偶々5時前に目醒めてしまった。家族が寝静まっている家で、ひとりじっとしているのは苦痛でしかない。佐鳴湖まで散歩することにして、懐中電灯片手に暗闇に向かって歩き出した。風は強く気温は低かったが、満天の星の煌めきが、晴天を教えてくれていた。
佐鳴湖北岸の管理事務所の黒い影を右手に見て、防潮堤上の歩道を「であい橋」に向かう。
この思わせぶりな名称に誘われて、橋上で生まれたロマンスは、果たしてどれくらいあったのだろうと、くだらんことを考えながら橋を渡る。新川の流れが闇に光っていた。
湖岸に出ると、北岸から延びた中洲に、灌木が黒い枝を広げ疎らに立ち並んでいた。人工の洲だが、在来の景観によく調和している。湖のあちこちから、川鵜たちが啼き交わす声が喧しい。その姦しさを割くように、魚の跳ねる水音がする。
対岸の上空には「明けの明星」が輝いている。「宵の明星」は都市部では見ることが難しくなりつつある。金星を見る機会は、明け時がよいのだろう。随分長い間、この星にはご無沙汰してしてしまった。
湖岸の丘の稜線を黒々と浮かび上がらせながら、東の空が茜色に染まってきた。その上空はまだ蒼みを帯びている。背後の望月はまだ光を失わない。南の方に目を転じると、入野の燈火が、湖面に瞬いていた。
日の出前は気温が最も下がる時で、寒気は身を刺すように鋭く厳しい。だが、美しいものに触れるには、厳しさを乗り越えなくてはならない。安易に手に入るものは、それなりの満足しか得られないから、日の出前の寒気ぐらいは我慢しなくてはならない。
時計台近くまで来ると、夜が明け周囲が明るくなってきた。ウォーキングやランニングの人たちが行き交う。6時ごろだろうか?今日は此処で折り返すことにする。公園事務所まで戻ると、既に駐車場は満車だった。
早朝の闇中散歩は、職務質問を受ける惧れがあろうからあまりやりたくないが、たまには、朝星の煌めきを慥かめるのも好いものだ。寒さが厳しくなるにつれ空気が澄むこれから、明けの明星は日毎に輝きを増すだろう。
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