たぬきニュース  国際情勢と世界の歴史

海外のメディアから得た情報を書こうと思います。

トルコに密輸されるISISの原油  2014年11月

2016-05-31 23:50:35 | シリア内戦

 

前回、密輸の町ベサスランの現地取材について訳した。ベサスランは小さな町であるが、ここの国境線は反政府軍にとって重要である。石油の密輸は反政府軍が集中している地域で行われている。アレッポとイドリブはシリア内戦の主戦場であり、最後まで死闘が続けられルことになる。ハタイ県とイドリブ県の国境地帯について慣れ親しむことは今後の戦闘を理解する助けになる。

 

前回訳したバズフィード・ニューズの記事では、トルコのハタイ県で石油の需要が多く、シリアからの密輸が盛んなことが語られた。

 

一方でシリア国内の需要も大きい。ISIS地域の住民は燃料を必要としている。自動車・発電機の燃料、そしてパンを焼くため燃料は不可欠である。イラクとシリアにまたがるISIS地域には約800万人が住んでおり、石油に対する需要は大きい。ISISに利益をもたらす市場が広範囲に存在する。

  

    

 

以下は前回の続きである。

====《ISISが石油を密輸する方法》======

             バズフィード・ニューズ   2014年11月3日  

  著者:Mike Giglio

 

ISISは今年(2014年)6月モスル攻略によって、世界的な名声を獲得した。その時トルコの大使館員とその家族49人を人質にした。その直後、ハタイ県国境の密輸取り締まりが厳しくなり、密輸がやれなくなった、とオマルや他の密輸業者が語る。

しかしその後密輸は復活した。密輸業者は国境を超える必要もなく、ベサスランでパイプラインから石油を受け取っている。以前のように、石油の出所はISISの油田である。

 

オマルは自由シリア軍の密輸の下請けをやっているが、国境のシリア側を支配しているのはヌスラ戦線である。自由シリア軍はヌスラと協力的な関係にある。

201410月上旬、オマルはベサスランに近いアトメで密輸の現場をビデオ撮影した。アトメはシリア側である。アトメの位置は上記の地図参照)

 

国境警備員が国境を開け、一晩で数千個のドラム缶がアトメから国境を超えてトルコにはいる。

ビデオには、空になったドラム缶を持ってシリアに帰って来る男たちが写っている。空のドラム缶を一人で4つ運んでいる。片手に2つは持てないので、2つをひもで結び、そのひもを肩にかける。残り2つも同じようにして肩にかける。

オマルが言う。「もう少し早くアトメに行っていれば、石油が入ったドラム缶がトルコに入る場面を撮影できたのだが」。

密輸の仕事はよい収入になるが、もうこの仕事をやめたい、とオマルは言う。「密輸は戦時略奪の最悪の例だ。内戦によってシリアの財産が奪い去られた。クズ鉄から高価な工芸品に至るまで、ありとあらゆるものが奪われた。私は連中が私たちの国に対して行った犯罪を明らかにしたい。

 

ブルッキング・ドーハ研究所のルアイ・ハティーブ(Luay al-Khatteeb)

がトルコへの密輸について説明する。精製され燃料となった石油だけでなく、精製前の原油が大量に密輸されている。

ISIS地域の精油所は製油できる量が少なく、ISISは支配地の需要にこたえることができない。精製しきれない原油は日々3万バレルである。ISISの原油は1バレル35ドルで売れるので、合計105万ドルである。この大量の原油はトルコの精製所へ売られる。売上金の大部分は精製された石油を買うことに使われる。

つまり日々3万バレルの原油がトルコに向かい、それより少ない量の製品石油(燃料)がトルコからシリアへ入っている。

製品石油の大部分はISIS地域で売られ、残りがトルコへ密輸されたり、アサド政権に売られたりする。売上金はISISの戦争マシーンの原動力となる。

 

