Sketch of the Day

This is Takeshi Kinoshita's weblog.

長崎出張(日中韓国際ランドスケープ専門家会議)

2006-09-05 | Japan
Sunday, August 27, 2006
標記会議出席のため長崎に向けて出発。

Monday, August 28, 2006
JR九州の車両デザインは内装も含めてとてもクールだ。カラーリングだけでなく、車両の基本設計自体がJR東日本/西日本とはどこか根本的に異なる。非常に大陸的な雰囲気(シックさ)を感じ、JR東日本の新幹線のグリーン車などよりもよほど高級感がある。というより、おそらく東日本や西日本ではああいったデザインは受け入れられないんじゃないかとさえ思う。

九州旅客鉄道株式会社

東山手及び南山手の外国人居留地跡を見学。両者の違いは、前者が生活の中で昔の町並みが守られているの対して、後者はグラバー園に代表されるようにかなり施設化または観光地化される中で町並みが守られている。国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されており、どうしても歴史的建造物自体やインテリアに目が行きがちだが、注目すべきは建造物のロケーションだ。地形と建造物の配置を重ねてみれば、例えば旧グラバー邸なんてこれ以上ないという良いところに建っている。長崎湾を望む小さく張り出したゆるやかな尾根の突端部に位置し、視界の広がり、開放感、高度感において他の洋館群を凌駕している。建築としては旧グラバー邸は確かに良いのだが、重厚さや豪華さという点では石造りの旧オルト邸のほうが勝っている。しかし旧オルト邸や旧リンガー邸はロケーションでグラバー邸に劣る。この点がグラバー邸の価値を高めているのだと思う。

参考:[PDF] 伝統的建造物群保存地区内文化財の維持管理のための画像データベースの開発

長崎ちゃんぽん発祥の店、四海楼で夕食。食後、復元なった出島へ。さるく博のパスポートを買っておいたので、1000円で、グラバー園、出島を見学することができた。お得! 出島は夜9時半までやっているのが旅人には嬉しい。出島は現在は周囲が埋め立てられ、完全に内陸化している。おなじく新地(中華街)もかつては島だったそうだ。面白いのは出島の東端を流れる中島川が明治時代に河川改修されて流路が付け替えられるのだが、その時に扇形の出島の「先行形態」(中谷礼仁)に従って河川が付け替えられている点だ。埋め立て後にできた道路も同様に出島の先行形態に従って緩やかな湾曲を描いている。

長崎さるく博:出島ワールド

Tuesday, August 29, 2006
「日韓中のランドスケープ教育」をテーマとする学生フォーラムのコメンテータを勤める。司会はイチノセさん(兵庫県大)。ランドスケープの学習状況について日本・中国・韓国の学生さんがそれぞれ概要を説明したのだが、日本のデザイン教育が手薄であることを再確認したほか、伝統的空間や古典庭園等の歴史文化を現代の空間造形、環境形成に活かすという教育の視点が中国と韓国ではとても強いことを実感。日本のランドスケープ教育は明らかにこの点が手薄だ。

学生フォーラム終了後、ポスターセッションを抜け出して、平和公園、原爆公園(爆心地)、国立長崎原爆死没者追悼祈念館を見学。唯一、祈念館のランドスケープデザインにより、祈念館と爆心地が象徴論的に構造化されたことを除けば、平和公園、原爆公園、原爆資料館、祈念館等がバラバラに存在している印象を拭えない(それぞれ別々に建設されたから当然ではあるが)。特に原爆資料館周辺は個々の建築デザインが個性的でまとまりに欠けるなかで、祈念館だけが水盤の中に完全に姿を隠し、ヴォイド=広場(資料館の前庭的性格)を現出した点が救いだ。通り一遍のデザインであればここにまた建物がドンと建てられていたことであろう。水盤に映る周囲の山並みが美しい。S字にカーヴしたクルマのアプローチ道路も◎。

原爆資料館周辺
国立長崎原爆死没者追悼祈念館

会場のブリックホールに戻り、昼食後、シンポジウム。基調講演は「港町・長崎の都市形成と景観」、シンポのテーマは「都市のポテンシャルと景観・みどり・まちづくり」。シンポ終了後、交流会。大学時代の同級生クボタ君に偶然会う。イチノセさんと3人で連れだってディープな夜を過ごす。

Wednesday, August 30, 2006
テクニカルツアー。バスで吉野ヶ里歴史公園(国営公園)、旧円融寺庭園(国指定名勝)、古賀・植木の里(クボタくんのガイドによる)などを見学。吉野ヶ里のデザインは保護と利用のバランスが中途半端な印象(もっと保護に徹してもいいのでは!)。古代という、我々の想像の時間的スケールを逸脱している風景を再現するというのは、ある意味で新しい風景を創造する以上に難しい、というか創造的なことである。単に「景観」を復元するのではなく、「風景」として見せなくてはならない点が、公園デザインの難しいところでもある。古代の景観を復元しなおかつ風景としても見せる、という難題に取り組んだ数少ない事例の一つであり、様々な新しい技術が導入されている点は評価したい。円融寺庭園は手入れが行き届いておらず、ダメ。これでは国指定の名勝が泣く。改めて指定文化財(制度)の限界を実感。文化庁は独法化したほうがよいかもしれない。古賀・植木の里は◎。また、ちゃんぽんの夕食後、夜行で帰路に着く。

吉野ヶ里歴史公園公式サイト
旧円融寺庭園(国指定名勝)
古賀植木園芸組合
長崎さるく博:四百年の歴史を誇る植木技術と庭園~古賀・植木の里散策~