『雨の日のだんごむしたちは』
まえだ かん
雨の降る季節になるといつも
だんごむしたちのことを考える
植木鉢の下や枯れ葉の下で身を寄せ合い
雨が上がるのをじっと待っている者たちのことを
子どもが手に乗せてだんごむしを一匹
大事そうにそうっと見せにきた
差し出された手のひらが静かに開くと
丸まって寝たふりをしている
それからやがてあくびをひとつ背伸びをひとつ
用事を思い出したみたいにおずおずと歩き出す
きみこれからどこへ行くんだい?
そんなにすっかり雨に濡れて
ひとりさすらいの旅に出るのかい?
ぼくらをこの地球に残して何もかもを後に残して
親指の先が行き止まりでだんごむしはふと立ち止まる
それからまた別の用事を思い出したみたいに引き返す
わが家の小さな庭さきも
虫たちにとっては広大な森
手のひらの断崖から見下ろすのは空と大地とを隔てる深淵
猫の額ほどのただの芝生の庭ではない
大人はいつも大きくて立派なものに憧れ圧倒され喜んでいる
でも子どもはごく身近なあたりまえの小さいものが好き
朝から降りだした雨はまだやまない
手のひらのだんごむしとぼくら
きょうも宇宙の片隅で
雨がやむのを静かに待っている