アンタキヤで石油関連の事業を幅広く営んでいるいるビジネスマンに話を聞いた。彼をユースフ(仮名)と呼ぼう。

彼はヌスラと自由シリア軍の両方から石油を買っている。

「簡易パイプラインを利用して末端の売人から原油を買った。ヌスラ戦線のトラックは堂々と検問所を通ってトルコに入ってくる。彼らから大量に原油を買った」。

ヌスラは警備兵にお金を払い、1300回検問所を通過した。ユースフは買い取った原油をトルコの製油所に運んだ。彼は製油所の名前と場所を言わなかった。

彼は話しを続けた。

「私はベサスランの人間をよく知っている。彼らは貧しい。彼らは石油を運んで売人に渡しているだけだ。トルコの石油ステーションに売ることもある。他の町には大がかりな密輸業者がいて、そういう連中は警官に守られている。

500マイルの国境のどこでも、密輸がおこなわれている」。

 

ユースフは事務所でコーヒーを飲みながら、契約書を取り出し、私に見せてくれた。ISISがトルコで売り込もうとしている石油の種類が書かれている、と彼は言う。その契約書は、トルコの会社の代理人であるユースフとISISの代理人の間に成立した合意を示している。

158リットル容量のバレルを日々3000バレル渡すと書かれている。契約期間は1週間で、1バレルの値段は45ドルである。1週間後に両者が満足したら、取引量を増やすと書いてある。

しかし契約書にはサインがない。ISISとの直接取引ではなく、仲買人との取引だったので、ユースフはこの話を断った。彼はISISを嫌っておらず、人質解放の仲介をしたいと思っていた。密輸ブローカーからもらう手数料より、利益が多い。ヨーロッパ諸国は人質解放のため、数百万ドル支払った。ISISによって人質とされているジャーナリストが現在もいる。

 

 

ガズィアンテプを拠点にしている別のビジネスマンも、シリア産の石油の密輸に深くかかわっている。かつて彼はシリアに石油ステーション、精油所、パイプラインを所有していた。これらは数百万ドルの値打ちがあった。これらを活用して、自由シリア軍と石油の取引をしていた。しかし今年になって、ISISが彼の施設を取り上げた。ISISの石油ビジネス拡大しており、彼の施設はそれに組み込まれている。

トルコ政府の取り締まりにもかかわらず、ISISは大量の石油をトルコに密輸している。国境線は長く、何事にも抜け道がある。

ガズィアンテプのビジネスマンは話を続けた。

ISISにとってトルコへの密輸は、二重三重に利益がある。原油の代金に加え、仲買人に手数料を課す。ISISの検問所を通過する原油に対し、税を課す。原油の販売後に原油の流通過程からも収益を得る。

 

ISISの石油をトルコに長年密輸してきたワイヤム(仮名)も同じことを言っている。輸送費が高いので、国境のトルコ側で受け取る時には値段が2倍になっている。「ISISは石油ビジネスに関して恐ろしく真剣だ。彼らを怒らせたら、こちらの命が危ない」。

 

ワイヤムがシリア側のテル・アビヤドで密輸を始めたのは、ISISがこの町を支配する前だったので、検問所でひとつのトラックから別のトラックへ移し替えるだけの作業だった。「簡単な仕事だった」。

 

今年(2014年)ISISがテル・アビヤドを占領すると、ワイヤムはISISに誓った。ISISの名前で仕事をすることがうれしかった。彼は言う。「ISISは誰からも恐れられている。ISISは強力だ。同時に自分が過ちを犯した場合のことを考えると、怖かった」。

 

しばらくして、ISISが彼の仕事を嫌っていることに、彼は気付いた。彼が独立した業者だったからである。「トルコにはISISの仲間がいる。彼らはトルコの密輸業者を把握している。ISISは私の同僚の密輸業者を数人殺した。それで、私はすぐにトルコに逃げた」。

 

 

ワシントン研究所トルコ部門のソナー・カガプタイが指摘する。「トルコ南部では石油の密輸が昔から行われていることなので、急にやめさせるのは難しい。汚職を前提とした密輸ルートができあがっている。ただ最近、より多くの利益を求めて、密輸が活発になっていることは確かだ。密輸の取り締まりが成功しない別の理由はトルコの姿勢である。ISISはトルコにとって脅威だ。しかしトルコにはさらに重大な敵がいる。アサド大統領と国境地帯のクルドである。

 

トルコ政府の職員は、この問題についてメディアに話すことを禁じられているが、職員のひとりが匿名で語った。

 

ISIS石油のトルコへの密輸は誇張されている。密輸は実際に行われているが、それは地元の役人の汚職が原因だ。政府は関わっていない。米国だってメキシコとの国境を管理できていない。国境管理が難しい場合が少なくない。

