前2回、2012年11月末の化学兵器危機について書いた。フランスの国際放送フランス24は独自の取材をし、前2回と異なる情報を得ている。例えば、シリアが化学兵器を準備していること発見したのはイスラエルである、とニューヨーク・タイムズは書いているが、フランス24は「米国のドローンにより発見された」としている。
(===== ====シリア:化学兵器の脅威》========
The twin threat posed by Syria’s chemical weapons
France24 2012年12月4日
シリアの民主化運動が始まってから、1年8か月経過した。シリアが保有する化学兵器に、国際社会の関心が集まっている。昨日(12月3日)、オバマ大統領がシリアに警告した。
「化学兵器を自国民に対し使用することは、レッド・ラインを超える行為である」。
ラスムセンNATO事務局長も、シリアに対する世界的な警告に声を合わせた。
「国際社会は化学兵器の使用を許さない。この恐ろしい兵器が実際に使用されたなら、国際社会は即座に行動するだろう」。
25年前サダム・フセインが自国のクルド人をサリンやマスタードなどで殺害したが、現在再び化学兵器の危機が高まっている。
NATO諸国の外交官たちは、トルコへのパトリオット・ミサイルの配備に合意するだろう。トルコはシリアによる攻撃の脅威に直面しており、トルコの防衛強化が必要であるからだ。シリアのミサイルには化学弾頭が搭載されているかもしれない、とトルコは主張し、NATOにパトリオット・ミサイルを要求した。
(シリアが化学兵器を準備)
数日前、Wired紙の軍事ブログ・サイト「危機管理室(Danger Room)」が次のように書いた。
「先週シリアは化学兵器を準備するため、化学物質の混合を開始した。シリア中部で、シリアの技術者たちがこの作業をしている。米政府関係者が匿名で語ったところによれば、この作業は完了し、サリンが航空機に積まれる状態にある」。
パリの戦略研究財団のオリビエ・ルピックがフランス24に次のように語った。
「シリアの化学兵器保管所の2か所で、シリア人は大量の化学兵器を操作している。この情報は米国のドローンにより得られたようだ」。
カナダ王立大学の教授であるクリスチャン・ロイプレヒトはフランス24に次のように語った。
「生成されたサリンを無力化することはできない。爆撃により破壊されるのはサリンの容器であり、そうすればサリンが拡散する。人が住んでいる場所に移されたサリン弾を破壊すれば、多くの犠牲者が出る。シリア政府がサリンを準備したのは、外国による攻撃への抑止のためかもしれない」。
(外国の軍事干渉の噂が危険を高める)
多くの専門家が一致して次のように考えている。
「アサドは化学兵器の使用が重大な結果を招くことを十分承知している」。
フランス戦略研究所の研究員であるデービット・リグレは次のように言う。
「化学兵器の使用は外国による軍事干渉への道を開くことを、シリアの政権は知っている」。
パリの戦略研究財団のルピックも同じ考えだ。
「政権にとって化学兵器の使用は、得ることよりも、失うことのほうがはるかに大きい。アサドは馬鹿ではない。レッド・ラインを超えれば、シリアに対する国連決議を妨害している友人国ロシアからも見放される。友人国とはロシアと中国だ」。
アサド自身は化学兵器の使用が危険を招くことを知っているとしても、政権が危うくなった時、シリア軍司令官たちは自制できるだろうか。部隊に直接命令し、統制しているのは彼らだ。
カナダ王立大学のロイプレヒトは次のように言う。
「たとえば、反乱軍の攻撃により、化学兵器の基地が危険に陥った場合、基地の司令官は中央に問い合わせるだろうが、即答が得られなかった場合、彼は自分で決断し、化学兵器を使うかもしれない。
シリア内戦はますます残酷になっており、反対派内のイスラム過激派が化学兵器を手に入れる可能性もある。イスラム過激派はリビアのベンガジで起きたことの再現を願っており、国際的な軍隊を呼び込むために、わざと化学兵器が保管されている基地を攻撃するかもしれない」。
2012年9月11日、ベンガジの米国大使館が襲撃され、大使が殺害された。襲撃の動機は米軍の出動を促すことだった。
===================(フランス24終了)
シリアの化学兵器危機は11月が最初ではなく、同年7月が最初である。7月23日シリアは「外国の侵略に対しては、化学兵器を使う」と発表した。シリアが化学兵器を保有していることは確実だったが、これまで「所有していない」と言い続けてきた。この日突然所有を認めただけでなく、使用をちらつかせて仮想敵国を威嚇した。この発言により、シリア内戦に関心を持つメディアは騒然となった。
======《シリア政府、化学兵器を使用すると脅す》======
Syrian regime makes chemical warfare threat
Guardian 2012年7月23日
シリア外務省のマクディシ報道官は国営テレビの記者会見で次のように述べた。
「現在の国内危機において、生物・化学兵器が使用されることはない。繰り返して言うが、いかなる事態になってもこれらの兵器が使用されることはない。これらの兵器はすべてシリア軍が直接管理し、安全に保管している。シリアが外国の侵略される脅威に直面しない限り、これらの兵器が使用されることはない」。
しかしマクディシ報道官は後に述べている。
「シリアで起きていることは国内反乱ではない。外国から資金援助された、外国人過激派が騒動を起こしているのである」。
シリアは神経ガスとマスタードガスを保有しており、運搬手段としてスカッド・サイルを持っている、と考えられている。また通常兵器の分野でも、対戦車ロケットや携帯式対空ミサイルなど、各種の最先端兵器をそろえている。
4日前(7月19日)イスラエルは次のように述べた。
「アサド政権の崩壊後、我が国の敵がシリアの化学兵兵器を手に入れるかもしれない。その危険が迫った場合、我々は軍事介入せざるをえない」。
3日前(7月20日)米国情報機関の高官が次のように述べた。
「シリアは最北端の地域に保管されていた化学兵器物質を移した。北部は戦闘が激化しており、奪われる危険を考慮したのだろう。各地に散在している化学兵器を最も安全な地域にまとめて保管するつもりであるようだ。シリア政府は化学兵器の安全に努力しており、評価したい。 しかしながら、シリアの化学兵器施設で活発な動きがあり、米国の情報部門は化学兵器の移動を注意深く監視している。そして彼らがどこでそれらを使おうとしているのか、知ろうとしている」。
シリアの内戦では、反対派が攻勢を強め、19000人の死者が出ており、アサド政権は孤立を深めている。このような時期にアサド政権は、化学兵器を使用する意図を語った。
イスラエルは即座に反発した。「シリアの化学兵器がヒズボラや反対派内の過激派の手に渡ることを阻止するため、我々は軍事的手段を取らざるを得ない」。
シリアが化学兵器を保持していることは広く知られていたが、シリアはこれをかたくなに否定してきた。23日化学兵器の保有を認めたのは、政権が絶望的な状況にあり、動揺しているからである。反対派はますます大胆な攻撃を繰り返し、戦果をあげている。シリア軍最高幹部4人を殺害し、国境検問所数か所を占領し、アレッポとダマスカスの重要な政府軍基地に攻撃を続けている。
================(Guardian終了)