『すてきなおんがくたい と おじいさん』
まえだ かん・さく
クリスマスがちかづいた、ふゆのあるひ。
ねずみのちゅーたくんとさるのもんきちくんが、ふたりでもりのなかをあるいていると、いっけんのちいさなまるたごやを、みつけました。
「こんなところにうちがたっていたっけ?」ちゅーたくんが、いいました。
「さぁ、みたことないね。だれがすんでいるんだろう?」もんきちくんが、いいました。
ふたりはふしぎにおもって、まるたごやのげんかんまでいき、げんかんのドアを(こんこん、とんとん)とじゅんばんにノックしてみました。
「こんにちは!」
「だれかいませんか?」
ふたりはいいましたが、へんじがありません。
ふたりがあきらめてかえろうとした、そのとき。
げんかんのドアがギギーッとひらき、なかから、ひとがあらわれました。ふたりはそのひとを、ゆっくりとみあげました。それは、ほっぺたがあかく、まっしろなひげをはやした、でぶっちょのおじいさんでした。
「わしのいえのドアをたたくのは、だれかね?」
おじいさんは、いいました。
「ぼくたちです。ぼくは、ねずみのちゅーたです」
「ぼくは、さるのもんきちです」
ふたりがそういうと、おじいさんはこしをかがめて、ふたりをじっとみました。
「ほう、ちゅーたくんに、もんきちくんか。わしになんのようじゃな?」
「おじいさんは、ここでひとりでくらしているのですか?」
もんきちくんが、いいました。
「そうじゃよ、わしはずーっとひとりでくらしておる」
おじいさんは、いいました。
ふたりはしばらくかんがえていましたが、やがて、ちゅーたくんがおもいついたように、いいました。
「ねぇ、おじいさん。おじいさんは、サンタクロースがほんとうにいるとおもいますか?」
「もちろんだとも。わしはサンタクロースにあったこともある」
「えーっ!ほんと?」
「すごいなぁ!」
ふたりはびっくりして、いいました。
「むかしのことじゃ。さぁ、なんにもないが、これをもっていきなさい」
そういうと、おじいさんはちいさなぎんいろのすずを、ふたりにさしだしました。ふたりはおれいをいって、そのすずをうけとりました。
「ありがとう、おじいさん」
ちゅーたくんは、いいました。
「ありがとう、だいじにします」
もんきちくんは、いいました。
「どういたしまして」
おじいさんは、いいました。
それからふたりは、すずをならしながら、スキップしてうちへかえりました。
つぎのひ。
ちゅーたくんともんきちくんのはなしをきいて、うさぎのぴょんこさんとらいおんのライアンくんとぞうのぞうじろうくんが、おじいさんをたずねてもりのなかへやってきました。おじいさんのまるたごやまでやってくると、三にんはじゅんばんに(とんとん、どんどん、どーんどーん)とドアをノックしてみました。
「こんにちは!」
「ごめんください」
「だれかいませんか?」
三にんはいいましたが、へんじがありません。
三にんがあきらめてかえろうとした、そのとき。
げんかんのドアがギギーッとひらき、なかから、ひとがあらわれました。それは、ほっぺたがあかく、まっしろなひげをはやした、でぶっちょのおじいさんでした。
「だれだね?わしのいえのドアをなんかいもたたくのは」
おじいさんは、いいました。
「こんにちは、おじいさん。わたしは、うさぎのぴょんこです」
「こんにちは、おじいさん。ぼくは、らいおんのライアンです」
「こんにちは、おじいさん。わたしは、ぞうのぞうじろうといいます」
三にんがそういうと、おじいさんはすこしおどろいたようにめをまるくして、いいました。
「ほう。きょうはまた、おおぜいのきゃくじんじゃな」
「おどろかせてごめんなさい。わたしたち、おじいさんにおたずねしたいことがあるの」
ぴょんこさんが、いいました。
「みんなが、おじいさんのうわさをしているものですから、ぜひおあいして、たしかめてみようとおもい、ここへきました」
ぞうじろうくんが、ていねいに、せつめいしました。
「ふむふむ。なんでもきくがいい」
おじいさんは、ひげをなでながら、いいました。
「えーっと、おじいさんは、ほんとうにサンタさんにあったことがあるんですか?」
ライアンくんが、はずかしそうに、たずねました。
「ほんとうじゃ。ずーっとむかし、わしがまだこどもだったころにな」
「おじいさんはサンタさんじゃないのですか?」
ぞうじろうくんが、いいました。
「みんなは、おじいさんがサンタだって、うわさしているんです」