 

アサド政権はこの2年間ISISから石油を買っている。ISISとヌスラ戦線から石油を買うことで、彼らを援助している。そのことについて誰も批判しない」。

 

トルコのエネルギー省の職員たちが、電子メールを送ってきた。

 

「トルコ政府はシリア国境での密輸を一切認めていない。国境地帯での石油の密輸を厳しく取り締まっている。

 

シリアとイラクの政府機能が失われ、国境地帯が無法状態になっていることが、トルコへの密輸の原因である。ISISの登場が事態をさらに悪化させた。石油の密輸をとりしまる仕事は、トルコ政府が単独でやらなければならない。

 

トルコの南部国境では昔から密輸がおこなれているが、シリア内戦の開始以来、トルコ政府は取りしまりを強化してきた。

 

2ページの長さのメールは取締の具体例を列挙していた。 ①今年(2014年)の最初の7か月で、密輸された530万ガロン(約15万バレル)の石油を押収した。同時期の昨年と比べると4倍増えている。今年95日ー11日の7日間で、318ガロン(約9バレル)の密輸石油を押収し、2300メートルのパイプラインを撤去した。 

 

シリアとトルコの国境の長さは800Kmを超えており、密輸を消滅させるのは困難な仕事である。

 

警官が密輸を許可している事実が判明したら、トルコ政府は捜査するつもりである」。

 

(原文) This Is How ISIS Smuggles Oil

=================(バズフィード・ニューズ終了)

 

 本文中にあるガズィアンテプとテル・アビヤドの位置を次に示す。アル・ジャジーラなどの記者は、ガズィアンテプを拠点として北シリアについて取材している。テル・アビヤドは、当ブログで何度か取り上げた。テル・アビヤドはラッカの北に位置し、国境を隔てたトルコ側はアクチャカレである。後藤健二さんを解放する予定だった越境地点である。彼がアクチャカレに出て、サジダ・リシャウィがテル・アビヤドに入る捕虜交換は実現しなかった。

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

石油の密輸の現地を取材  シリア北西部

2016-05-13 21:39:15 | シリア内戦

 まず前回からの続きです。フィナンシャル・タイムズがISIS支配下の石油の密輸について詳しく書いています。

           《空爆の影響》

デリゾールの仲買人の話によれば、2014年の米国と有志連合の空爆は、彼らの輸送車を標的にしなかった。むしろ油井での抽出活動を妨害することを目的としていた。また油井そのものを破壊しようとはしなかった。

しかし2015年の10月末、米国は新たな空爆を開始し、11月にはISISの石油基盤に対する攻撃がエスカレートした。有志連合の新戦略は石油のくみ上げ作業をできなくすることだった。これまでは、精製所と石油市場を空爆していた。今度は油田で採掘をしているISISの車両に爆弾が落ちた。また原油のくみ上げ施設に爆弾が落ちた。

ISISが支配する油田の中でも最大であるオマル油田は、一回の爆撃で生産停止に陥った。ここの油井は互いに30㎞離れている。それらの油井全てを中央でコントロールしている。一つの油井が火事になった場合、中央の制御室で残りの油井を閉じるこができる。油井を制御する機械が破壊されたので、今後は手動でやらなければならない。

ISISの資金を絶つ努力は報われつつある。オマル油田とタナク油田の12月の生産量は30%減少した。その後回復しているが。

有志連合の空爆により、普通の市民である石油の仲買人が犠牲になった。住民は再開された空爆に怒っている。地域の経済はISISの石油ビジネスと一体化しており、住民は経済の悪化を恐れている。アレッポ北東の反政府軍地域に住むオマル・シマリが言う。「石油の生産基盤は我々のものだ。それを破壊することは、シリア国民の生活を破壊することだ」。

2015930日、ロシアも空爆を開始した。ロシア空軍は最初から攻撃的にタンカー・トラックをねらって爆撃した。

 

        《石油燃料の密輸》

ISISは原油をくみ上げることで得る利益に満足しており、問屋の仕事には関心がない。それを行っているのはシリアとイラクの業者であ。彼らはISISの石油を隣国に密輸することで大きな利益を得てきた。

