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6巻38-39章

2024-10-18 16:07:04 | 世界史

【38章】
この年が終わっても、ローマ軍はヴェリトラエから帰還しなかった。それで二つの改革は翌年の執政副司令官の時代に持ち越された。翌年の執政官に選ばれたのは以下の6人である。T・クインクティウス、Ser・コルネリウス、Ser・スルピキウス、Sp・セルヴィリウス、L・パピリウス、L・ヴェトゥリウス。
平民は迷わず、リキニウスとセクスティウスを再び護民官に選んだ。平民は二人の改革を熱心に支持していた。年の初めに、平民と貴族の戦いは最終局面を迎えた。部族会議が招集されると、リキニウスとセクスティウスは同僚の拒否権行使は無効であると主張した。事態が危険な法方向に向かっていると感じた貴族は最後の砦、つまり最高の権力を行使できる人物に頼ることにした。彼らは独裁官の任命を決定し、M・フリウス・カミルスを独裁官に任命した。カミルスは L・アエミリウスを騎兵長官に任命した。貴族の恐るべき対抗手段に対し、リキニウスとセクスティスは勇気と決意という武器で平民の権利を守ろうとした。二人は部族集会を招集し、投票を求めた。独裁官は怒り心頭になり、精鋭の貴族に守られながら集会にやって来ると、リキニウスとセクスティウスを威嚇する態度で席に着いた。改革案を提案する者と拒否権でそれをつぶそうとする者の間の激しいつばぜり合いが始まった。法的には独裁官の立場が強かったが、法案は平民に圧倒的に支持されており、セクステイウスとリキニウスはカミルスより人気があった。実際最初の部族は既に「賛成」と表明していた。これを批判してカミルスは述べた。
「市民の皆さん。護民官は権限外のことをしており、正当な権威を否定しようとしています。彼らを支持してはなりません。護民官の拒否権は平民の会議で承認された、正当な権利です。それなのに、この権利は現在、暴力的に無効にされようとしています。もっとも拒否権自体が冷静な話し合いによって承認されたのではありませんが。独裁官として私は、国家のためだけでなく、平民である皆さんのためにも護民官の拒否権を擁護するつもりです。現在皆さんが破壊しようとしている拒否権を、独裁官の私が守り抜きます。もし C・リキニウスと L・セクステイウスが同僚の反対を受け入れるなら、貴族である私は平民の会議に干渉しない。もし同僚の護民官の反対を無視して、二人がまるで戦争の勝者であるかのように、改革を国家に強制するなら、私は護民官の権限の悪用を許さない」。
セクステイウスとリキニウスは独裁官の主張を軽蔑し、揺るがぬ決意で改革を推し進めることにした。するとカミルスは怒り、異常な権幕で護衛兵に平民を追い払えと命令した。「もし彼らが集会を続けようとするなら、彼らを兵士とみなし、首都から連れ出せ」。
平民はおびえたが、彼らの指導者は独裁官の威嚇にしり込みするどころか、怒り狂った。独裁官と護民官の戦いはどこまで行くかわからなかったが、突然独裁官が辞任した。独裁官の任命に不正があったと主張する歴史家もいれば、護民官が独裁官を処罰する提案をし、平民がそれを承認したからだと考える歴史家もいる。「もしカミルスが独裁官として威嚇を続けるなら、彼に50万アスの罰金を課す」と平民が決議したので、カミルスは処罰を避けるために辞任したというのである。しかし平民が独裁官を処罰した前例はなく、この説明は受け入れ難い。私は前兆が間違っていたのだと思う。またカミルスの性格を考えると、罰金を課すという脅迫に屈するはずがない。カミルスの辞任後すぐにマンリウスが独裁官に任命されており、元老院は間違った前兆を信じてカミルスを独裁官にしてしまったのだろう。カミルスが敗北してしまったら、いかなる貴族が独裁官になっても、勝てる見込みはない。カミルスは翌年再び独裁官に任命されており、前年護民官に打ち負かされていたら、再び独裁官に就任するのを恥じただろう。彼に罰金を課す決議がなされたとしても、そもそも独裁官の権限を制限しようとする行為は無効である。独裁官は全権を有しており、すべての市民は彼の命令に従わなければならない。誰も彼の決定に反対できない。従ってカミルスは平民の決議を無効にできただろう。独裁官は何物にも制約されないからである。護民官がカミルスに巨額の罰金を課そうとしたのは、3つの改革案を独裁官につぶされたくなかったからである。しかし護民官が独裁官と争おうとしても無駄であり、独裁官は護民官の法案を無効にできる。護民官はこれまで執政副司令官と争ってきたが、独裁官の前では無力である。

