様似町を過ぎ、アポイ岳の裾を襟裳岬へと向かうにつれ、海はますます荒れてきました。
海は白く泡立ち、波の頂きから水しぶきが飛び散ります。
悪天候でもないのに、これ程までに荒れ狂う海を見るのは初めてかもしれません。
私は目の前に乱舞する波の躍動感に魅せられて、気が付くと護岸に身を寄せ、カメラのシャッターを幾度も押し続けていました。
青い空と白い雲、
蒼い海と白い波。
こんな光景に没頭できるのは、自由な自転車旅であればこその醍醐味です。
えりも町へ向かう国道336はやがて、見事な防潮トンネルを潜りました。
その途中で、自転車から眺める海は、美術館の絵でも見ているような、夢と現の狭間へと紛れ込んだかのような、不思議な感覚の世界を見せてくれました。
えりも町に入ったのは14時を過ぎていました。
正面から吹き付ける風は相変わらずでしたが、今日中に襟裳岬を巡り、岬と広尾町の中間辺りまでは行けるだろうと思っていました。
えりもの街は、独特の哀愁を感じさせます。
私はイギリス最北の地、ジョン・オグローツを訪ねたときのウイックの街を想い出していました。
えりも町とウイック、何れの街も不思議な静けさに包まれていました。
岬の先の灯台守の家族が、肩寄せ合って、吹き荒れる潮風の中で息を潜めて暮らしているような雰囲気が街に漂います。
えりもの街を抜けて襟裳岬へ向かう途中で、北緯42°線を北から南へと越えました。
東の空には虹が掛かっていました。
しかし、この辺りから雨が降り始めたのです。
襟裳岬の方角は、本降りを思わせる、水分が大気に混じり合った空の色を見せていました。
襟裳岬へと続く道に人影は全く見えません。
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