ぴょんこさんが、いいました。
「うーむ。ざんねんながら、わしはただのじいさんじゃ。サンタではない」
三にんはすこしがっかりして、だまっていました。
「そんなにがっかりせんでもええ。あいたいとねがっていれば、いつかきっとサンタにもあうことができる。さぁ、なんにもないが、これをひとつずつもっていきなさい」
そういうと、おじいさんはちいさなぎんいろのすずを、三にんにさしだしました。みんなはおれいをいって、そのすずをうけとりました。
「ありがとう、おじいさん。たいせつにします!」
三にんはくちぐちに、いいました。
「よいこでいるんじゃよ」
おじいさんは、いいました。
それから、三にんはすずをならしながら、スキップしてうちへかえりました。
さて、つぎのひ。
きょうは、いよいよまちにまった、クリスマス・イブ。
みんなからはなしをきいた、くまのくまごろうくんが、おじいさんをたずねてひとりでもりのなかへやってきました。
そのおじいさんがサンタクロースでないらしいことは、みんなのはなしにきいてしっていましたが、くまごろうくんはおじいさんにあって、ちょくせつきいてみたいことが、あったのです。
おじいさんのまるたごやまでやってくると、くまごろうくんはげんかんのドアを(どすん、どすん)と、たたきました。
くまごろうくんはしばらくまっていましたが、へんじがありません。
ふだんならあきらめてかえるところでしたが、くまごろうくんは、もういちどドアをたたきました。(どすん、どすん。どすん、どすん)
「おーい。だれかいないのかー!」
くまごろうくんは、おおきなこえで、いいました。
やがて、ドアがギギーッとひらき、なかから、ひとがあらわれました。それは、ほっぺたがあかく、まっしろなひげをはやした、でぶっちょのおじいさんでした。
「だれだね?わしのいえのドアを、なんどもなんどもたたくのは」
「おいらは、くまのくまごろう。おじいさんにどうしてもききたいことがあって、やってきたんだ」
「ほーう。なんでもきくがいい。わしにこたえられることがあれば、こたえよう」
「おじいさんが、サンタにあったことがあるって、ほんとうなのかい?」
「いかにも。わしはサンタにあったことがある」
「いつあったんだい?」
「ずーっとむかし、わしがまだこどもだったころじゃ」
「いったいどこにいるんだろう、サンタは?」
「それは、わしにもわからない」
くまごろうくんはがっかりしたように、かたをおとして、だまりこんでしまいました。
「そんなにがっかりせんでもええ。サンタはきっと、どこかにおる。そうじゃろう?」
おじいさんは、ひげをなでながら、いいました。
「でも、おいらのとうさんは、『サンタなんかほんとうはいない、そんなもの、ただのつくりばなしだ』っていうんだ」
そういうと、くまごろうくんのめから、ひとつぶのなみだがあふれ、ほほをつたってじめんにこぼれおちました。
おじいさんは、ふーっとひとついきをおおきくはいて、くまごろうくんにあゆみより、くまごろうくんのかたを、ちからづよくだきしめました。
「そんなことはない」おじいさんは、しずかなこえでいいました。「サンタはかならずいる。このそらのどこかに。このだいちのどこかに。しんじるものの、こころのなかに」
「サンタクロースはほんとうにいるんだね?」
「もちろんだとも。しんじるものがいるかぎり、サンタはまいとしみんなのもとへやってくるだろう。だが、もしだれもサンタをしんじなくなってしまったら、サンタはじぶんのたいせつなしごとをなくして、とほうにくれるかもしれない」
「うん。おいらは、サンタをしんじるよ。いつかあえたら、あくしゅするんだ」
「では、なにもあんずることはない。ひとのことばにまどわされてはならん。じぶんのしんずるものを、しんじつづければよいのじゃ。そうはおもわんか?」
くまごろうくんは、なんどもうなづきました。そして、このおじいさんがほんとうのサンタだったら、どんなにいいだろうとおもいました。
「きみのとうさんも、むかしこどもだったころは、サンタをしんじることができたはずじゃ。もしかしたらサンタにあったことだって、あるかもしれぬ。しかし、としをとると、わしらはいろんなものをわすれてしまう。ときには、じぶんがほんとうにたいせつにしているものまで、なくしてしまうことがある。それが、いきているということなんじゃよ。さぁ、なんにもないが、これをもっていきなさい」
