
『なんでも見つかる夜に、心だけが見つからない』(東畑開人著、新潮社、2022年)を読み始める。読み始めてすぐに、「今までに読んだ本となにか根本的に違う」と感じたのは、筆者が近くにいて、「いっしょに進んでいきましょう」と手を取られているような語り口のせいだ。ここまで文章が読者の手を引いてくる本て、あまりない。普通だったら、筆者と読者の間にはもっと「深い川がある(野坂昭如風。厳密には「深くて暗い川がある」。亡き父がよく唄っていた)」。卓見を繰り出す羨望の著者は彼岸にいて、そう簡単にそこへは泳ぎ着けない。それどころか、あんな遠くには一生泳ぎ着けそうにないなと思わされる。もちろん、観念することは悪いことではない。しかしこの著者は同行の準備も万端に、最初から読者のすぐ横にいるので、ちょっと面食らう。|それから、まるでゲームのように展開していく筋運び。筆者という丁寧なガイドがいて、スリルを味わいながら、課題もクリアしていける。|あれこれ考えるうちに、真っ暗闇の空間を歩き周る「DIALOG IN THE DARK」のことを思い出した。|暗いのに明るい。重いのに軽い。語り口も書き方も、大いに参考になる。「寄り添う」「寄り添われる」ことについて、新しい技法があることを知った。これを自分の専門や趣味に関する「語り」のなかにも応用できないものか考えたい。|今日も千葉雅也氏のツイートが心に染みた。彼の言葉に(こちらが一方的に)共鳴することが結構、多い。だから彼の言葉だけは小まめにチェックする。