早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十八年十一月 第三十六巻五号 近詠 俳句

2023-12-05 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年十一月 第三十六巻五号 近詠 俳句

      近詠
出來稲の風なり日なり面うつ

さわやかに寄合畠朝の聲

秋晴れの窗時となく機を迎ふ

野菊咲くむかし神崎の白拍子

遠くにも家前秋耕見ゆるかな

草風つけて見舞に來てくれし

秋大日武庫山すでに一の暮れ

増産のひびきかすかに蟲の夜

鵙の聲窗にはまりし野のせまく

菊の花このをごそかさ必必勝

秋の雲みだりに散らず人とゆく

山路見る蔓なり鉢に紅葉しぬ

秋日南筆硯われをそゝるなる

病み居れば友にも甘へ秋燈下

病めば土のむやみに戀し薯の土

秋の蚊の窗を浮き出て遠山て

秋の人空地の草をしごき出し

霽るゝ雨朝のぬけゆく秋ざくら

だれかはひとり憩ひ居る石草秋の
   
    子規忌、友善忌
    十月三日 於 河内道明寺
ことづける不参の一句子規忌かな

友善忌故友に告ぐる戰の句

    六橋觀對座吟 宋斤と布丈
       
舳蹴つて待宵草に膝つきぬ

   待宵艸川底ひろく水寢ねて 布丈

    六橋觀偶會 宋斤、松堂、妙女
夏大雨晴れて目高を涼しうす 
   夏の雨眺めて玻璃の蝿とあり 松堂 

   夏の雨たゝかれそよぐ蔓のもの

▽宋斤は 書痙を専念に治療のため去る十月六日尼崎市潮江病院に入院。








宋斤の俳句「早春」昭和十八年十月 第三十六巻四号 近詠 俳句

2023-12-05 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年十月 第三十六巻四号 近詠 俳句

     近詠
秋高し飛機南へ去るありて

澄む水の痛く征地の人を想ふ

ひしひしと世がひゞくなり天の川

病んでゐてなによきものか夜業の燈

みたみわれの心が責むる秋夜半

白妙の空なくしたり秋の雲

街残暑辻に豊穣語るあり

秋知れと猪名野の芒呉れしかな

秋の門男子觀送ありて後

秋日南小魚が鉢に波たてゝ

脛舞ふて疊走りぬ秋の風

露草はたくましの莖もろく折れ

名月やじゃが薯蒸して代食す

我欄や辰巳ひらけに鰯雲

燕の歸りし筈が川擦れる

一客と地震を堪え居り置團扇

對岸の草にあざやか秋の蝶

得參らむ子規忌とて萩の一半句

宵闇や荷船空ら船軌み合ひ

颱風を恐れ待ちつゝ蜻蛉見る  

航空日暴風警報あるを飛べり

嘘でなき程に零餘子よ桟庭は

邯鄲を鳴かせて書架の抜き窪に

さわやかの雲こそ秋の彼岸入り

秋光や懐ひ一つに佛の日

ちちろ蟲まぢかに鳴いて夜が冷ゆる

身に入むや友のなにかにありがとく

日あたりて頓に冷まじ水の上

    夏草
襖する夏草に一気飛び入りぬ

ひた進む夏草に銃を泳がせて

夏草に憺荷は戻る慘む血よ

夏草の夜は沈々と散歩前

夏草ふかく馬首揃えすでに抜刀す

    風
牛の眼に涼し夕風行々子

    家
行々子芦の途切れに小煙筒

    橋
葭切や橋ひつぱつて舟はくゞる  

    舟
葭切や蘆中一揖また一竿
    
    町
よしきりや口碑なにはの片葉芦

    夏祭
子に着せて母は祭の厨せはし

祭錢汗に握って買ふも惜し

山車提灯男の子男の子をちゝくまに

打ち水を打ち交わし貰ひ祭かな

    子規忌 九月二十六日 於 萩の寺


天高しきびしき今を飛機に見る

天高しふたゝび仰ぐ飛機のあと

天高をいたつき居ればぬすみ見る

   


 












 
























宋斤の俳句「早春」昭和十八年九月 第三十六巻三号 近詠 俳句

2023-12-04 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年九月 第三十六巻三号 近詠 俳句

