Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

野草の持ち味

2011-10-23 15:22:40 | 自然
借家の敷地はとても広くて手に負えない。竹薮に囲まれた北東側の敷地は管理が行き届かない分だけ得たいの知れない野草がはびこる。そんな野草では春先の蛇イチゴの花、秋の赤まんまも良いが荒地野菊のようなモーブ色も仄かな小菊も深まっていく秋を感じさせる趣のある花である。

先日、読了した棚橋 隆「魂の壷 セントアイビスのバーナード・リーチ」という味わい深い本にはまるで古代ギリシャの哲人のような叡智の言葉を吐く90歳のリーチの詩的な箴言がいくつも堪能できる稀なる良書だ。その一節に二回ほど引用されたリーチの言葉を思いだす。「現代のばらはよくない。昔のばらがいい。私は野ばらがすきだ」セント・アイビスというイギリス南西部にある海沿いの港町付近の駅には駅舎を仕切る柵の傍に、この野ばら(Rosa Canina)が零れるように咲き乱れていて異郷の地に4年にわたって滞在した棚橋さんの心を慰めたようだ。我々が時々飲むハーブティーにローズヒップという種類がある。酸味のつよい独特な味だがこれはイギリス人がドッグ・ローズといって特別有り難味もなさそうな蔑称で呼ぶこの野ばらの秋になる実から採ったものらしい。ありふれた雑草に近似した花、ばらでも菊でもよい。これらの花に反応する感性がリーチの作った壷や皿に描かれる抽象的な図柄に凝縮していることが想像できるいかにもリーチらしい民芸精神が溢れるフレーズだ。


この雑草が覆う敷地には南に面した道路の方にミカンの木が二本ある。だいぶ前から園芸対象から外れて放置されてきた前住者が植栽した庭木みたいなものだ。たまにまぐれで実がなっても雑草に養分を持っていかれて実の大きさも数も望めない木だった。この木の幹から伸びる枝を毎年、剪定してみたせいか?今年は初めて20個くらいの青い実が成っているのに今朝方やっと気がついた。12月になれば黄色く色づいた種類不明なこの柑橘を賞味できる楽しみが待っている。ミカンの木に隣接して数年前に植えていた明日葉の苗も手入れ不在で雑草に囲まれているが、幹がしっかりと根付いているから簡単にはしおれそうもない。冬篭りを準備しているのだろうか。花蕾をたくさんつけているのを眺めるのは初めての体験だ。色彩による鮮やかな対比はないものながら、淡い緑が素晴らしく美しい。久方の雑草地に潜んでいる草花の動きを眺めて秋を感じる休日である。