3月27日クリントン国務長官は「米国はシリアに介入しない」と述べた。翌2012年彼女は「アサドは辞任すべき」と発言することになるが、2011年3月末には、「アサドは改革派大統領である」として、称賛していた。
ただし、米国の上院議員はブッシュ時代以来一貫してシリアを敵国とみており、「アサド政権を転覆すべし」と考えていた。レバノン内戦の構図は残っており、レバノンのヒズボラをシリアとイランが支援しており、イスラエルと米国はレバノンの欧米派を支援している。イラン陣営に新たにイラクのシーア派政権が加わり、4国同盟はスンニ派アラブ諸国にとって脅威となっている。イラクにシーア派政権が誕生したことは、陣営の対立を激化させた。対立する2つのグループのそれぞれの国は、自国の存立をかけて争っている。また世界一の産油地帯の覇権争いもこれに重なっている。
米国内の対シリア強硬論はこうした現実を反映している。またこのことは、シリア内戦が長引き、ますます深刻化した原因である。
〈シリアの反対派は米国の援助を望まない〉
3月27日、ワシントン・タイムズは「シリアの反対派は米国の支援を求めず」と書いている。2012年以後、シリア国民連合や自由シリア軍が米国の援助を願ったことを知る人間にはわかりにくい話である。この時期の反対派は武装蜂起を考えていたわけではない。チュニジアやエジプトのような国民的な世論のを盛りを目標としていたのである。外国の陰謀の手先と見られれば、反対運動はしぼんでしまう。ダラアの市民も武器を取って戦っていたわけではない。シリアの反対派は全国的な与論の形成を目標としていた。外国の陰謀の手先と見られ、正統性を失えば、出だしでつまづいてしまう。
これまでダラアについて書いてきたが、今回は、国民的な反対運動を目指すシリア人について紹介する。
=====《Syrian rebels don’t want U.S. aid, at least for now》====
ワシントン・タイムズ
3月27日米国在住のシリア人アンマール・アブドルハミドがワシントン・タイムズに語った。「シリアの反対派は米国の援助を望んでいない」。彼は国内の反対派のネットワークと連絡を取り合っており、西欧諸国にシリアの情勢を伝えている。アブドルハミドはいわば、シリアの反対派活動家たちの非公式な報道官である。
彼はクリントン長官の発言を批判した。3月27日CBSに出演したクリントン長官は、アサド大統領は改革者であると語った。アブドルハミドは「アサドを改革者者と呼ぶのは馬鹿げている」と批判した。
番組の中で、クリントン国務長官とゲイツ国務長官が口をそろえて言った。「現時点では、アサド政権に抗議している人々を、米国は助けに行くことはない」。
この発言に対し、アブドルハミドが述べた。「米国に期待してるのはシリア以外の国だろう。シリア人は米国の介入を望んでいない。シリア政府はいつも言っている。『最近シリアで起きていることは米国の陰謀だ』。もし今米国が乗り出してきたら、政府の主張が正しいことになる。今シリアで起きていることは外国の陰謀によるものではない。シリア国民による革命だ」。
番組の司会者は30年前のハマの虐殺に触れた。1982年現在の大統領の父ハフェズ・アサド大統領が、ハマのムスリム同胞団を皆殺しにした。司会者は「あの弾圧は残虐過ぎたと思わないか」と質問した。
クリントン長官は返事の中で、「バシャールは父親とは違う」と語り、現在の大統領を称賛した。「最近シリアを訪問した両院議員の多くは、アサド大統領は改革者であると考えている」。
長官はリビアに話を移し、シリアとの違いを強調した。
「最近シリアで起きていることを深く憂慮するが、リビアとは違う。リビアの独裁者は軍用機で自国民を無差別に殺し、都市を爆撃した。警察官の行動は限度を超えて残虐で、見るに耐えなかった。米国は国連決議に基づき、リビアを攻撃した。シリアに対する同様な行動については、国際的な支持がない。もし次の4つの条件がそろう場合には、米国は介入について考えてもよい。
①国際的な同盟の成立
②国連安全保障理事会の承認
③アラブ連盟の要請
④世界がシリア政府を非難する時
現在これらの条件がそろう見込みがないが、シリアで次に何が起こるかわからないし、今後の展開は予測できない」。
このようなクリントン長官の発言に対し、アブドルハミドは反論した。「リビアとの違いを強調しすぎており、現在シリアで起きていることを過少評価している。長官はシリアに介入しないと言いながら、シリアで虐殺が増えた場合、米国はシリア国民を助けると述べており、米国の真意がわからない」。
数日前シャーバン報道官が戒厳令を撤廃すると発表したことについて、アブドルハミドが言う。「今になってそんなことを言っても、デモを鎮める効果はない。アサドの改革は時間がかかりすぎ、わずかすぎる。戒厳令を撤廃すると言われても、誰も喜ばない」。
《インターネットを革命の手段とする若者たち》
アブドルハミドが、若き革命家たちについて語った。
「シリアの抗議運動はインターネットに詳しい活動家たちが組織している。彼らはエジプトやチュニジアの政権を倒したネット活動家から刺激を受け、彼らと連絡を取り合っている。
現在の反乱を指導しているのは、10代や20代の若者である。彼らは情報拡散を主な武器としている。常時フェイスブックに向き合い、シリア人の仲間同士で、さらにはアラブ世界の若者たちと連絡を取り合っている。成功した他国の若者からネットを通じて助言を得ている」。
当初アブドルハミドはシリアの抗議運動の開始時期は夏がよい、と考えていた。しかし予定より早い、3月15日に始まった。「若者たちは今始めたがった。私は同意した。そして実際に始まった。現在進行していることを見て、私は少なからず感激している」。
若いネット活動家の戦術の一つは、ビデオをネットに投稿することだ。先週末投稿されたビデオはマヘル・アサド(大統領の弟)に関するもので、大評判になった。
2008年に起きたサイドナヤ刑務所の反乱の時、兵士のひとりが密かに撮影したのである。鎮圧軍により殺害された政治犯の遺体を踏みつけながら、マヘルが歩いていた。このビデオはネットに拡散した。残虐なシーンがあるという理由でアカウントが凍結されたが、別のアカウントから再び投稿した。またフェイスブックにも埋め込んだ。
《シリアを敵とみなす上院議員》
アブドルハミドが言う。
「クリントン長官はシリアの反乱を過小評価するが、違った評価をする人もいる。共和党の大物議員の補佐官は、こう言っている。『合衆国の敵を取り除く絶好のチャンスだ。現政権は2009年にイランを攻撃しなかったように、現在もチャンスを逃している』。
リーバーマン上院議員は27日フォックス・ニュースに出演し、シリアに警告した。『シリアの独裁者は、リビアで起きたことを教訓にすべきだ。自国民に武力を行使するなら、自らのくびをしめることになるだろう。リビアがよい例である。アサドが自国民を虐殺することを、我々は決して許さない』。
共和党のマケイン上院議員はシリアよりエジプトのことで頭が一杯なようだ。彼はCNNに出演して述べた。『シリアの反乱をリビア・チュニジア・エジプトの大衆行動と一緒にしてはならない。それぞれの国の政変は同一ではない。シリアで抗議している人々を精神的に応援しよう。エジプトは地域の要であり、これらの国の中で最も重要である。エジプトがどうなるのか、気がかりであり、目が離せない』。」
==========(ワシントン・タイムズ終了)