早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

定本宋斤句集 冬 6

2019-02-10 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集





定本宋斤句集 冬 6

兎     寺庭や暮れをぬすみて兎出る
根水仙   日にぬくむひとつの水や根水仙
返り花   返り花その英の涼しさよ
山茶花   山茶花の透くはなびら散り易く
      巫女呼ばれゐて山茶花を戻るかな
       平林寺
      山茶花のしずかさにゐて旅ならず
      山茶花をわすれてゐしがなほ散れり
冬薔薇   寳塚の夜の卓上の冬薔薇
冬椿    冬椿紅千々と畳みける 
石露の花  島に居て海わすれゐる石露の花
紅葉散る  みなかみへ躍る岩あり紅葉散る
       難波赤手拭稲荷神社
枯藤    境内や何も無けれど藤枯れて
枯欅    枯れ欅鳴る一望を行手かな 
枯     山彦に招かれつゝも枯れをゆく
       枯るゝもの枯れて平らか洽き日
蓮の骨   蓮の骨晴れて人馬の道高し
落葉    落葉照る小さき湊の丘祠
      芭蕉蕪村みな冬の忌の庭落葉
朽葉    水底の朽ち葉に枝を呢ましぬ
枯芭蕉   枯れしもの芭蕉ほか無く雪の松
枯芒    かれ芒正月すぎていとふるき
       新薬師寺行
      こゝら詠みし古句あるべし枯尾花
麦の芽   麦は芽に豆も植えたる日南かな
大根    大根の土出し首ぞ確と冬
       上京野火止辺り
      小菊黄にみだれ練馬の大根時
枯草    枯れ草のさまも見たしと野を思ふ
      草枯れの廣きはてなる鳥あがる
      あめつちのやすむすがたに草の枯れ 

                  定本宋斤句集 完

定本宋斤句集 冬 5

2019-02-10 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集



定本宋斤句集 冬 5

風邪    川舟の焚く火が寒し風邪ごもり
      我かげの壁に伸びしは風の神
野施行   野施行淵川すぎて行く燈かな
寒玉子   寒玉子ただ一呑みに吸へといふ
寒紅    寒紅やいっしょに包むみすや針
冬の燈   冬の燈に向いて正しき菊の顔
      冬の燈はみなが見てより頬にぬくし
神農祭   神農祭久し往かざる船場かな
宗鑑忌   宗鑑忌幾夜の庵の尼ケ崎
       久々知廣満寺の近松忌に参りて
近松忌   夜は寺に浄瑠璃ありて近松忌
翁忌    陶像の古びかろかり翁の日
水鳥    水鳥にかくれてやりぬ治水の碑
      水鳥のみなが陸つて落ち葉ふむ
笹子    俗住みて寺内干すもの笹子啼く
      笹鳴くや墨の巾なるほそ硯
凍鶴    凍鶴の嘴がぬけ羽を惜しむけり
梟     梟やはるか燈を出す由戸あり
       青有居に小憩句座
      障子外に人の聲する梟哉
寒鴉    寒鴉雪の彼方に歩み去る
冬の鵙   病むものを罵り去れり冬の鵙
冬の蝿   少年の頬をあましと冬の蝿