そういうと、おじいさんはちいさなぎんいろのすずを、くまごろうくんにさしだしました。
くまごろうくんは、なみだをふき、おれいをいってそれをうけとりました。
「ありがとう、おじいさん」
「よいこでいるんじゃよ」
おじいさんは、いいました。
「さようなら」
くまごろうくんは、いいました。
それから、くまごろうくんはすずをならしながら、スキップしてうちへかえりました。
さて、そのばんは、まちじゅうのこどもたちが、いつもよりはやくベッドにもぐりこみました。『いつまでもよふかしをしていると、サンタはなかなかやってこないよ』と、おとうさんやおかあさんに、いわれるからです。なかには、ドキドキしてねつけないこどももいましたが、それでも十二じのかねがなるころには、みんなゆめのなかでした。
やがてだれもがねむりについたころ、まどのそとでは、しずかにゆきがふりはじめました。
さて、クリスマスのひのあさ。
めをさますと、まちじゅうにゆきがつもっていました。もりとのはらも、いちめんまっしろなゆきにおおわれて、あさのひかりにキラキラとかがやいていました。きのえだにつもったゆきが、じぶんのおもさでおちるたびに、ドサーッとおおきなおとがします。
いえのやねには、おおきなつららができて、へやのまどやベランダまでのびていました。やねにつもったゆきがすこしずつとけて、のきをつたってじめんにながれるうちに、いつのまにかおおきなつららになるのです。
あさいちばんでめをさましたこどもたちは、さっそくベッドをぬけだして、しろいいきをはきながら、いえのどこかにおいてあるはずのプレゼントをさがします。サンタさんのプレゼントは、いつもいえのいろんなばしょにおいてあるのです。
まちじゅうのこどもたちのところには、ことしもサンタクロースからのプレゼントが、ちゃんと、とどけられていました。
もちろん、すてきなおんがくたいの六にんのところにも、プレゼントはとどいていました。くまごろうくんのいえのげんかんにも、ねがいどおりのプレゼントがおいてあり、はこのうえには、こんなメッセージがそえられていました。
『くまごろうくんへ
しんじるものが いるかぎり
サンタはちゃんと ここにおるぞ
クリスマス おめでとう!
サンタより』
くまごろうくんは、そのメッセージをなんどもくりかえし、よんでみました。
それから、くまごろうくんがプレゼントのはこをもちあげると、(チリン)とおとがして、なにかがゆかにおちました。みると、それはみおぼえのある、ちいさなぎんいろのすずでした。
(あっ、おじいさんのすずだ)
それはみればみるほど、あのおじいさんからもらったすずに、よくにていました。
くまごろうくんは、そのすずをひろいあげ、みみもとでなんどかならしてみました。
(チリーン、チリーン、チリーン、チリーン、チリーン、チリーン)
すんだうつくしいおとが、くまごろうくんのいえのげんかんに、なりひびきました。
そのひのごご、すてきなおんがくたいは、ゆきのつもったのはらにあつまりました。
みんなは、それぞれのもとへとどけられた、プレゼントについてはなしました。
「ことしもぼくたちのところに、サンタさんきてくれてよかったね」
ちゅーたくんが、いいました。
「うん。ひとばんで、みんなのところにプレゼントをくばるのは、たいへんだろうね」
もんきちくんが、いいました。
「ねぇ、あのおじいさんのうちへ、みんなであそびにいってあげましょうよ?」
ぴょんこさんが、ふとおもいついて、いいました。
「そういえば、あのおじいさんは、むかしサンタにあったことがあるって、いってたよ」
ライアンくんが、いいました。
「そうだ、おじいさんに、ぼくたちのおんがくをきかせてあげよう」
ぞうじろうくんが、いいました。
「もしかしたら、あのおじいさんは、ほんとうにサンタかもしれないよ」
くまごろうくんは、てにもっていたふたつのすずをみせながら、にっこりわらって、いいました。
そうして、みんなはそろってもりへいってみることにしました。
むかしからずっとひとりでもりにくらしているという、あのおじいさんに、クリスマスのうたとおんがくをきかせてあげることにしたのです。
「さぁ、おじいさんのいえにむけて、しゅっぱーつ!」
六にんはそれぞれのがっきをてにもって、あるきだしました。
むねには、もちろん、ちいさなぎんいろのすずをつけて。
〔この作品は05年12月に書かれた。このささやかな物語をすべてのしんじんのこども達に捧げる〕
