日本では春にも接種開始か…新型コロナワクチン「知らずに打ったら後悔する」3つのポイント(文春オンライン) - Yahoo!ニュース
このワクチンの日本での接種は国内での臨床試験や審査を経る必要があり、早くても来年3月以降になると見られています。その頃には欧米各国で何十万、何百万という人がワクチン接種を終えているでしょう。それにともない安全性や有効性に関する情報も蓄積され、このワクチンの真価が少しずつ見えてくると思います。 日本での接種が始まったときに、ワクチンを打つかどうか個々人が適切に判断するには、欧米の情報も含めて、このワクチンがどんなもので、どんな課題があるのかを、あらかじめ知っておく必要があると思います。 そこで、「ワクチンを打つ前に最低限知っておきたい3つのこと」を、ウイルスやワクチン研究者に取材した成果をもとに、私なりにまとめてみました(文春ムック「 スーパードクターに教わる最新治療2021 」の特集記事「新型コロナ 治療の最前線を追う」で、ワクチン、治療薬、PCR検査について筆者が取材・執筆を担当)。
(1)欧米のワクチンは本格使用が初めての「最新タイプ」
まず知っておきたいのが、同じ新型コロナウイルスワクチンといっても様々なタイプがあり、欧米で接種が始まったものはこれまでにない「最新のタイプ」であるということです。従来のワクチンは、人工的に感染性や病原性を弱めたウイルスや、微生物や昆虫細胞を利用して生産したウイルスたんぱくの一部を注射することで、それに対する抗体を免疫細胞に作らせる仕組みです。「不活化ワクチン」「組み換えたんぱくワクチン」「組み換えウイルス様粒子ワクチン」といったタイプがあります。 これに対し、今回、英米で始まった接種には、ファイザー(米)とビオンテック(独)が共同開発した「mRNA(メッセンジャーアールエヌエー)ワクチン」が使われています。これは「遺伝子ワクチン」の一種で、ウイルスの表面にある「スパイクたんぱく」と呼ばれる部分の設計図(遺伝子)を注射することで、ヒトの細胞に設計図を取り込ませてスパイクたんぱくを作らせ、それに対する抗体を免疫細胞に作らせる仕組みです。 ファイザー&ビオンテックのワクチンは、日本政府が1億2000万回分(2回接種が必要なので6000万人分)の供給を受ける合意を得ています。さらに日本はモデルナ(米)のmRNAワクチン(5000万回分)と、アストラゼネカとオックスフォード大が共同開発中の「ウイルスベクターワクチン(1億2000万回分)」の供給も受ける予定です。このウイルスベクターワクチンや、大阪大発のバイオベンチャー企業アンジェスのグループが開発を急いでいる「DNAワクチン」も遺伝子ワクチンの一種です。
安全性や有効性は“未知数”な面も
これら遺伝子ワクチンは、まだ本格的にヒトに使われた実績がほとんどありません。「最新」と聞くと自動車やパソコンのように、従来に比べ高性能で優れているイメージを持つかもしれませんが、医薬品の場合は本格的な使用が始まって調査してみたら、従来の製品のほうが最新のものより優れていたということが往々にしてあります。また、最新ということは裏を返せば、まだ安全性や有効性に関するデータが蓄積されていないということでもあります。
一方、「不活化ワクチン」や「組み換えたんぱくワクチン」は、これまでも数多くのヒトに接種した実績があり、安全性に関しても知見が蓄積されています。たとえば、乳幼児に接種される「四種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)ワクチン」や「日本脳炎ワクチン」、毎年打つ人の多い「インフルエンザワクチン」は不活化ワクチンです。 これらは蓄積されたデータから、どんなヒトにどのような副反応が出るか予見しやすく、対応もしやすい利点があります。実は、国立感染症研究所や国内ワクチンメーカーのグループは安全性を重視して、不活化や組み換えたんぱくなど従来のタイプのワクチン開発に取り組んでいます。まだ大規模な臨床試験を実施するに至っておらず、本格的に接種できるのは来年後半か再来年以降になると思われますが、今後、こうした実績のある従来タイプが登場する可能性もあることは、知っておいたほうがいいでしょう。
(2)有効性95%は「100人中95人防げる」という意味ではない!
