シリア内戦の当初から、トルコはシリアの北部国境地帯の併合を目的としていた、というマフディ・ダリウスの記事を前回紹介した。彼はトルコの慎重な側面についても語っており、トルコが国際情勢に配慮しながら目標を追求していると書いている。しかし一点だけ、彼の記事に異を唱えたい。米国はコバニのISISを空爆したが、効果がなかったとしている点である。誤りではないが、米国の空爆がある時点から改善し、効果的になったことについて述べていない。
イランのメディアは、ISISは米国の手先である、といつも報道している。これは米国が言っていることの正反対なので、とまどう。米国はISISを中東の新たな脅威としている。2012年以来シリアのアサド政権の転覆をめざしてきたが、2014年夏以後、米国はISISを弱体化することを緊急な課題としている。しかしイランはこれを信じない。米国は本心を隠しており、ISIS脅威論は口実にすぎない、と考えている。
イランは次のように考えてる。
米国の真の目的はあくまでアサド政府軍を爆撃することである。しかしそれはシリアとの戦争を意味する。米国は宣戦布告なしの、秘密の局地戦を選んだ。ISISを攻撃するという理由で、シリア空爆を開始した。ISISを空爆しながら、時機を見てアサド政府軍を爆撃する計画である。したがって米国によるISIS空爆は本心ではなく、うわべだけのものである。
これはイランだけでなく、アサド政府・ロシアに共通する見方である。
ISISは米国の手先だとという見方は根強く、それなりに根拠がある。
シリア内戦の当事者であるアサド政権は、敵である反政府軍の背後にいる国々の干渉行為について鋭く観察している。シリアを舞台にサウジ・トルコ・米国と代理戦争をしているイラン・ロシアも、敵のわずかな動きを見逃さない。彼らの判断は無視できない。
またISISを敵としているのは米国だけである。サウジとトルコはISISを敵と考えていない。敵は唯一アサドである。米国だけがシリアにおける敵はアサドとISISの2つだと主張している。米国の「ISIS脅威論」は中東では一般的な常識でない。
しかし「ISISは米国の手先き」説に反する事実がある。私が書いてきたコバニ戦と、2015年のクルドの勢力拡張の事実である。コバニでISISは敗北した。クルドの勝利に米国は貢献している。米国は真剣にISISの勢力を弱めようとしている。
コバニのISISにたいする空爆が改善したことは冒頭で書いた。もう一つ、米国のクルド支援を象徴する出来事がある。10月19日、米軍は武器・弾薬・薬品をコバニに投下した。クルド軍は弾が残り少なくなっており、弾が尽きた時に敗北が決定する、という絶望的な状況にあった。米軍の補給物資投下はクルド軍に希望を与えた。
翌年2015年6月15日、YPGはテル・アビヤドでISISに勝利した。これも米軍の支援なしに考えられない。テル・アビヤドはラッカの真北にあり、トルコとの国境の町である。ラッカへの出入り口であり、トルコに石油を輸出し、武器と志願兵がトルコから入ってくる。この町を失ったことは、ISISにとって大損失である。ISISが支配するトルコへの越境地点はジェラブルスだけになった。ラッカから近いだけに、テル・アビヤドはジェラブルスよりはるかに重要っだった。
米軍の支援により、クルドは国境地帯のほとんどを獲得した。
比較のために、コバニ戦前のクルドの支配地を示す。
もう一つ別の、興味深い地図がある。クルドが念願する西クルド自治領の領域を示す地図である。トルコのクルドが北クルド、イラクのクルドが南クルド、シリアのクルドが西クルドである。シリアのクルド人たちは自分たちの土地をロジャバと呼ぶ。ロジャバはクルド語で「太陽が沈むところ」を意味する。
東のハサカから西のアフリンまで、切れ目がない。ハサカは南部まで取り込んでいる。
クルドの実力から考えると、コバニ戦が始まった2014年夏には、遠大な目標に見えたが、コバニ戦勝利後の2015年には、目標に大きく近づいた。ISISと戦うクルドを米国が支援したことが成果につながった。クルドの勝利によって、ISISは大きな打撃を受けた。米国のクルド支援は「みせかけ」ではない。
コバニのクルド軍に対する米軍の対応が、放置から「とりあえず支援」に変わり、さらに「本腰を入れた支援」変わったことを、「ロンドン書評」が具体的に書いている。
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《米国、クルドを本格的に支援》
米国はトルコに配慮し、コバニのクルド人に対する支援を控えていた。10月になってやっとコバニのISISに対し空爆を開始したが、トルコを怒らせることを恐れ、米空軍は地上のクルド軍との連携を避けていた。
しかし10月半ば、米国の政策が一変した。クルド軍は攻撃目標の位置を精密に米軍に知らせることが可能になった。これにより米空軍はISISの戦車や大砲を破壊できるようになった。これまで、ISISの指揮官は重装備を隠すのが巧みであり、またすばやく兵士を分散させた。これまで米空軍の6600回の爆撃のうち、命中したのは632発だけだった。
しかしISISはコバニをあきらめておらず、クルド軍を打ち破るため、ISISの指揮官は兵力を集中しなければならなかた。この闘争心がISISに損失を招く原因となった。
クルド軍とわずか50ヤード(約46m)隔てて向き合っているISISに対し、米軍は48時間に40回空爆した。
ISISは最強の空軍に支援された敵を相手にすることになり、コバニはISISにとってこれまでと異なる戦場となった。
《バイデン、スンニ諸国を痛烈批判》
2014年9月、米国はにシリアの空爆を開始した。60か国がISISと戦う有志連合に参加した、とオバマ大統領は誇らしげに語った。しかし有志連合は内実がともなわず、有力メンバーはISISを脅威とみなしていなかった。それはサウジ・ヨルダン・アラブ首長国・バハレーン・クェート・トルコである。これらのスンニ派諸国がISISをはじめとするジハード旅団の強大化に貢献してきたことを、アメリカの国民は知っている。
バイデン副大統領は、ンニ派諸国のテロリスト支援に米政府は困惑していると語った。10月2日、ハーバード大学の講堂で彼は次のように述べた。
「トルコ・サウジアラビア・アラブ首長国はシリアで、シーア派を敵とする代理戦争を積極的に行ってきた。これらの国は、アサドと戦う者たちに、数億ドルの資金と数千トンの武器を注ぎ込んだ」。
一方サウジ王族の一員で、大実業家のワリド・ビン・タラル王子は、「ISISはわれわれに無害なので、サウジアラビアはISISとの戦争に直接的な参加はしない」と述べた。
トルコのエルドアン大統領は「私の考えでは、PKKはISISと同じように悪い」と述べた。PKK(クルディスタン労働者党)はトルコの非合法政党である。シリアのPYD(民主統一党)はPKKの傘下にある。
(全文)Patrick Cockburn:Whose side is Turkey on?
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