まえだ かん・さく
クリスマスがちかづいた、ふゆのあるひ。
ねずみのちゅーたくんとさるのもんきちくんが、ふたりでもりのなかをあるいていると、いっけんのちいさなまるたごやを、みつけました。
「こんなところにうちがたっていたっけ?」ちゅーたくんが、いいました。
「さぁ、みたことないね。だれがすんでいるんだろう?」もんきちくんが、いいました。
ふたりはふしぎにおもって、まるたごやのげんかんまでいき、げんかんのドアを(こんこん、とんとん)とじゅんばんにノックしてみました。
「こんにちは!」
「だれかいませんか?」
ふたりはいいましたが、へんじがありません。
ふたりがあきらめてかえろうとした、そのとき。
げんかんのドアがギギーッとひらき、なかから、ひとがあらわれました。ふたりはそのひとを、ゆっくりとみあげました。それは、ほっぺたがあかく、まっしろなひげをはやした、でぶっちょのおじいさんでした。
「わしのいえのドアをたたくのは、だれかね?」
おじいさんは、いいました。
「ぼくたちです。ぼくは、ねずみのちゅーたです」
「ぼくは、さるのもんきちです」
ふたりがそういうと、おじいさんはこしをかがめて、ふたりをじっとみました。
「ほう、ちゅーたくんに、もんきちくんか。わしになんのようじゃな?」
「おじいさんは、ここでひとりでくらしているのですか?」
もんきちくんが、いいました。
「そうじゃよ、わしはずーっとひとりでくらしておる」
おじいさんは、いいました。
ふたりはしばらくかんがえていましたが、やがて、ちゅーたくんがおもいついたように、いいました。
「ねぇ、おじいさん。おじいさんは、サンタクロースがほんとうにいるとおもいますか?」
「もちろんだとも。わしはサンタクロースにあったこともある」
「えーっ!ほんと?」
「すごいなぁ!」
ふたりはびっくりして、いいました。
「むかしのことじゃ。さぁ、なんにもないが、これをもっていきなさい」
そういうと、おじいさんはちいさなぎんいろのすずを、ふたりにさしだしました。ふたりはおれいをいって、そのすずをうけとりました。
「ありがとう、おじいさん」
ちゅーたくんは、いいました。
「ありがとう、だいじにします」
もんきちくんは、いいました。
「どういたしまして」
おじいさんは、いいました。
それからふたりは、すずをならしながら、スキップしてうちへかえりました。
つぎのひ。
ちゅーたくんともんきちくんのはなしをきいて、うさぎのぴょんこさんとらいおんのライアンくんとぞうのぞうじろうくんが、おじいさんをたずねてもりのなかへやってきました。おじいさんのまるたごやまでやってくると、三にんはじゅんばんに(とんとん、どんどん、どーんどーん)とドアをノックしてみました。
「こんにちは!」
「ごめんください」
「だれかいませんか?」
三にんはいいましたが、へんじがありません。
三にんがあきらめてかえろうとした、そのとき。
げんかんのドアがギギーッとひらき、なかから、ひとがあらわれました。それは、ほっぺたがあかく、まっしろなひげをはやした、でぶっちょのおじいさんでした。
「だれだね?わしのいえのドアをなんかいもたたくのは」
おじいさんは、いいました。
「こんにちは、おじいさん。わたしは、うさぎのぴょんこです」
「こんにちは、おじいさん。ぼくは、らいおんのライアンです」
「こんにちは、おじいさん。わたしは、ぞうのぞうじろうといいます」
三にんがそういうと、おじいさんはすこしおどろいたようにめをまるくして、いいました。
「ほう。きょうはまた、おおぜいのきゃくじんじゃな」
「おどろかせてごめんなさい。わたしたち、おじいさんにおたずねしたいことがあるの」
ぴょんこさんが、いいました。
「みんなが、おじいさんのうわさをしているものですから、ぜひおあいして、たしかめてみようとおもい、ここへきました」
ぞうじろうくんが、ていねいに、せつめいしました。
「ふむふむ。なんでもきくがいい」
おじいさんは、ひげをなでながら、いいました。
「えーっと、おじいさんは、ほんとうにサンタさんにあったことがあるんですか?」
ライアンくんが、はずかしそうに、たずねました。
「ほんとうじゃ。ずーっとむかし、わしがまだこどもだったころにな」
「おじいさんはサンタさんじゃないのですか?」
ぞうじろうくんが、いいました。
「みんなは、おじいさんがサンタだって、うわさしているんです」
