宋斤の俳句「早春」昭和十八年六月 第三十五巻六号 近詠 俳句
近詠
アッツ等の忠烈惨禍
玉砕あゝ皇軍二千夏さむし
○ひけり
垣の薔薇から舟から剪つて貰ひけり
蝦蛄生きて皿にまじまじ視られけり
盤石の朝に松蝉ひゞきけり
頼りして憂き斷ち山女釣るといふ
こま蠅のきりきりと舞ふ原稿紙
蔵窓に届き玉巻く芭蕉かな
家々の防火水槽と稲何になに
校庭夏日楠氏銅像無くなりぬ
朴の花會遊の舟生のこの頃に
夜明けたる濁水迅し夏柳
月末の小拂ひに立つ洗ひ髪
室生寺の釣り一ツ葉に朝起きし
蛇の衣十重にも畳に筺の中
かたばみの花より小さきでんで蟲
菌
菌山深からねども谺する
くさびらのほのと匂ふて御陵なる
そこばくの厨の菌の匂ひけり