シリア人密輸業者の話によれば、ここ数か月商売が傾いている。国境管理が厳しくなったからではなく、石油の国際価格が劇的に下がり、利益が出なくなったからである。しかしこの仕事に専念している業者は相変わらず密輸を続けている。

シリアから石油持ち出す場合、大部分の業者は北西部の反政府軍の地域から国境を超える。

住民は市場で燃料を買い、ジャム用の缶に詰め、それを背負って国境を超える。山岳地帯の場合は、馬やロバで運ぶ。

石油の値段が高かった頃、トルコ国境の川を渡る際、密売人は容量5060リットルの大きな缶を小船や金属製の大型の容器に入れ、それを両岸の間に張ったロープを利用して水上を運んだ。対岸にトラクターが待機してしており、それらの石油缶を闇の市場に運んだ。市場でそれら買い取った小売業者はそれをトラックに積み、地域で販売した。

イラクからトルコへの密輸はクルド地域を通らなければならないので、大がかりな密輸は不可能である。それでアンバール県からヨルダンに入る。

===============(フィナンシャル・タイムズ終了)

 

2015年12月、ロシアはトルコがISISの石油を大量に密輸していると暴露した。数百台の大型石油タンカーが列をなして国境を超えているという。フィナンシャル・タイムズはそれを否定し、ISISの石油はほとんど国内で消費されているとしている。そして小規模な密輸を紹介している。それについて、前回書いた。

 

バズフィード・ニューズの記者は実際に密輸の現地に入った。彼の記事に添付されている写真を見ると、密輸される石油の量はかなり多いようだ。地元で密輸にたずさわっている人間の話からも、そのことが感じられれる。

   

  

ジャーナリストが調査に入った町はフィナンシャル・タイムズが越境地点とした中の一つ、ベサスランである。

 

   

 

  

密輸が行われているベサスランとハシバサのような町はどれも小さな町であるが、越境地点として重要である。ハタイ県の中心都市アンタキヤは反政府軍を支援する外国勢力の一大拠点となっている。この拠点はアレッポとイドリブの反政府軍の勢力拡大に大きく貢献した。次の地図で、反政府軍の支配地が長距離にわたってハタイ県に接していることを確認していただきたい。反政府軍を空爆してきたロシア軍機が撃墜されたのも、ここの国境の上空である。

 

   

 

 =======《密輸の町ベサスラン》===========    

     This Is How ISIS Smuggles Oil

                  2014113

シリアとの国境にあるこの町はいたる所、ごみが散らばている。住民は外部の人間を町に入れない。ごみを収集する人間は町に入れない。曲がりくねった道路の終点にベサスランがある。

世界で最も危険な国境沿いに、陰気な町々がある。それらの町の中でベサスランは最も閉鎖的な町だ。外部の者を寄せ付けない理由は石油だ。

油だらけの集団の一人として、オマルは17ガロン(約64)リットルの古いドラム缶を毎週この町に運んでくる。彼は30歳代のシリア人で、かつては政府軍相手に戦う誇り高い反徒だった。今では商人である。過激派ISISが石油ビジネスを乗っ取り、今は石油業に力を入れている。ISISはシリア東部の油田の石油を売ることにより、日々100万ドル以上の利益を得ている。

ISISの闇取引の実態について世界は何も知らない。

先週の土曜日、ゴミだらけの場所に100個のドラム缶が集まった。オマルは1リットルにつき1.11ドルの値段で売ることができた。ディーゼルの標準価格よりも、42%安い。この町はトルコ内部へ向かう石油の出発点である。ISISがシリア東部でくみ上げた石油を、仲買人が西部の国境まで運び、地下に埋めたパイプラインに流し込む。パイプラインの出口はトルコ側のべサスランである。べサスランの仲買人が新しいドラム缶に詰める。

 

    

 

オマルは新しいドラム缶に入った石油を買い、それを地元のトルコ人の業者に売る。トルコ人の業者はこっそり石油ステーションに売ったり、非合法の販売所を新設したりする。

トルコ人の業者は小型のバスやミニ・バン(後半分が荷物用の乗用車)で石油缶を運ぶ。

 

 

貧窮している多くの住民がこの危険な仕事に参加する。見張り役が道を歩き回り、警官を見かけると仲間に知らせる。

バイクでレイハンリに向かう人がミニ・バンとすれ違う時、不透明な窓をのぞき込む。

 