ぴょんこさんが、いいました。
「うーむ。ざんねんながら、わしはただのじいさんじゃ。サンタではない」
三にんはすこしがっかりして、だまっていました。
「そんなにがっかりせんでもええ。あいたいとねがっていれば、いつかきっとサンタにもあうことができる。さぁ、なんにもないが、これをひとつずつもっていきなさい」
そういうと、おじいさんはちいさなぎんいろのすずを、三にんにさしだしました。みんなはおれいをいって、そのすずをうけとりました。
「ありがとう、おじいさん。たいせつにします!」
三にんはくちぐちに、いいました。
「よいこでいるんじゃよ」
おじいさんは、いいました。
それから、三にんはすずをならしながら、スキップしてうちへかえりました。
さて、つぎのひ。
きょうは、いよいよまちにまった、クリスマス・イブ。
みんなからはなしをきいた、くまのくまごろうくんが、おじいさんをたずねてひとりでもりのなかへやってきました。
そのおじいさんがサンタクロースでないらしいことは、みんなのはなしにきいてしっていましたが、くまごろうくんはおじいさんにあって、ちょくせつきいてみたいことが、あったのです。
おじいさんのまるたごやまでやってくると、くまごろうくんはげんかんのドアを(どすん、どすん)と、たたきました。
くまごろうくんはしばらくまっていましたが、へんじがありません。
ふだんならあきらめてかえるところでしたが、くまごろうくんは、もういちどドアをたたきました。(どすん、どすん。どすん、どすん)
「おーい。だれかいないのかー!」
くまごろうくんは、おおきなこえで、いいました。
やがて、ドアがギギーッとひらき、なかから、ひとがあらわれました。それは、ほっぺたがあかく、まっしろなひげをはやした、でぶっちょのおじいさんでした。
「だれだね?わしのいえのドアを、なんどもなんどもたたくのは」
「おいらは、くまのくまごろう。おじいさんにどうしてもききたいことがあって、やってきたんだ」
「ほーう。なんでもきくがいい。わしにこたえられることがあれば、こたえよう」
「おじいさんが、サンタにあったことがあるって、ほんとうなのかい?」
「いかにも。わしはサンタにあったことがある」
「いつあったんだい?」
「ずーっとむかし、わしがまだこどもだったころじゃ」
「いったいどこにいるんだろう、サンタは?」
「それは、わしにもわからない」
くまごろうくんはがっかりしたように、かたをおとして、だまりこんでしまいました。
「そんなにがっかりせんでもええ。サンタはきっと、どこかにおる。そうじゃろう?」
おじいさんは、ひげをなでながら、いいました。
「でも、おいらのとうさんは、『サンタなんかほんとうはいない、そんなもの、ただのつくりばなしだ』っていうんだ」
そういうと、くまごろうくんのめから、ひとつぶのなみだがあふれ、ほほをつたってじめんにこぼれおちました。
おじいさんは、ふーっとひとついきをおおきくはいて、くまごろうくんにあゆみより、くまごろうくんのかたを、ちからづよくだきしめました。
「そんなことはない」おじいさんは、しずかなこえでいいました。「サンタはかならずいる。このそらのどこかに。このだいちのどこかに。しんじるものの、こころのなかに」
「サンタクロースはほんとうにいるんだね?」
「もちろんだとも。しんじるものがいるかぎり、サンタはまいとしみんなのもとへやってくるだろう。だが、もしだれもサンタをしんじなくなってしまったら、サンタはじぶんのたいせつなしごとをなくして、とほうにくれるかもしれない」
「うん。おいらは、サンタをしんじるよ。いつかあえたら、あくしゅするんだ」
「では、なにもあんずることはない。ひとのことばにまどわされてはならん。じぶんのしんずるものを、しんじつづければよいのじゃ。そうはおもわんか?」
くまごろうくんは、なんどもうなづきました。そして、このおじいさんがほんとうのサンタだったら、どんなにいいだろうとおもいました。
「きみのとうさんも、むかしこどもだったころは、サンタをしんじることができたはずじゃ。もしかしたらサンタにあったことだって、あるかもしれぬ。しかし、としをとると、わしらはいろんなものをわすれてしまう。ときには、じぶんがほんとうにたいせつにしているものまで、なくしてしまうことがある。それが、いきているということなんじゃよ。さぁ、なんにもないが、これをもっていきなさい」
