
寧静致遠。//記憶と記録を兼ねて、去年(2015年)起こったささいな出来事、第2弾です。//夜遅い時間でしたが、東西線の車内はまだ混んでいました。/電車が茅場町駅に停車しかかると、左後方から私の横をすり抜けるようにして、男性が早足でドアの方向へ移動しました。/途端、腰の辺りがグイッと引っ張られました。/その人のショルダーバックのベルトの付け根のフックが私のパンツのベルトループに引っかかったのです。/簡単に外せるだろうと思い、すぐに試みましたが、なかなか外れない!/電車のドアが開くと、後ろに降りる気配の人が何人もおって、こりゃあかんと判断し、とっさに私が、「外出ましょう」(ケンカ売ってません。)/その人は無言で私に従い、お互いに運動会の二人三脚みたいに少し体をくっつけ合いながら、よろよろとホームへ。/正面にちょうどベンチがあったので、そこに2人で腰かけ、神経を集中させ、私がフックからループを外しにかかる…やった、はずれた!/その時、すでに発車のベルは鳴っていました。/次の電車でもよかったんですが、間に合うかもと思い、ドアへ向かって猛ダッシュ。/その瞬間、ドア脇に立っていた年配の男性が、靴のつま先でドアが閉まらないように押さえてくれているのが目に入りました。/お陰様で、ドアが閉まるか閉まらないかのすれすれのタイミングで、車内に飛び乗りました。/すぐにありがたいオッサンをチラッと見ましたが、俺は何もしてねえよって顔で別の方向を向いてます。…とても粋ですクールです。/電車がプシューと言いながら動き出し、私もフーと安堵のため息をついたところで、ホームに目をやるってえと、さっきの男性が姿勢を正して、こちらに深く一礼してるじゃないですか。/「…なんだかすごい」と感じ、こちらも照れくさくも軽く会釈しました。//電車が駅に到着し、動き出すまでの数十秒間の、流れるような出来事でした。/短時間にあまりに多くの情報が目まぐるしく入り、それを逐一認識していたせいか、スローモーションのようで、とても長い時間に思えました。/「時間の濃縮」を実感できた不思議な出来事でした。(終)