こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
在宅緩和ケアのお話や、日々のあれこれを書き留めます。
看護師さんも募集中!!

看護師ブログのランキングです。ポチッってしてもらえると励みになります。(^^)/

にほんブログ村 病気ブログ 看護・ナースへ
にほんブログ村

自律する人

2009-11-24 21:55:50 | 訪問看護、緩和ケア
うちのステーションから、開設当初から訪問している患者さんがいます。
その人は、上位頚椎損傷のかたで、動かせるのは、肩と口、顔のみです。

以前にもホームページをご紹介した伊藤さん(伊藤道和の部屋)といいます。
ホームページを持ち、あちこちに公演にも行っているし、一時はタウン誌にエッセイも載せたりしていましたので、あえて実名で載せちゃいます。

彼は、熱血体育教師時代、前転の模範演技を失敗して頚椎損傷になってしまいました。
以来二十数年、ベットの上で暮らしています。

彼には素敵な奥様と、素敵な奥様のお母さんがいて、ずっと彼を支えてきてくれました。

伊藤さんのすごいところは、全く動かせない体でありながら、常に自律されていることです。
自立と自律は違います。
彼は自分でトイレには行けませんが、自分でどの方法で排せつをすれば良いかを考え、自分の選んだ人にゆだねることが出来ます。

彼は、良い状態でコンスタントに排便コントロールが出来るように、普段から水分を取り、繊維の多い食事を取り、緩下剤の量もコントロールします。
そして、今自分がどういう状況化をちゃんと把握できています。

もちろん、薬は口に入れてもらわなければなりませんし、排便介助は私たちが定期的に行います。
でも、選ぶのは彼です。
私たちもアドバイスはしますが、彼が納得しないとしません。

それから、彼は人のせいにはしません。
たまにショートステイで褥創を作ってきますが、だからと言って施設を非難したりしませんし、それはそれとして対処します。
「こういうところを気を付けてくださいね。」
とはいいますが、命令したり威圧したりもしません。

長い付き合いの中で、いろんなことを話しました。
私は排便介助をしながら、彼とポツリポツリ話をするのが好きです。
お互い情報交換になりますし、時には子育ての相談なんかも聴いてくれます。
ダイエットの筋トレのしかたとかも・・・

それから、彼はハワイに行ったり、京都に行ったり、沖縄に行ったりします。
おいしい店があるよと話すと「車椅子入りますか?」と必ず聞きます。
だからコストコにも行きますし、みなとみらいあたりは、しょっちゅう出没しています。
もちろん、ボランティアの人と一緒ですが・・・

そういう人だから、自然と人が集まります。
ボランティアさんが、サポートしてくれるのです。

彼は、周囲にとても気を配りますし、さっらとお礼の言葉もいいます。

やってもらってあたりまえ。という態度はありません。
常に、対等でいて、感謝の気持ちをもっています。

なんというか、やってもらうことが当たり前になっている人達が多い中で、かれのそんな生き方が人を呼ぶのかもしれません。

「だれも助けてくれない。どこにも行けない。自分はこんな弱い立場なのに。」
そういうことをいくら言っても、自分で努力したり、周囲に気を配れなければ、たぶん人は集まって来ないと思います。

手足が自由でも、自律できなければ、何よりも不自由なんじゃないでしょうか。

伊藤さんは、そういうことを教えてくれました。

今の彼に至るには、ものすごい苦しみと絶望を乗り越えて来たであろうことは言うまでもありませんが、彼の奥様とそのご両親の深い愛情もあって、こうして子供たちの育成に今も携わっている姿は、やっぱり尊敬してしまいます。

彼は、絵を描きます。
彼が口に筆を口にくわえ、奥様が色を混ぜます。そして、点をつなげて描いていくのです。
気の遠くなるような作業を、根気ずよく妻と二人で続けて行くのだそうです。

本当に、すごいなあと思います。
自分は何が出来るだろうか?
何を伝えられるだろうか?と・・・

今日「お互い年を取りましたね」と話しながら、あらためてそう思った私です。