    近詠

秋の空日ぐせの白雨霽れ手より

秋思つのれば逢いたき人の多きかな

濱木綿のなほ咲くありてせゝり蝶

銀眞爪切るには若し頬にあつる

薮里の展けざま聴く秋まつり

倉の窓風鈴鳴りて夜は燈る

花茣蓙に孫なゝ月の投げ坐り

烏瓜と覺えておかむ憐れ咲く

旅信みな秋書き來なり病ひ倦む

七夕竹蜘蛛手の露路の軒々に

生まれし地にこびりつきゐる残暑かな

ひとのやうに盆ゆく田舎ほしきかな

道埃り荷馬車自動車ぎす売り來

蜻蛉の春き來たり葉に垂れぬ

焦げし蛾の露に醫すなる旦の葉に

疎らあるすまひとり草秋の風

一葉して風の磨る地に隨えり

小雨降るといふ背戸の聲秋らしも

細やなぎ手摺に持てば散りそむる

引船の会圖秋蝶に綱を放つ

舟が焚く秋の煙りのくだけつゝ

秋の猫舟にあそびてすなやかに

ふくらみきつて咲かむと堪ゆる桔梗なれ

みつむるに秋の小蝿の夜に光る

替え枕ひくきに移る夜の長き

病み居れば暁けをひたすら待ち蟲を聴く

草の香に夜の更けきたる一間かな

   門火
門火すれば何か兆ざしてにぎわしく

萩がもと芒のすその門火哉

一村凡そ縁につながる門火哉

  早春社八月本句会
   立秋前日 江戸堀北通り青年技師社 
     宋斤病気のため、初めて本句会欠席
   兼題「火取蟲」「藤豆」席題「藤の實」

晝の蛾の竹林ふかくまぎれけり

朝の蛾の掃き捨てにけり谷ふかく

白襖べたと火蛾のふるひゐる

一窓に肘を預けて青田かな

走る風青田にありて漲る日


















宋斤の俳句「早春」昭和十八年八月 第三十六巻二号 近詠 俳句

2023-11-09 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年八月 第三十六巻二号 近詠 俳句

    近詠
大柳風巻き入りて季夏のあり

友來たるみな日焼けたる親しけれ

空中戦熾烈を思ふ雲の峰

日盛りを配給の拍子木打って來る

優雲華に隅々迷信打破を説く

舊盧樹ありてこの玉蟲を得たるなり

蚊姥のそのかげさらに春ける

毎日暑きアンテナたるみ眼の空に

眠り草夜はまことに深寝かな

一つ葉の干からび一葉一葉抜く

足場の根蔵あい風に三尺寝

  六橋観句座 
   洛艸さん 如雨露さんと膝つきあわせたしんみりした句座
梅疎なり塀ゆくほどに谷あがり

春雪や堂後の笹の拓きかけ

春寒や野蒜そよぐが日をもてり

春寒し川中川に映る山

空降りて眉に來りぬ春の雪

降りやみし雨にて草の古座哉

古草に小さき鳥居を植えしかな















宋斤の俳句「早春」昭和十八年七月 第三十六巻一号 近詠 俳句

2023-10-31 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年七月 第三十六巻一号 近詠 俳句

    近影
夏偉他甍百萬海碧し

沙羅の花寺縁曲がりにやゝ遠く

端居すや満干の差が五六尺

もの想ふしづか金魚の水面あり

金龜蟲催眠術にかゝりけり

戰へりみな働けり蟻を見る

桐芽生え草凌せて廣葉かな

子が買うを母祖母が選り海酸漿

船人の南風くちづさみ䌫解く

松の秀を水に直下す夏の蝶

よしきりや水中を伐る樵夫あり

夏菊の咲いて蕾をのこさずに

青蔦の塀ふるはする挽材所

なにも居ぬと見れば底這う手長蝦

鮎焼くや山色懐ふ伊賀の国

蛭ノへ楓映りてこまやかに

     梅雨
道頓堀梅雨降りこゝら筏詰む

けふの部屋花を缺きたる梅雨昏し

亡き友の棟對岸に梅雨の夜の

梅雨の蝿撃つたれ戦車十數機

鳥の餌のこぼれが生えて梅雨の草

夜半の川うちて眞白し梅雨豪雨

病み居りていやな梅雨否降れ快く

机まわり片付かぬこと梅雨燈

梅雨日ごろ船に來る鳩增えしやう

梅雨霽れて水明夏の著るし

梅雨晴れの眞晝高空鷺わたる

一燈の漏るなく梅雨の川迅し

驛筋のいま橋上の梅雨往来

梅雨の葉に蟷螂の子が腰たかし

   枯葎
枯葎かたち古墳のその如し

野の音のこゝに發して枯葎

江を往いて壕とはなりぬ枯葎

かれ葎雲一枚に水平ら

  第十七回「楠公忌」修営
歩も晴れて松のみどりの暢ぶころぞ

楠欅蝶は秀をゆく山五月

  早春社天王寺三月句會
春の雲尾上はなれて白かつし