食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

古代ギリシアの宴会「シュンポシオン」

2020-05-23 09:45:40 | 第二章 古代文明の食の革命
古代ギリシアの宴会「シュンポシオン」
哲学者プラトン(紀元前427年~前347年)の中期の著作に「饗宴(ギリシア語:シュンポシオン」がある。このシュンポシオンは元々「宴会」という意味で、プラトンが著作の題名に使ったことにより、以降は「アットホームの雰囲気で行われる議論」のことをこう呼ぶようになった。ちなみに、シュンポシオンは現代の討論会「シンポジウム」の語源である。

ここでは、宴会の方のシュンポシオンを見ていきたい。
古代ギリシアのシュンポシオンは、食後に上流階級の男性が集まって執り行われた。

神々に酒をお供えし、アポロンを讃える歌を合唱することでシュンポシオンは始まる。シュンポシオンは公的なものではなく、酒を通して人々が神々と交わるために催された詩的な集まりと考えれば良い。

古代ギリシアで酒と言えばワインだが、古代ギリシア人はワインをそのまま飲まない。古代ギリシア人が好んだワインはドロドロとした粘度の高いもので、水などで割って飲んだ。このように混合を行う容器を「クラテール」(写真参照)と呼び、かなり大きかったことから、古代ギリシア人はけっこうな呑兵衛だったようだ。


クラテールでワインと水が混ぜ合わせられる前に、参加者は原酒のワインが入った盃を受け取り、自らの守護霊(ダイモーン:デーモンの語源)のために地面に数滴たらす。尚、宗教的理由から盃は必ず左から右に配られた。

ワインと水を混合する時の割合は集まりごとに決まっていた。水2あるいは3に対してワイン1が好まれたが、遊び的な意味もあって同率の混合も見られた(当然、悪酔いする)。

シュンポシオンで欠かせないのが「歌」と「詩」だった。プロの歌い手の歌を聴き、自ら作った詩を披露した。日本でも歌会というものがあり、これは奈良時代から行われていたということから、自分の想いを詩に込めて披露したいという考えは世界中で共通しているのかもしれない。

酒が入れば理性がとんで乱痴気騒ぎになることもしばしばだったようで、それはそれで仕方がないことだと思われる。

そもそも古代ギリシア人が好んだ赤ワインは血の色を想像でき、豊穣とワインの神であるディオニュソス(ローマではバッカスになる)の血液と結びつけられた。ディオニュソスの血液であるワインを飲み酩酊すると、翌年の豊作が約束される。
ブドウはつぶされて、苦しみにあえぎながら死んでしまっても、やがてワインとなって甦る。ここに偉大なるディオニュソスを感じ、ワインを飲んで酩酊することで彼の眷属たりうる喜びを感じていたのかもしれない。



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