宋斤の俳句「早春」昭和十一年九月 第二十二巻三号 近詠 俳句
近詠
北摂六瀬にて
山里は地に聞く蝉の土用かな
夏かゞやかとくさの林粛として
蝉の聲山野にしづみ午なる哉
午を撞く鐘を間近かに酷暑かな
蝉時雨雨やむときありて山無風
矚目の一枝ゆるがず蝉の山
竹の中おはぐろ蜻蛉地を吸へり
篠の子の一竿たつに青蛙
のうぜんの落花の露をひろひけり
口吟 二十四句
枝の中合歓の花咲くはろか哉
夏座敷筆硯とみに亂しけり
空蝉をつまみ歸りし句座の人
紅き花みな名を知らず炎天下
蝉時雨渡殿の下墓へゆく
目を病みて山水よろし蝉の下
下闇は椿茂りて實のつぶら
下闇や秋海棠の莖染めて
竹の中竹倒しある夏しづか
瓦屑と秋海棠が夏の影
風少し涼し古松の蔓のもの
庭樹々の中の鬼百合塀をぬく
南天の花のかすかさ夏日かな
蝉時雨柱の釘に念珠あり
山に何か降り沈む音炎暑なる
日盛りの墓の落葉が焚かれある
日盛りを超降って來て黄なる哉
日陰來て楓浮く葉を仰ぎけり
渡殿のさすがに涼し蟻走る
句座つゝむ蝉の夕ぐれ天澤寺
夏の庭槇の常芽を夕暮れに
葭簀越しやうやく夕となりにけり
山寺の蝉に一日したりけり
稲の花
久々の晴れを香に來て稲の花
背戸々々の昏くなりけり稲の花
雲見れば旅の如しやいねの花
鳥飛んで湖景色なる稲の花
いにしへの霞秋なり稲の花
俳句を歩む
六甲山頂の巻
山座敷雨の浴衣を干しひろげ
山の上ふと忘れゐる松みどり
猪名川吟行
空よりの杉の花ちりにはたづみ
初夏や薊の花に雨はれて
青嵐南天畑のさらさらと
多田神社
磴や裾に羽蟻の風ありて
夏陰の草にうもれて萬年青畑
古門の住むとは見えて刈葱畑 刈葱カリキ
まくなぎを眉に拂ふて句ありけり
やぶ騒のよし切鳴くとうとうとくゐる
震災忌外
さかり塲に人あそび居る震災忌
我頭上雲押してゐる震災忌
新涼
新涼や我厨に富む瓜茄子
螽 イナゴ
一鉢の稲に螽もそだてむ歟
山内や螽よく飛ぶ甃
鯊 ハゼ
鯊舟に入江のぼれば蝿多き
鯊釣や今日の日沖に入りかゝる
宵闇
宵闇や古風酒屋の杉の丸
宵闇や雁來紅の林して
早春社七月例會
夏日陰宮の簀の子の風もよし
遠山をしかと見てゆく日陰みち
よるべなき崖のうへなる日陰哉
日車へのばして長し牛の舌
日車の一日の空星出でぬ
早春社洲本鐘紡七月例會
ー宋斤先生臨場句座ー
城山へ立ちやすみては夏の海
早春社立春五月例會
夕風を旅籠の藤に見て彳てる
早春社立春七月例會
かくも百合きりて來りし縁の露
浅澤句會
海棠や雨後に日ありて暮れとなる
春の夜の松の下來て冷やかに
春芝の夜のたひらかふみて入る
近詠
北摂六瀬にて
山里は地に聞く蝉の土用かな
夏かゞやかとくさの林粛として
蝉の聲山野にしづみ午なる哉
午を撞く鐘を間近かに酷暑かな
蝉時雨雨やむときありて山無風
矚目の一枝ゆるがず蝉の山
竹の中おはぐろ蜻蛉地を吸へり
篠の子の一竿たつに青蛙
のうぜんの落花の露をひろひけり
口吟 二十四句
枝の中合歓の花咲くはろか哉
夏座敷筆硯とみに亂しけり
空蝉をつまみ歸りし句座の人
紅き花みな名を知らず炎天下
蝉時雨渡殿の下墓へゆく
目を病みて山水よろし蝉の下
下闇は椿茂りて實のつぶら
下闇や秋海棠の莖染めて
竹の中竹倒しある夏しづか
瓦屑と秋海棠が夏の影
風少し涼し古松の蔓のもの
庭樹々の中の鬼百合塀をぬく
南天の花のかすかさ夏日かな
蝉時雨柱の釘に念珠あり
山に何か降り沈む音炎暑なる
日盛りの墓の落葉が焚かれある
日盛りを超降って來て黄なる哉
日陰來て楓浮く葉を仰ぎけり
渡殿のさすがに涼し蟻走る
句座つゝむ蝉の夕ぐれ天澤寺
夏の庭槇の常芽を夕暮れに
葭簀越しやうやく夕となりにけり
山寺の蝉に一日したりけり
稲の花
久々の晴れを香に來て稲の花
背戸々々の昏くなりけり稲の花
雲見れば旅の如しやいねの花
鳥飛んで湖景色なる稲の花
いにしへの霞秋なり稲の花
俳句を歩む
六甲山頂の巻
山座敷雨の浴衣を干しひろげ
山の上ふと忘れゐる松みどり
猪名川吟行
空よりの杉の花ちりにはたづみ
初夏や薊の花に雨はれて
青嵐南天畑のさらさらと
多田神社
磴や裾に羽蟻の風ありて
夏陰の草にうもれて萬年青畑
古門の住むとは見えて刈葱畑 刈葱カリキ
まくなぎを眉に拂ふて句ありけり
やぶ騒のよし切鳴くとうとうとくゐる
震災忌外
さかり塲に人あそび居る震災忌
我頭上雲押してゐる震災忌
新涼
新涼や我厨に富む瓜茄子
螽 イナゴ
一鉢の稲に螽もそだてむ歟
山内や螽よく飛ぶ甃
鯊 ハゼ
鯊舟に入江のぼれば蝿多き
鯊釣や今日の日沖に入りかゝる
宵闇
宵闇や古風酒屋の杉の丸
宵闇や雁來紅の林して
早春社七月例會
夏日陰宮の簀の子の風もよし
遠山をしかと見てゆく日陰みち
よるべなき崖のうへなる日陰哉
日車へのばして長し牛の舌
日車の一日の空星出でぬ
早春社洲本鐘紡七月例會
ー宋斤先生臨場句座ー
城山へ立ちやすみては夏の海
早春社立春五月例會
夕風を旅籠の藤に見て彳てる
早春社立春七月例會
かくも百合きりて來りし縁の露
浅澤句會
海棠や雨後に日ありて暮れとなる
春の夜の松の下來て冷やかに
春芝の夜のたひらかふみて入る