようになったんよ』

『船造るいうても、エンジンとレーダーやらGPSやら、無線やらいうて付けよったら、3000万とか4000万とかかかるけねえ。 そりゃ太いけど。 かというて、安いもん付けよったら魚も獲れんよー』
***
『そりゃあ、豊島は女の人が強いわい。 男の3倍は働くよね。 男の人は、漁が済んで、風呂入って、ご飯食べて酒飲んだら寝させるけど、女はそうはいかん。 片付けやら、洗濯やら、なんやかんやいそがしいじゃろ』

『洗濯させてもらうにしても、水をもらうにしても、寄留させてもらう所を見つけて、交渉して、やりとりするんは私らじゃけん。 水をもらうにしても電話を掛けさせてもらうにしても、お金を出してもダメじゃ言う人も居るし、お金なんかいらんいうて親切に分けてくれる人もおる。 人それそれじゃ。 親切にしてくれる人には、魚も分けるし、肉や野菜や灯油なんかもたくさん置いて、何倍にもして返すし』

斜め向いに座った私の膝を叩きながら、『なあ、兄ちゃん。 人は十人十色じゃ。 堅い生活しかでけん人も居るし、もうけちゃろう思うて外に賭ける人も居る。 18でじいさんと結婚したが、この人なら間違いない。 ぜったいに私を養うてくれる思うて結婚したんよ。 ピョンピョン飛ぶほど元気じゃったし、いつもキョロキョロといろんなもんを観察しよったし。 この人なら間違いない思うたん。 人を見る目はあるんよ。 なあ、兄ちゃん』
と、またまたわたしの膝をポンポンと叩く。
***
『ケンカ? けんかはほとんどしたことないね。 またねえ、けんかしちょったら、不思議と魚が釣れんのよ』

情が深くて豪快で、明るくて気さくなおばあさん。 時にはここに書けない愉快でおもしろおかしい話しがとびだし、二人で笑い転げた。 『いやあ、そりゃあそうですよねえ。 ワッハッハ! こりゃあ面白い!』

気が付くと、1時間以上が過ぎていた。

『おばあちゃん。 本当に興味深い楽しい話しを聞かせてもらってありがとうございました。 ええ勉強になりましたよ。 また豊島に遊びに来て会えたら、また話しを聞かせて下さいね』 『じゃあね。 にいちゃん。 またね』
(豊島訪問時のブログからの引用終わり)
***
改めて森本さんの『家船漁師の思い出』を読み返してみると、因島の箱崎と、豊島という違いはあれ、家船に乗っていた女の人の気風が共通していることに驚いた。

初めて訪れる土地で、漁のベースとなる寄留先を見つける交渉をし、親切な人、そうでない人との付き合いをしながら苦労を重ね、子供と離ればなれになりながらも、日々の糧を得るため、遠い海でご主人といっしょに漁をし、生活する。

知らない土地にでも果敢に飛び込んで行く、漁民らしい冒険心と好奇心を持ち、難しい人付き合いや厳しい海況での漁も苦にしない楽観的な気風と人を見る目が養われる。 様々な苦労を重ねたからこそ、情が深くて豪快で、明るく気さくな人柄になり、そして風来坊でも受け入れ、親切に話しを聞かせていただけるのだろう。

うん、そうに違いない。 瀬戸内の美しい景色が広がる、プライベートバー付きのお気に入りの書斎で過ごす、充実したひととき。
***

今日は、ミョウガを持ってきた。 オピネルでミョウガを縦に刻む。
同じく刻んだキュウリと生姜とまぜ、伯方の塩をしてもみ、ジップロックに入れてクーラーバッグに放り込む。 食べる前に水気を絞れば、夏らしいつまみの一品の出来上がりだ。

出発した海水浴場での、ちいさな女の子の最高の笑顔。 晴れた青空の下、誰も居ない白い砂浜で今年初の海水浴。
最高の眺望が楽しめる、プライベートバー付きのお気に入りの書斎で、冷たいビールを飲りながらの読書。
これ以上、何が要る? 最高のキャンプツーリングの一日である。

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