ファイザー&ビオンテックのワクチンは、中間結果で2回接種後の有効性が95%に達したと報告されました。またモデルナのワクチンも2回接種後で95%近い有効性が報告されています。国内のワクチン研究者に聞いても「予想以上の高い成績」とのことで、非常に期待が持てる結果だと言えるでしょう。 ただ、ワクチンの有効性に関してはよく誤解されるのですが、これは「100人打てば95人はコロナを防げる」という意味ではありません。ファイザー&ビオンテックの場合、米国、ドイツ、トルコ、南アフリカ、ブラジル、アルゼンチンで行われた臨床試験(第Ⅲ相試験)に、全部で43448人が参加しています。この人たちの約半数をプラセボ(ニセモノ)を打つグループ、約半数を本物のワクチンを打つグループに分けて、試験は実施されました。 その結果、接種時にコロナ感染歴のなかった36523人のうち、コロナに感染した人がプラセボを打った人では162人(重症者9人)だったのに対し、本物を打った人では8人(重症者1人)に減ったというのが95%の意味です。つまり、解析対象となった人の大半(36353人)は、本物のワクチンを打ったか打たなかったかにかかわらず、試験期間中にコロナにかかっていないのです(感染率は解析対象者の約0.47%に過ぎません)。
試験開始から3ヵ月ほどの中間結果
しかも、これは試験開始から3ヵ月ほどでの中間結果です。このワクチンの長期的な安全性と有効性を検証するために、被験者はさらに2年間追跡調査されることになっています。その間に、被験者の中でコロナに感染する人がさらに出てくる可能性もあります。もしかするとワクチンによって高められた抗体の力が落ちるなどして、ワクチンを打った人の中でもコロナ感染者や重症者が増え、プラセボグループとの差が縮まることもありえるのです(もちろん、逆に差が広がる可能性もあります)。 もちろん、ワクチンの効果が持続することを期待しますが、肝心なのは長期的に結果を見ていく必要があるということです。「95%」という高い数字はあくまで暫定的なものとして、冷静に推移を見守る必要があるでしょう。
(3)ワクチンを打つ方が重症化することもありえる
ファイザー&ビオンテックのワクチンに関して、第Ⅲ相試験の中間結果で報告されている重度の副反応は「疲労(3.8%)」と「頭痛(2.0%)」のみでした。今のところ、冒頭に書いた強いアレルギー反応以外に、命に関わったり後遺症が残ったりするような重大な副反応は、報告されていません。 とはいえ、慎重に見ていかなくてはいけないのも確かです。第一に注意すべきなのが、臨床試験では検出されなかった副反応が明らかになる可能性です。試験では約2万人にしかワクチンを打っていません。もし重篤な副反応があったとしても、それが10万人に1人に起こるものだったとすると、2万人の試験の段階では感知できない可能性があるのです。 これから欧米では、何百万、何千万、将来的には何億という人がこのワクチンを打つかもしれません。すると、10万人に1人しか起らない稀な副反応だったとしても、100万人に打てば10人、1000万人に打てば100人、1億人に打てば1000人が被害を受けることになります。実際、これまでも臨床試験の段階で安全だと思われていた薬が、多くの人に実際に使われたとたんに、副作用で大問題になったというケースがいくつもありました。
通常は5~10年かかるプロセスを1年足らずで
もう一つ知っておくべきなのは長期的な安全性についてです。中間報告の段階では95%の有効性で、重症化した人もプラセボ9人に対してワクチン1人と、非常に期待の持てる結果でした。しかし、長期的に見て解析してみると、実はワクチンを打った人のほうが重症化する人が多かったという結果にならないとも限りません。 実際にワクチンやウイルスの専門家の間でもっとも心配されているのが、ワクチンを打ったことでかえって感染がしやすくなったり、症状が悪化したりする現象です。過去にも小児のRSウイルスワクチンやデング熱のワクチンで、この現象が報告されています。つまり、短期的には安全性に問題がないように思えても、長期的に見てみるとワクチンを打ったほうが感染率や重症化率が高かったということも起こりえるのです。 ワクチン開発には安全性や有効性を見極めるために通常は5~10年かかるとされています。にもかかわらず、新型コロナのワクチンは緊急性が高かったこともあって、たった1年たらずで開発され、本格接種が始まりました。強調しておきますが、私はワクチンが失敗すればいいとか、打たないほうがいいと思っているわけではありません。 しかし、新型コロナのワクチンについては、まだまだわからないことが多いのです。安心してワクチンを打つには、欧米での接種のデータなども見ながら、どのような問題点やクリアすべき課題があるのかを知ることが欠かせません。そのためにも、国内でのワクチン接種にどう臨んでいくか、一人一人が判断できる情報を政府・厚労省は包み隠さず、周知する努力をすべきだと考えます。