  -----(日本訳解説)ーーーーーー
護民官が執政副司令官の選挙を止め、5年間執政副司令官が不在だった。共和制が始まって以来このようなことは起きたことがない。執政副司令官が不在の期間は1年だけだったという説もあるが、護民官が執政副司令官の選挙を止めたという古い記録がある。なお「歴代執政官のリスト」は5年という説を採用している。元老院が黙ってこれを受け入れたのは、驚きである。セクステイウスとリキニウスに指導された平民運動が異常な高まりを見せ、元老院はその圧力に押され、引いてしまったのだろう。しかし、その後セクステイウスがさらなる挑戦をしたため、元老院は我慢の限界に達し、反撃に転じた。M・フリウス・カミルスを独裁官に任命したのである。カミルスは並外れた精神力を持つ人物であり、最強の軍事指揮官である。彼の名声はギリシャにも伝わっていた。カミルスの登場により、平民と貴族の戦いは最大の山場を迎える。元老院が我慢の限界に達した原因は、セクステイウスが、同僚の護民官の拒否権を乗り越えようとしたからである。いかなる障害も乗り越えて進むセクステイウスが本領を発揮した。拒否権が無効にされれば、貴族は護民官の過激な法案を封じる手段を失ってしまう。拒否権を乗り越えようとしただけでなく、セクステイウスは執政官の一人を平民から選ぶことを再び主張し(37章の終わり)、「聖なる書物」を管理する神官の数を2人から10人に増やすことを新たに提案した。10人となった定数の5人を平民とすることを求めたのである。これらの要求は貴族にとって最後の一線を越えるものだった。執政官の地位の重要性は言うまでもないが、「聖なる書物」を管理する神官の地位も非常に高いのである。無宗教の現代人には理解しがたいが、一般に神官の地位は高く、貴族でなければ神官になれず、神官の職は貴族の牙城になっていた。特に、「聖なる書物」を管理する神官になれるのは、執政官経験者だけである。
恐れを知らない挑戦者であるセクスティウスによって、平民の戦いはこれまでにない高みに達した。これに対し、最終解決者として独裁官カミルスが登場し、貴族と平民の最後の決戦が始まる。リヴィウスが説明しているように、独裁官は元老院にとって切り札であり、本来いかなる者も独裁官の命令に従わなければならない。外国の軍隊ならいざ知らず、護民官が独裁官と争うことなどありえない。最初からセクステイウスに勝ち目はない。ところがである。貴族と平民の究極の戦いは中途半端に終わる。カミルスが突然独裁官を辞任してしまう。平民はあくまでローマ市民であり、外敵ではく、同胞であり、彼らと全面戦争をするわけにはいかない。平民との争いは微妙で、政治的に解決すべきである。元老院が国内の問題ででカミルスを起用したのは失敗だった。元老院はこれに気づいた。カミルスと護民官の争いが平民を巻き込んだ全面衝突に発展する前に、早々とカミルスを引っ込めた。平民との全面面戦争になれば、カミルスが勝ったとしても、貴族と平民の間にしこりが残り、両者の溝が深まる。カミルスは老人であるが、軍隊の指揮官として彼は健在であり、国内問題で彼に汚点がつくのは避けたい。翌年の戦争で彼は力を発揮する。国内問題でカミルスを起用した過ちを、リヴィウスは「前兆が誤っていた」と説明している。カミルスと護民官の戦いが恐ろしい結末になる前に、元老院は「前兆の誤り」という理由で独裁官を変えた。土壇場で元老院は作戦を変え、対決路線を捨て、柔軟な路線を採用したのである。この時代の元老院は250年後、グラックス兄弟の時代の元老院と違って、思慮深く、柔軟だった。-----ーーー(解説終了)