  

    

ISIS6月(2014年)の快進撃以来、ISISの資金源である石油の流れを止めることが欧米諸国の課題になっていた。

私は石油の密輸の現地を訪れたいと思い、べサスランに来た。ここに来たジャーナリストは私だけだろう。

トルコとシリアの間の565マイルのの国境はすき間だらけである。ISISに参加する志願兵は自由にシリアへ入り、またシリアからはISISの石油がトルコへ入る。トルコでは石油が最高値となっており、ISISにとって絶好の市場となっている。

数か月前からトルコ政府は石油の密輸をとりしまる努力をしており、ドラム缶やパイプラインを摘発したが、密輸はいぜんとして行なわれている。

オマル(仮名)はべサスランでの密輸活動の現場をスマートフォンでこっそり撮影した。

また彼はべサスランに近い別の場所での密輸をビデオ撮影した。そこでは、はるかに大規模に密輸が行われている。石油ビジネスはISISを例外的に裕福な過激派集団にしている。

石油を密輸している業者が言った。「ISISは今後もトルコに密輸を続けるだろう。国境警備隊が黙認するからだ」。

 

2011年に内戦が始まる以前から、シリアとトルコの国境は石油の密輸が盛んだった。その時期から密輸をしている業者が言う。「必要なのは警官の許可をもらうことだけだった」。国境を管理していたトルコの民間警察は少額わいろと引き換えに密輸を許可した。

3世代にわたって密輸をしている家族の一員が当時を回想する。「シリアで安い石油を買い、トルコで販売する。車に大きなタンクを取り付けた。タンクは外から見えないようにした」。彼は10歳代の時この仕事をしている。

シリア内戦の混乱の中で、密輸は爆発的に拡大した。反政府軍は油田の奪取を主要な課題とした。油田と精油所があるラッカとデリゾールは、アレッポに次ぐ激戦地となった。

現金の不足に苦しむ反政府軍はトルコで石油を売った。トルコ政府は反体制派を積極的に支援しており、戦闘員と避難民に国境を開放していた。

オマルが石油の密輸に参加した2013年、石油の密輸は大盛況だった。戦闘員のわずかな給料で妻子を養うことに疲れ果て、反政府軍兵士の多くが密輸業に参加した。

晩になると、自由シリア軍の司令官からオマルに電話がかかってきて、国境を越えてシリアへ入れと命令する。

トルコ側では装甲車に乗った警官が道を照らし、監視している。シリア側では、石油缶を車に積んだバス、小型トラック、タクシーなどの車列が国境に向かっている。

オマルはドラム缶の一つをロープに結びつけ、それを100ヤード引っ張り、国境を越えさせる。そしてそれをトルコ側で待機している自動車に積む。夜明けまでにオマルはこれを20回繰り返す。

他の者たちは、牛や砂糖、その他あらゆるものを車に積む。「ここは自由市場だ」とオマルは言う。

彼は一晩で1500ドル受け取り、自由シリア軍の司令官に500ドル渡し、トルコの国境警備隊にも500ドル渡す。オマルは言う。「私のやっていることは密輸ではない。トルコとシリアの両方から許可を得ている。秘密でやっているから密輸と呼ばれるだけだ」。

 

昨年(2013年)の秋、ISISはアサド政権との闘いをやめ、反政府軍の支配地を奪い取ることに専念した。ISISは反政府軍内部に広がる寄生虫だった。

 

ISISは油田がある地域を重視した。2013年の1月ラッカを獲得し、続いてデリゾールに向かった。デリゾールを支配していたのは反政府軍であり、ISISは昨日までの仲間である彼らを敵とすることをためらわなかった。

 

ISISが油田の新しい所有者となっても、オマルの仕事に変化はなかった。オマルは反政府軍の支配下にある国境地帯で活動していたが、彼に石油を渡す仲買人はISISからその石油を受け取っていることを、オマルは知っていた。

 

石油の密輸は国境のトルコ側に幸運をもたらした。ベサスランの近くの町の密輸業者が、薄暗い車庫の中で語った。「国境の周辺地域では、どこに行っても石油を見かける。石油だらけだ」。彼が座っている車庫の隣には3つの大きな石油タンクがあった。