そういうと、おじいさんはちいさなぎんいろのすずを、くまごろうくんにさしだしました。
くまごろうくんは、なみだをふき、おれいをいってそれをうけとりました。
「ありがとう、おじいさん」
「よいこでいるんじゃよ」
おじいさんは、いいました。
「さようなら」
くまごろうくんは、いいました。
それから、くまごろうくんはすずをならしながら、スキップしてうちへかえりました。
さて、そのばんは、まちじゅうのこどもたちが、いつもよりはやくベッドにもぐりこみました。『いつまでもよふかしをしていると、サンタはなかなかやってこないよ』と、おとうさんやおかあさんに、いわれるからです。なかには、ドキドキしてねつけないこどももいましたが、それでも十二じのかねがなるころには、みんなゆめのなかでした。
やがてだれもがねむりについたころ、まどのそとでは、しずかにゆきがふりはじめました。
さて、クリスマスのひのあさ。
めをさますと、まちじゅうにゆきがつもっていました。もりとのはらも、いちめんまっしろなゆきにおおわれて、あさのひかりにキラキラとかがやいていました。きのえだにつもったゆきが、じぶんのおもさでおちるたびに、ドサーッとおおきなおとがします。
いえのやねには、おおきなつららができて、へやのまどやベランダまでのびていました。やねにつもったゆきがすこしずつとけて、のきをつたってじめんにながれるうちに、いつのまにかおおきなつららになるのです。
あさいちばんでめをさましたこどもたちは、さっそくベッドをぬけだして、しろいいきをはきながら、いえのどこかにおいてあるはずのプレゼントをさがします。サンタさんのプレゼントは、いつもいえのいろんなばしょにおいてあるのです。
まちじゅうのこどもたちのところには、ことしもサンタクロースからのプレゼントが、ちゃんと、とどけられていました。
もちろん、すてきなおんがくたいの六にんのところにも、プレゼントはとどいていました。くまごろうくんのいえのげんかんにも、ねがいどおりのプレゼントがおいてあり、はこのうえには、こんなメッセージがそえられていました。
『くまごろうくんへ
しんじるものが いるかぎり
サンタはちゃんと ここにおるぞ
クリスマス おめでとう!
サンタより』
くまごろうくんは、そのメッセージをなんどもくりかえし、よんでみました。
それから、くまごろうくんがプレゼントのはこをもちあげると、(チリン)とおとがして、なにかがゆかにおちました。みると、それはみおぼえのある、ちいさなぎんいろのすずでした。
(あっ、おじいさんのすずだ)
それはみればみるほど、あのおじいさんからもらったすずに、よくにていました。
くまごろうくんは、そのすずをひろいあげ、みみもとでなんどかならしてみました。
(チリーン、チリーン、チリーン、チリーン、チリーン、チリーン)
すんだうつくしいおとが、くまごろうくんのいえのげんかんに、なりひびきました。
そのひのごご、すてきなおんがくたいは、ゆきのつもったのはらにあつまりました。
みんなは、それぞれのもとへとどけられた、プレゼントについてはなしました。
「ことしもぼくたちのところに、サンタさんきてくれてよかったね」
ちゅーたくんが、いいました。
「うん。ひとばんで、みんなのところにプレゼントをくばるのは、たいへんだろうね」
もんきちくんが、いいました。
「ねぇ、あのおじいさんのうちへ、みんなであそびにいってあげましょうよ?」
ぴょんこさんが、ふとおもいついて、いいました。
「そういえば、あのおじいさんは、むかしサンタにあったことがあるって、いってたよ」
ライアンくんが、いいました。
「そうだ、おじいさんに、ぼくたちのおんがくをきかせてあげよう」
ぞうじろうくんが、いいました。
「もしかしたら、あのおじいさんは、ほんとうにサンタかもしれないよ」
くまごろうくんは、てにもっていたふたつのすずをみせながら、にっこりわらって、いいました。
そうして、みんなはそろってもりへいってみることにしました。
むかしからずっとひとりでもりにくらしているという、あのおじいさんに、クリスマスのうたとおんがくをきかせてあげることにしたのです。
「さぁ、おじいさんのいえにむけて、しゅっぱーつ!」
六にんはそれぞれのがっきをてにもって、あるきだしました。
むねには、もちろん、ちいさなぎんいろのすずをつけて。
〔この作品は05年12月に書かれた。このささやかな物語をすべてのしんじんのこども達に捧げる〕