【39章】
カミルスが辞任し、マンリウスが独裁官に就任するまでの間、平民会を牛耳る護民官はまるで暫定最高官のようにふるまった。しかし平民と護民官の考えにずれがあることが判明した。平民は二つ法案を強く要望したが、残りの一つについては、護民官は熱心に要求したが、平民の関心は低かった。その結果、高額の利子を禁止する法案と国家の土地をすべての市民に平等に分配する法案は平民会で承認されるのは確実であるが、執政官の一人を平民から選ぶ法案は平民会で否決されるように思われた。
新しく独裁官となった P・マンリウスは平民に融和的であり、平民の C・リキニウスを騎兵長官に任命した。 C・リキニウスは、紀元前400年平民として最初に執政副司令官に就任した C・リキニウス・カルブスの孫だった。
  (日本訳注:騎兵長官になったリキニウスは護民官として活躍しているリキニウスと別人。どちらも C・リキニウスであるが、騎兵長官になったのは C・リキニウス・カルブスで、護民官のほうは C・リキニウス・ストロである。なお C はガイウスである。C はクと発音されるので変であるが、クとグは似ているので頭文字として採用されたのだろう。)
平民が騎兵長官に任命されたことに、貴族は反発した。しかし、独裁官といえども、平民全体が敵となっては、権力の行使が難しくなる。独裁官は述べた。「騎兵長官は執政副司令官のような高い役職ではない」。
護民官の選挙が公示されると、セクスティウスとリキニウスは再選を希望しないと表明した。しかしこれは二人がかけひきをしたのである。平民は自分たちの目的が達成されないと困るので、ぜひ二人に護民官になってほしかった。セクスティウスとリキニウスは言った。
「9年間我々は貴族と戦闘状態だった。我々の命が危険にさらされたにもかかわらず、民衆は何の成果も得られなかった。同じ護民官が長年同じ要求をしてきたので、我々二人は擦り切れ、要求は色あせた。我々が提出した法案は最初同僚の拒否権で妨害され、次に多くの平民がヴェリトラエの戦場に行ってしまい、採決が延期された。最後に、独裁官が登場し、我々に襲い掛かった。幸い現在は裏切者の護民官はいないし、戦争も終わり、カミルスは辞任してしまったので、これまでの障害はすべて消えた。現在の独裁官は平民が執政官になることに前向きで、平民を騎兵長官荷任命した。ところが、信じられないことに、平民が自分たちの真の利益に盲目であり、我々に反対している。平民が正しい選択をすれば、高利貸しから解放され、国有地を不法に占拠している貴族を追い払うことができるだろう。もし以上のことが実現したとしても、平民のために素晴らしい提案をした者二人が最高の栄誉を獲得するのを妨げられ、希望を失うなら、平民の諸君は恩知らずではないだろうか。高利貸しによる重荷を振り払い、国有地の分配を要求しながら、諸君の要求を実現するために働いた護民官が老後に栄誉と名声を期待できなかったたら、ローマ市民に自尊心がないと言われてもしかたがない。諸君は自分たちが真に求めるは何か、決めなければならない。それから選挙で自分たちの意志を表明しなければならない。もし複数の法案を一括して採決するつもりなら、我々は再び護民官になってもよい。もし諸君が自分たちが望む法案さえ実現すればよいと考えているなら、我々は再び護民官になって貴族に憎まれるのは嫌だ。我々が護民官にならなければ、諸君の要望は実現しないだろう」。

 


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