こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
在宅緩和ケアのお話や、日々のあれこれを書き留めます。
看護師さんも募集中!!

看護師ブログのランキングです。ポチッってしてもらえると励みになります。(^^)/

にほんブログ村 病気ブログ 看護・ナースへ
にほんブログ村

死出の準備

2011-12-18 15:14:02 | 訪問看護、緩和ケア
間もなく23年も終わろうとしています。

この一年のなかでも、たくさんの患者さんやそのご家族と出会い、お別れをしていました。

うちの事業所は、在宅緩和ケアを必要とする方が多く、死への需要が大きな課題となります。

ほとんどの患者さんは、診断と同時に、病名の告知を受けられています。

そして、抗がん剤や放射線治療、手術など積極的に戦う方や、自分はもう一切積極的な治療はせず、民間療法などの自然療法をしたいと願う方など、ご自分の意思でご自分の治療法を選ぶようになってきました。

ですから、聴いたことのないような民間療法や、高額な免疫療法から、食事療法や何もしないでいつもの日常を過ごされた方も含め、次はどこでどのような旅立ちをするかを自分たちで決めていただくことになります。
戦い方は多種多様ですし、戦わない道も多種多様と言う事です。

緩和ケアは、その最終段階といえるケアとなりますが、緩和ケアを受けながらも戦う意思のある方多くいらっしゃいます。
現在の、ホスピスの多くは、何故だか「告知されていること。積極的治療はしない事。延命はしない事。」という条件が付いて回ります。

でも、なんだかそれでは緩和ケアって、一部の人しか受けられないような気がします。

「腎瘻やPTCDなどのチューブが入っている患者さんが、ホスピスを希望した時に、チューブトラブルがあっても入れ替えは出来ません。
重度の貧血があっても、輸血はしません。
緩和目的としかいいようのない抗がん剤でも、使用はできません。
何が何でも、告知は必要です。」


みたいな縛りがあるところが多くて、ホスピスでの穏やかな最期を希望しても、入れない方が実は多くいるのです。

今年も、腎瘻の交換をしてくれるホスピスを探して、やっと見つかりましたが、高齢のご家族が見舞いに通われるのには、金銭的にも体力的にもかなり大変でした。
とはいえ、この方はそのホスピスで本当に良いケアを提供して頂き、穏やかに旅立つことが出来ましたから、それでも幸運だったと思います。

そういう理由も手伝ってか、この地域では連携室の力もあり、在宅緩和ケアに繋がる方が多いのです。

それでも退院時は、いつかはホスピスか緩和ケアを希望されるかたが多くなってきています。
理由の一つは、家族への負担をかけたくない。というご本人の思い。
次は、ご家族の「最後までみる自信がない。」「苦しむのではないか」という不安。
もう一つは、ご本人の医療者が常いいるという安心感。
でしょうか。

そういう気持ちは、最初に確認させていただき、在宅療養の開始と同時にホスピスの面談もお勧めします。
そして、実際療養が始まり、訪問診療や訪問看護、福祉用具やいろいろなサービスがうまく回り始めると、「こんなに在宅療養が充実しているとは思いませんでした。これならば、最後まで見送ることが出来ると思います。」という言葉が聴かれるようになります。

状況の説明をタイムリーのお伝えすることと、近い将来の予測をお伝えすることで、ご家族も冷静に対応することが出来るようになるのです。
もちろん、苦痛は最小限に留めるよう、緩和ケアのお薬はきちんと処方されますし、予測指示のおかげで、無駄に苦しむ必要もないのです。

このお薬は、麻薬や非麻薬の鎮痛剤、それに神経系に作用するお薬などで、いろんな形態がありますので、その方に利用可能な形で処方して頂きます。

ただ、麻薬に関してはご本人、家族共にきちんと理解ができないと、使用方法を間違ったり、苦痛が取れないなどの弊害もあり、病状説明と共に開始と同時に説明がなされます。

多くの方が、麻薬に対して怖いと思ったり、「これを使うようになったら、お終いだ。」と思ったりしていますので、かえって苦痛なく過ごすことで良い時間を長く過ごせることをお伝えします。

そういう中で、きちんと告知をされた方は、最初の悲嘆の時期を過ぎれば、次に自分がなすべき事に、集中して動かれることが多いようです。

余命のなかで、身辺整理の時間を作りたいと、ほとんどの方は訴えます。

数年前、私が直腸腫瘍の手術を受けた時も、組織結果が出るまでの間、子供たちに何を残せばいいのかを真剣に考えましたから、やはりそれは皆考えることなのでしょうね。

「身辺整理の時間をください。」
それは今年になって、何度も聞いた言葉です。

やがて、それが終わるとほっとした顔で「これで、思い残すことはありません。後は、苦しまないようにお願いします。」と言われたりします。

そのなかで、今年夏に旅立たれた若いお父さんの事が忘れられません。
もう、あと数日と聞いた父は、娘と妻と母を呼んで、一人一人に別れの言葉をつげ、そして一人一人に自分の心臓の音を聴かせました。
父は生きてここにいた事。これからの人生を、まっすぐに生きて行ってほしいこと。
そして、妻に「愛しているよ。」と。

日本人は、あまり言葉に出して感謝や愛情を表現することが苦手です。

今まで言えなかった言葉を伝えること。

死出の準備は、残される者たちへの、永遠のメッセージを告げることなのかもしれません。