早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十八年六月 第三十五巻六号 近詠 俳句

2023-10-31 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年六月 第三十五巻六号 近詠 俳句

   近詠

   アッツ等の忠烈惨禍
玉砕あゝ皇軍二千夏さむし
    ○ひけり
垣の薔薇から舟から剪つて貰ひけり

蝦蛄生きて皿にまじまじ視られけり

盤石の朝に松蝉ひゞきけり

頼りして憂き斷ち山女釣るといふ

こま蠅のきりきりと舞ふ原稿紙

蔵窓に届き玉巻く芭蕉かな

家々の防火水槽と稲何になに

校庭夏日楠氏銅像無くなりぬ

朴の花會遊の舟生のこの頃に

夜明けたる濁水迅し夏柳

月末の小拂ひに立つ洗ひ髪

室生寺の釣り一ツ葉に朝起きし

蛇の衣十重にも畳に筺の中

かたばみの花より小さきでんで蟲


   菌
菌山深からねども谺する

くさびらのほのと匂ふて御陵なる

そこばくの厨の菌の匂ひけり




宋斤の俳句「早春」昭和十八年五月 第三十五巻五号 近詠 俳句

2023-10-24 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年五月 第三十五巻五号 近詠 俳句

    近詠
蝶しろし海明けてくる松のそら

ちる花の遠くはろかにゆく涼し

春かすみ大地いづくも銃後なる

睡蓮の水をはじけて生ひきたり

背戸川に帆舟めづらし朝つばめ

食ふべてはむらさきを積む蜆穀

母子草崖になそえの流し屋根

巴してコップの底の蝌蚪ふたつ

友去りしあとの春夜のよき勞れ

配給やかますごまみれ鯛一尾

筍を噛みつゝ今年花を見ず

   竹之浦吉崎懐舊
蓮如忌へ鹿島の茂り舟に擦る

病みながら行く春の句座約しけり

芝能や葉ざくらをちる夕日の班

   大家雁山氏を誄す
瑞穂の地かたき守りて今朝の春

初富士をさしゆく草の戸の煙

初明かり稲舟軒にふかふかと

初鴉田舟々々の雪白に

藁塚にぬくもり凧をあげにけり

   歌留多
かるたの夜母屋の闇に生まれしとぞ

かるたの戸自轉車雪に委せある

   逝く春
高き木の匂ひ咲くあり春の逝く

行く春と思ひ仰きつ星満天

朝きよく公園の径春のゆく

蝶ひらひら街一筋を春果つる

   猿蓑 宝塚植物園
花人のそれならで句座雨のよし

彩管のありて居籠る春の雨

猿蓑の猿に蓑なし春の雨















宋斤の俳句「早春」昭和十八年四月 第三十五巻四号 近詠 俳句

2023-10-18 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年四月 第三十五巻四号 近詠 俳句

    近詠
朝ざくら参差の奥に澄みにけり

飛機の見えず蝶の生まれ降る街の空

春水に筏解くあり夜も木挽く

春の月銃後のかくてありがたき

白晝の石甃はづさず蜂泳ぐ

野を見たし末黒の中を歩きたく

花の下句に怠りの友と逢う

暁けくるに間あり蔵並み河岸柳

春雨に芭蕉は草か葉の匂ひ

街は燈を漏らさず春夜むらさきに

   雪女
すそ捲いて吹雪のうつる雪女

雪女しかと早みてすでになし

くるぶしをあざやか運び雪女


宋斤の俳句「早春」昭和十八年三月 第三十五巻三号 近詠 俳句

2023-10-16 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年三月 第三十五巻三号 近詠 俳句

   近詠
春たちぬすめらみくには巨歩を踏む

春の雲仰ぐうちにも暢ぶるかな

たんぽゝの花ひとつ野に神を知る

早春の野につどひきて詩に盟す

畑打ちのやすみては空を尊みぬ

初鮒や笊の荒目に十ヲばかり

梅の中こまかき風の土にある

山茱萸を小門に覗き岡の坂

蘖の戦ぎつ池の輝きつ


    立春
野や晴れて立春の水さゝやける

立春や戦勝さらに神いのる

春たちて禿山海とさだかなり

    二月本句會 氷浮く
氷浮くや柳は枯れのもりあがり

    對座吟 岡澤紅鷹君と紀元節の夜
霞夜に入るとし村家あたゝかく

山風の頬にいたくて花は芽に

    伊賀上野吟杖
しづかさや木の葉のあとに嵐來る

木の葉時雨に人來溜まりて塚の前

掃く人の石蕗をそよがしあらはれぬ

     簑蟲庵
城下町の往來かつ散る紅葉あり

あがる雨町に日南ひろくなる

     俳聖殿 
松中の紅葉明るく城景色

枯草にけふ城中を人繁し

     城内
冬木中竈けむりを戀ひて入る

冬のいろ城址は石に日南して












宋斤の俳句「早春」昭和十八年二 月 第三十五巻二号 近詠 俳句

2023-10-05 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年二 月 第三十五巻二号 近詠 俳句

    近詠

寒晴れて川は鳶の日鷗の日

障子外に船泊まりゐる寒燈

船の音をたのしむ客と火桶かな

のぼのびの畳かへして小正月

寒の水コップにゆるゝなく正し

煮こごりの鰈はなれず裏おもて

句の作り控へを爐火に救ひけり

懐爐灰の善悪談ず老ひけらし

大寒に入る旦晴れ男子生る

孫や生れし病みも居られず春を待つ

ソロモン島ふり顧るアリュシャン春を待つ

吹雪旭あり三冬盡くる川の空


硯洗
大硯を洗ひしにつく芝ほこり

洗ひつる帳場硯の磨り凹み

句座硯筆百本を洗ひけり

いたましの旅硯の傷や洗ひけり

    昭和十七年の早春回顧
宣戦のこの日凍雲閃々と

大君の地に花咲きて福寿草

苦忠然も終わりを知らず霞寒む

山に見る烏の黒さ桑の枯れ

大霜の臼の上にもこぼれ炭

頬杖を佛したまひ若葉寒む

戦へるこゝろ兜を飾るなり

紀伊船の盆しに歸る輪のけむり

菊の戸に海千里なる便りかな

松凍てゝわだつうみ神白夜なる

   早春車発句会   於 住吉神社訪問後 隣社生垣神社 宋斤 すこし歩行困難(リューマチ) 

谷ひと家人の出てゐる初國旗

小波や湖上汽船の初國旗

初國旗はためき雪の地をはしる

初國旗ちらちら松の東海道

   無門會十二月例會
霜柱山ささゝたる塀をゆく

鶏ゆけば我ゆけばなる霜柱

遠つ峰を日のはしり來る霜柱

霜柱厨はじまれば煙り這ふ

  仲秋
仲秋や日和たのしの山の幸

中秋や藪に埋りて月の寺

仲秋や墨磨れる香を水張らす

   朝寒
手を打てば對岸ひゞく朝寒や

朝寒やでゞむしころと枯れている

朝寒の空地の土管減りにけり