こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
在宅緩和ケアのお話や、日々のあれこれを書き留めます。
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時代を超えて生きる。

2011-12-26 22:42:30 | 読書、漫画、TVなど
まもなく2011年も終わろうとしています。
ステーションも、28日が仕事納めとなり、年末の休暇に入ります。

11月頃からバタバタとしていたステーションも徐々に落ち着きを見せてきました。

そして今日また一人、ご家族のもとから、あちらに旅立たれました。
強い浮腫みや、お腹の張り、通過障害などかなり苦しかったのではないかと思いますが、けっして弱音を吐かない方でした。
仕事や学校に行っているご家族を、なにより気にかけて、私たちにも気を使われる、そんな優しいお母さんでした。
本当は、まだまだ見届けたいものや、手をかけたいものがたくさんあったはずです。
もっともっと、家族のために働きたかったと思います。
ここ数日は、ずっつご家族が交代で見守られていました。
心からご冥福をお祈りいたします。

人は、皆それぞれの人生の物語を生きて、去っていくのですね。

でも、こんなふうに、思いのほか早く旅立たなければならないなんて、誰が予想していたでしょうか・・。

だからこそ、私たちも今を一生懸命生きるしかないのですね。
私が伝えたいものを、残せるように。


心が荒れたり、気持ちが落ちているときは、よい本を読むと救われます。

「風花病棟」
帚木 蓬生氏の新刊です。
10篇の短編小説集です。
心の底から、静かな感動を覚えるような、そんな小説です。

風花病棟 (新潮文庫)
帚木 蓬生
新潮社


この短編集は、皆医師が主人公です。
時に、患者にもなり、時に息子であり、時に精神科医であり、時に耳鼻科医である・・。

そして看護師も出てきます。

いづれも、医師として、看護師として凛としてまっすぐに、そして人として限りなく優しい目で人と接しています。
逃避や嫌悪などの感情を持ちつつ、あるきっかけで、気持ちがほどけていく経過が、とても優しいのです。

このなかで、「チチジマ」と言う作品と「震える月」と言う作品があります。
いずれも、戦争中の軍医であった「自分」や「父親」の体験を中心に描かれており、当時の激しい戦闘や兵隊の置かれている悲惨な描写と共に、現代に戻ってからの回想シーンなどで胸を打つ作品です。

驚いたのは、この二つの作品のなかで描かれている状況を、私は患者さんから何度も話して聞かされていたのです。

以前何度か私のブログ記事にした患者さんの戦争の話と、びっくりするぐらい酷似していたのです。
ああ・・
本当にSさんは、すごい戦争体験者なのだなと、そして数少ない生き証人なのだなと思いました。
Sさんは97才ですから、お仲間の多くはすでに他界されていて、こういう話を直接聞くことが出来る私は幸せだし、こういう話は絶対に後世に残さないといけないなと、強く思いました。
われながら、何年かブログをやっていて、いつSさんの記事を書いたかは覚えていません。
(今探すのも面倒なので・・)
ただ、彼の満州での出来事や、トラック島で終戦を迎えた時の話を記事にしたとき、私の意に反して右翼関係の方なのかわかりませんが、勝手に日章旗で囲まれたブログに転載されていたことがあり、激しい怒りと衝撃を覚えたことがあります。

Sさんは、今でも「あの戦争は、若者の60%を餓死させた。戦争は絶対にしてはいけない。二度と、武器を持ってはいけない。」と言います。
それを、捻じ曲げられた気がして、しばらく憤然として過ごしたことがあるのです。

小説の舞台はチチジマでしたが、当時Sさんはトラック島にいました。
一個中隊で、彼は軍曹だったようです。
48人中28人の部下を、トラック島で失った悔しさを、彼は忘れてはいません。
島の周囲を米軍艦隊に囲まれ、兵糧攻めの状況で睨み合っていたそうです。
でも、日本軍にはもう何もない。
食べるものはなく、じゃんけんで負けたものが、雑草を食べなんでもなければ皆が食べる。
そんななかで、早朝そーっと魚を捕りに入り江に入ろうものなら、どこからか一斉に射撃されるという状況だったそうです。
そして、重度の栄養失調で部下が死んでいく。
しっかりしろと、残り少ないコメを炊いて食べさせようとすると、あるものは口に押し込み、「これで地獄にい行けます。」と死んでいき、あるものは「私はいいから、仲間に・・」と言って死んでいったと言います。

やがて、日本が敗戦し、島に米軍が上陸してきたとき、Sさんはびっくりしたそうです。
突然米兵が「もう、戦争は終わった。私たちは仲間だ。」と言って手を差し出したと言います。

この話を、私はSさんから何度も聞かされていました。

ですから、この小説のいたるところに、同じような場面を見て、なんだか映画を見ているような臨場感があったのです。

人が生きることも、死ぬことも、偶然のいたずらで変わることがあり、そのために子々孫々の運命まで変える可能性もあるということ。
その中で、何を感じ何を学び、何に生かすのか。

ほかにも、アルコール中毒の患者と、その主治医の物語も涙が止まりませんでした。

年末年始、簡単に読める一冊です。
一押しですので、ぜひご一読してくださればうれしいです。