 密輸で得た金を、彼はビジネス・スクールの学費に使った。

 

ISISが石油で得た利益は、彼らが理想とする「カリフ国」を建設するための資金となった。ISISはそれで武器を買い、兵士に給料を払った。

 

              BuzzFeed News;Mike Giglio

=================(バズフィード・ニューズ終了)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ISISの石油ビジネス  フィナンシャル・タイムズ

2016-05-06 16:05:06 | シリア内戦

      

ISISはシリアの油田の大部分を支配している。原油はISISにとって最大の資金源になっている。フィナンシャル・タイムズがISISのオイル・ビジネスを解明している。

=======《シリアの石油地図》=========

  Syria oil map: the journey of a barrel of Isis oil

               2016年2月29日改訂

ISISは石油生産を主にデリゾール県で行っている。地元の住民によれば、201510月の時点で、1日あたりの生産量は34千~4万バレルである。

その後米国とロシアの空爆により、ISISの石油生産は減少した。

イラクでは、ISISはモスルの近くのカイヤラ油田を支配している。ここでは1日あたり8千バレルの重油を生産している。ここの重油は重油の中でも重い部類なので燃焼に適さず、アスファルト用として地元で消費されている。

 ISISが支配する油田の正確な生産量はわからない。しかし、シリアの油田はシリア政府が支配していた時代より減少したことは確かだ。この地域の油田は老朽化しており、ISISは生産を維持する技術も設備も持っていない。

 201410月、米国と有志連合がISISに対し空爆を開始した。これによりISISの原油採掘は中断した。それでも石油はISISの指導部にとって主な収入源であることに変わりがない。

 石油の値段は品質によって決まる。ISISGが支配する油田のいくつかは低品質であり、1バレル25ドルでしか売れない。

しかしシリア最大のオマール油田の石油は国際価格よりも高く、1バレル45ドルである。高価格の理由はシリア北部と東部で需要が多いからである。内戦によって物品の流通が止まり、石油が不足している。米国と有志連合による空爆が始まるまで、ISISの石油収入は1日で150万ドルだったと推定される。

  デリゾールの油田

  (ジャブセ油田だけハサカ県にある)

  

 

      各油田の生産量

(タブカだけ地図にない。タブカはラッカの西にあり、地図の外になる。)

油田

生産量(バレル数)

1バレルの値段

タナク

11,000-12,000

$40

オマル

6,000-9,000

$45

タブカ

1,500-1,800

$20

al-Kharata

1,000

$30

al-Shoula

650-800

$30

Deiro

600-1,000

$30

al-Taim

400-600

$40

al-Rashid

200-300

$25

 

201619日、ISISはシリア東部の油田の一つを失った。有志連合の空爆に援護されながら、クルドの人民防衛隊(YPG)はハサカのジャブセ油田をISISから奪った。この油田は1日で3千バレル産出する。

 

    《ISISの石油販売》

ISISは大部分の原油を輸出しているという説は誤りである。大部分はISISの支配地とそれに隣接する地域で販売されている。

ISISは小売り業はせず、油田に買いに来る独立系の仲買人におろし売りをする。シリアとイラクの仲買人がタンカー・トラックで油田に来て買い取る。そのため油田の近くの道路は数マイルに及ぶ渋滞となり、仲買人たちは数週間立ち往生する。

しかし列をなして並ぶ石油輸送車が空爆の対象となると、ISISは巧妙な対策をした。長い車列は空爆しやすく、一台だけを空爆するのは効率が悪い。空爆を避けるには、行列をなくせばよいのである。

油田から離れたところでタンカー車の運転手に整理券を渡し、決められた時間に買いに来る来るようにした。

地元の仲買人の話によれば、ISISのこの対策はかなり成功したが、以前の収益を維持するのが難しくなっている。ISISは大きな油井から石油をくみあげ、その場で輸送車のタンクに詰めている。この場所が爆撃され、しばしば燃え上がった。

減収を埋めようと、ISISは石油輸送車が順番待ちをせずにすむ特別許可制を始めた。前金で全額支払えば、即座に1000バレル受け取れるという制度である。

     《石油精製》

輸送車のタンクを原油で満たした仲買人はその原油をどうするか?

