しばらく雨降りの日が続いているので、子どもたちは少しだけ発散が足りなくなってきているようですが、雨が降れば降ったで晴れの日にはできないこと、感じられないことというものもやはりあります。たとえば年少組のある男の子。いつも外で遊ぶのが大好きで、私を見つけると必ず全速力で駆けてきてこう言います。
「えんちょうせんせい、だんごむしみつけましょう!」
その言い方がじつに丁寧で微笑ましく、私はいつもふたつ返事で彼の提案に乗ることにしています。「はいはい見つけましょう、見つけましょう!」と。
それから我々はさっそくその他大勢の虫取り名人たちと共にダンゴ虫やら幼虫やらコガネムシやらを探しはじめます。
そんな彼は、このところの長雨で外に出られず、虫探しもできないので、仕方なく私と戦いごっこなどをする毎日なのですが、どうも心は園庭のダンゴ虫にあるようなのです。ある朝、私と彼とで園児玄関から外の雨降りを恨めしく眺めている時に、彼はふとこんなことを呟きました。
「えんちょうせんせい、だんごむしは何をしてるでしょう?」
「さあ、何してるんだろうねえ」
私はそう言ってすぐにハッとしました。彼はただ漠然とだんご虫を思い出しているのではないのです。際限なく降り続ける雨の中で、だんご虫たちはどうしているのか? 無事に暮らしているのか? そのことを心配していたのです。
私はふいにそのことを理解して、なんだかとても温かい気持ちになることができました。この男の子の中にも人として生きていくうえでとても大切な感情がちゃんと育っている、と感じたからです。少なくともその時、彼は外で雨に打たれているはずのだんご虫たちのことに思いを馳せていたのです。それは、なんと素敵なことでしょう。
「沈黙の春」という著書で有名なレイチェル・カーソンというアメリカの海洋学者が晩年に残した短いエッセー「センス・オブ・ワンダー」の一節にはこんな言葉が記されています。
『知ることは、感じることの半分も重要でない』
良い言葉です。どんな意味でしょうか? つまり、(知る)ということはそれほど重要なことではない、(感じる)ことこそ重要なことである。という意味ですね。知識を溜め込むことよりも感じる心が大切である、と。
私は幼児教育の中では(特に幼児期においては)このことが彼らにとってとても大切なことであると思います。ものを覚えるよりもまず、感じ取る力や想像する力が重要であると。そのことをどんな形で子どもたちに感じ取ってもらえば良いのか? 空気のように胸いっぱいに吸い込みながら、ごく自然にそのような感受性を身に着けさせるにはどうしたら良いのか?
たとえば、雨の日のだんご虫たちが私たちに大切なことを教えてくれているのです。
*『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン著/新潮社・1400円
自然の中で大人と子どもが驚きや発見を共有することの素晴らしさについて多くの示唆を与えてくれる一冊です。興味のある方は是非読んでみてください。
【今日の一枚】
今日(20日)は久しぶりにすっきり晴れて、子どもたちは外で思い切り遊びました。
「えんちょうせんせい、だんごむしみつけましょう!」
その言い方がじつに丁寧で微笑ましく、私はいつもふたつ返事で彼の提案に乗ることにしています。「はいはい見つけましょう、見つけましょう!」と。
それから我々はさっそくその他大勢の虫取り名人たちと共にダンゴ虫やら幼虫やらコガネムシやらを探しはじめます。
そんな彼は、このところの長雨で外に出られず、虫探しもできないので、仕方なく私と戦いごっこなどをする毎日なのですが、どうも心は園庭のダンゴ虫にあるようなのです。ある朝、私と彼とで園児玄関から外の雨降りを恨めしく眺めている時に、彼はふとこんなことを呟きました。
「えんちょうせんせい、だんごむしは何をしてるでしょう?」
「さあ、何してるんだろうねえ」
私はそう言ってすぐにハッとしました。彼はただ漠然とだんご虫を思い出しているのではないのです。際限なく降り続ける雨の中で、だんご虫たちはどうしているのか? 無事に暮らしているのか? そのことを心配していたのです。
私はふいにそのことを理解して、なんだかとても温かい気持ちになることができました。この男の子の中にも人として生きていくうえでとても大切な感情がちゃんと育っている、と感じたからです。少なくともその時、彼は外で雨に打たれているはずのだんご虫たちのことに思いを馳せていたのです。それは、なんと素敵なことでしょう。
「沈黙の春」という著書で有名なレイチェル・カーソンというアメリカの海洋学者が晩年に残した短いエッセー「センス・オブ・ワンダー」の一節にはこんな言葉が記されています。
『知ることは、感じることの半分も重要でない』
良い言葉です。どんな意味でしょうか? つまり、(知る)ということはそれほど重要なことではない、(感じる)ことこそ重要なことである。という意味ですね。知識を溜め込むことよりも感じる心が大切である、と。
私は幼児教育の中では(特に幼児期においては)このことが彼らにとってとても大切なことであると思います。ものを覚えるよりもまず、感じ取る力や想像する力が重要であると。そのことをどんな形で子どもたちに感じ取ってもらえば良いのか? 空気のように胸いっぱいに吸い込みながら、ごく自然にそのような感受性を身に着けさせるにはどうしたら良いのか?
たとえば、雨の日のだんご虫たちが私たちに大切なことを教えてくれているのです。
*『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン著/新潮社・1400円
自然の中で大人と子どもが驚きや発見を共有することの素晴らしさについて多くの示唆を与えてくれる一冊です。興味のある方は是非読んでみてください。
【今日の一枚】
今日(20日)は久しぶりにすっきり晴れて、子どもたちは外で思い切り遊びました。