妊娠が判明したらカフェインやアルコールを控えなければならないことは、誰でも知っていること。しかしこれら以外にも、妊婦が食べてはいけない食品があるって知っていますか? 実は最近、妊娠中に「トキソプラズマ」という寄生虫に感染することによって、生まれてくる赤ちゃんに障害が出ることが注目されているのです。
■生肉で感染しやすいトキソプラズマ
トキソプラズマとは寄生虫の一種で、人への感染ルートは牛、豚、馬、鶏、羊などの肉をレアのまま食べること。生ハムやレバ刺し、ユッケ、レアステーキなどを食べると感染する可能性があります。また、猫のふんを触ったり、土いじりやガーデニングをしたりした手で食事をすることも感染につながります。そのほか、ベランダで育てているハーブを洗わずにそのまま食べるといったことも感染ルートに。
トキソプラズマに感染した妊婦を数多く診ている、三井記念病院産婦人科部長の小島俊行医師はこう話します。
「トキソプラズマは一度感染すると一生体内に寄生し続けます。体内にトキソプラズマがいるかどうかを調べる検査をすると、地域によって大きな差があり、レアなお肉を食べる習慣がある地域ほど、陽性の確率が高くなります。つまり、レアなお肉が大きな感染ルートとなるのです」
トキソプラズマが陽性の妊婦は関東地方では平均7%程度ですが、馬刺しや鳥刺しを食べる習慣がある南九州地方では約15%と感染率が高く、生肉を日常的に食べるフランスやベルギーは約80%もの妊婦が感染しているのです。
■妊娠中の初期感染に要注意
実はトキソプラズマは通常感染してもほとんど症状はなく、健康に影響を及ぼすことはありません。問題となるのは妊婦が生まれて初めて感染した場合です。この場合、胎盤から血液を介して胎児に感染する可能性があり、生まれてきた赤ちゃんの脳や目に障害が残ることがあるのです。具体的には、脳に髄液がたまる水頭症や目に炎症が起こる網膜炎などです。
「胎児に感染する可能性があるのは、受精が成立したときからです。妊婦のトキソプラズマが胎児に感染する確率は約30%で、妊娠10週くらまでの場合は4%程度です」(小島医師)
妊娠初期に母体が感染した場合、胎児に感染する確率は低いですが、不安を減らすためにも妊活中の人は排卵後からレアなお肉などは避けたほうがいいというわけです。
■感染を調べる検査を受けよう
では、自分がトキソプラズマに感染しているかどうかを知るには、どうすればいいのでしょうか?
「『トキソプラズマ抗体検査』という血液検査を受ける必要があります。現在約半数の産婦人科でこの検査を妊婦健診に導入し、妊娠初期の血液検査で受けることができます。受診している施設で導入していなくても、レアなお肉を食べたり、土いじりをしたりする機会がある人は医師に相談して、検査を受けることをおすすめします」(小島医師)
検査で陰性の場合、トキソプラズマに感染していないことになります。しかし油断は禁物。トキソプラズマの抗体がないということは、妊娠中に初めて感染する可能性があるということなので、引き続き注意する必要があります。
「うっかりレアっぽいお肉を食べてしまって心配な人は、食べてから2週間後に再び検査してみるといいでしょう」(小島医師)
一方陽性の場合は、さらに詳しい検査で妊娠前に感染したのか妊娠中に感染したのかを調べます。その結果、妊娠中に感染した可能性が高い場合、母子感染を防ぐ薬を服用することで、胎児に障がいが生じるリスクを1/7に減らすことができます。