[那覇市長選 取材ノート 記者が見た争点](1)

 那覇市長選が16日告示、23日に投開票される。県都の課題や争点は何か。これまで多くの有権者に聞き、書き留めた取材ノートから、「記者の目」で考える。

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 あの時は朗報だと思った。2014年ごろ、牧志公設市場近くに、昼から飲める大衆酒場がオープンした。千円でビール3杯とつまみ1品が付いてくる「せんべろ」は浸透していない。立ち飲みスタイルも斬新で、私はオープン後に何度か足を運んだ。安く飲めると知った若者たちが昼間から詰めかけ、商店街の一角だけにぎやかだった。

 大衆酒場は観光客の増加に伴い急拡大し、最近では公設市場周辺に200前後の飲食店がひしめく。問題となったのがトイレ不足。商店街店舗にはトイレ併設型が少なく、公衆トイレは深夜には閉まってしまう。路地裏などで用を済ませる酔客が続出した。

 「朝来たら小便や吐かれた物の始末から。大便を片付けたこともある。新市場に戻るか迷っている」

 酒店を営む男性(44)は、来春オープン予定の新牧志公設市場に入居するか悩む。大学時代に市場を訪れ、雰囲気にほれ込んだ。泡盛好きも相まって卒業後、県内の酒蔵からあらゆる種類の泡盛を集めて開店した。

 順風に見えた男性の店は、周囲の飲食店増加で一変した。コロナ禍前の観光が好調だった時期、大音量で音楽を流す飲食店の騒音に絶えられず、警察に通報した。すると酔客たちから暴行を受けた。今も心の傷として残り、新市場への入居をためらう。

 一方、深刻化する中心商店街の立ち小便問題を受け、飲食店側でも自前でトイレを設置する動きが出ている。県外での飲食経営を経て、4年ほど前に開店した男性店長は「トイレがないのに営業するなんて県外では考えられない」。自費でトイレを作った。

 食品衛生法施設基準では「従業者数に応じた便所を設ける」とある。本紙が那覇市保健所に問い合わせると「店舗近辺でトイレが確保できていれば問題はない」との回答があった。

 9月下旬、商店街店舗の植木鉢に若者4人組が立ち小便するところを近隣店主が目撃。写真が交流サイト(SNS)で広がった。被害を受けた店舗従業員は「最悪な気分」とため息をつく。

 コロナ禍が一段落し、再び観光客が戻りつつある中心商店街。新たな市場整備だけでなく、次期市政にはトイレ確保にもしっかり取り組んでほしいと思う。(那覇市長選取材班・城間陽介)