①その原油を近くの製油所に持って行き、製油所に渡す。そして再び油田に戻る。これは油田と製油所との間の運び屋である。

②小規模仲買人に転売する。小型の輸送車で原油を運ぶ小規模仲買人は北シリアの反政府軍地域で売る。またはイラクのISIS支配地で売る。

③少し冒険的だが、自ら精油所に売ったり、地元の原油市場で売る。シリアとイラクの国境に位置するカイムには、大きな原油市場がある。

大部分の仲買人は①と②のやり方で原油を売り、再び油田に向かう。彼らは1バレルにつき約10ドルの利益を得る。大型の輸送車のタンクは70バレルの容量がある。

 

       《精油所》

大部分の精油所はシリアのISIS支配地にある。反政府軍の支配地にもいくつかの製油所があるが品質が劣る。

精油所は石油と発電機用の重油ディーゼルを生産する。多くの地域は電気がないので、発電機は必需品である。

石油の品質が不均一だったり、値段が高かたったりするので、重油ディーゼルは需要がある。

ISISの移動精製所が空爆で破壊された後、地元の住民が簡単な精油施設を建設し、それで原油を精製している。精製施設の所有者は精製された石油をISISから買い取る契約をしている。

しかし数か月前からISISは石油の精製を再開したようである。原油の仲買人がフィナンシャル・タイムズに語ったところによると、2015年の後半ISIS5か所の製油所を買い取った。

 

   

 

 

ISISが買い取った精油所では、以前の所有者は表面的には今まで通り所有者として振る舞う。しかし実権は背後にいるISISが実権を握る。ISISが原油を供給する。そして精製された重油ディーゼルをISISが全部受け取り、販売後に利益を元の所有者と折半する。

仲買人たちの話によれば、ISISはタンカー(輸送車)を所有しており、定期的に原油を油田から精油所に運んでいる。

またISISは一般の石油ステーションや精油所との契約を維持している。

 

       《燃料の販売》

精製された石油を買った仲買人や販売人はそれをシリアやイラクの市場で売る。仲買人や販売人に石油を売った段階で、ISISの関与は終わる。仲買人や小売業者が誰にいくらの値段で売るかについて、ISISは一切関係ない。空爆以前、精製された石油の半分はイラクへ向かい、残りの半分がシリアで消費された。どちらの国でも北部のISISと反政府軍の支配地域で消費された。この数カ月、シリアの反政府軍の地域へ向かう石油タンカー(輸送車)はロシアに空爆されるので、イラクに向かうタンカーが増えた。(仲買人の話)

ISISと反政府軍の支配地全域に燃料市場があるが、特に精油所に近いところに集中している。これとは別に、ほとんどの町に小さな燃料市場があり、住民が買っている。これらの町に燃料を供給する仲買人は中央の市場で買ってくる。

    

  

アレッポ近郊のISIS支配下の町、マンビジやバーブには大きな市場がある。ここで無税の石油を買う仲買人たちは、ザカート(10分の1税)を支払ったことを証明する書類を提示しなければならない。反政府軍の支配地から来る仲買人はISISにザカートを収めていないので、1バレルにつき0.67ドルの税を払わなければならない。

いくつかの個人所有の市場も税を徴収する。地域最大のカイムの市場は個人所有であり、1バレルにつき0.3ドルの売りあげ税を徴収する。

 

モスルのようなイラクの都市では、2台のポンプを備えたミニ給油所で燃料が売られている。これはモスルの街角のどこにでもある。住民は燃料がシリアのどこの油田で採掘されたか区別し、それぞれを産地の名前で呼んでいる。住民が石油を買う際、それを品質と値段の目安としている。

 《反政府軍支配地の市場》

シリアの反政府軍支配地では2種類の燃料が売られている。ISIS地域で精製された燃料は値段が高く、地元で精製されたものは安価である。ほとんどの住民は安価な燃料、または2種類を混ぜた燃料を買う。混合燃料の場合、発電機には安価な燃料の割合が多いものを使い、自動車には高価な燃料の割合が多いものを使う。

空爆が始まると、反政府軍地域では重油ディーゼルと標準ディーゼルの値段が2倍になった。運送コストが高くなり、食物の値段も上がった。

   =======================(続く)

        

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする