日本中の医療現場で、医学検査のための採血が、1日におよそ10万単位の数で行われていると推定されます。
このなかで、いままで紹介してきましたように、いくつかの採血ミスが、損害賠償の民亊訴訟にまで至っています。
ハインリッヒの法則というのがあります。(少し横道に反れますが、このブログ、医療関係者以外の方もみてくださっているので、医療事故とのかかわりについて記しておきます)
アメリカ人のハーバート・ウイリアム・ハインリッヒ(1886~1962)この人は、アメリカの損害保険会社の技術・調査副部長時代、1929年にある法則についての論文を発表しました。
5000件余りの労働災害を調査し、統計学的手法で導きだしたのが、この法則でした。
災害を示す数値は【1:29:300】というもので、「重症」以上の労働災害が1件発生したその裏には、29件もの「軽症」が発生しており、そのまた背景には、傷害こそ免れたものの、危うく大惨事になるような「ヒヤリ・ハット」いわゆるインシデント、隠れたミスが300件も発生している、ということがわかりました。
まさに、氷山の一角といえましょう。
この段階で気がついてさえいれば、労災の98%は事前に回避できたはずだといいうものでした。
民間の損害保険会社にしてみれば、社運を左右するような、大変な法則の発見です。
以来、航空機や鉄道あるいは自動車事故をはじめとして、消防部門や生産・作業現場での災害・事故防止等、多方面にわたって引用されています。
この法則を、医療現場、とくに採血による傷害に置き換えれば、こういうことになります。
採血ミスによって、1件の重大な神経損傷が起こった裏には、軽い内出血や痺れ等を訴える事故が29件、その裏側に、300件もの「ヒヤリ・ハット」がある、ということになります。
この事故寸前の予兆である、あらゆる「ヒヤリ・ハット」、隠れた過失を見逃さず収集し解析し、安全衛生の指導・教育に生かし、職場の末端まで浸透させる努力によって、医療事故を根絶させようと、活用されています。
過失は文字通り、「あやまち」「しくじり」、法律上では、「注意義務を欠いて、結果の発生を予見しないこと」となります。
刑事事件でも民事でも、「注意義務や過失の回避義務」に背いていたかどうかが問われるのは、どちらも共通です。
さてそこで次回は、「注意」とは、そもそも「注意義務」とは一体なにを指すのか、辞書などひも解きながら、現実の「過失」とともに考えてみようと思います。