柿の実が出盛りになるとむやみに嬉しい。柿は最も好きな果物で、我ながら呆れるほど食べる。
静岡県は次郎柿の産地で、原木がまだ森町で健在と聞いているが、今や生産高では愛知県の方が多いらしい。
私は中学生の頃に岐阜県で初めて富有柿を食べて以来、この品種が好みだが、こちらも今は奈良県が主産地とか。
富有柿は果肉の瑞々しさもさることながら、皮の色合いが譬えようもなく美しい。また、丸みを帯びた形も優美だ。これには甘さで勝る次郎柿も及ばない。正岡子規の「柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺」の句も、場所柄、富有柿か御所柿だろうか?
更にひとつ、愛知県西尾市幸田が特産地の、筆柿を加えたい。甘さが強いうえに皮色が濃く、筆の穂のような形に興趣がある。スケッチをしたくなるのは、この柿が一番だ。
古くからの名称は、婦人の前で口に出すのが憚られるので、現在はこの名称で流通していると聞いた。形から想像していただきたい。
ほかに干し柿にして絶品の渋柿に、蜂屋柿という名の柿もある。これは果実が大きく、干してもなお大きく、見映えも味も好い。
信州伊那の干し柿市田柿は、今や全国に知られるブランド柿になった。天竜川の上流伊奈で生産され暮から出荷されるこの小ぶりで甘い柿が、年が明けても販売されているのは、柿好きにとって甚だ心強いものがある。保存性にも勝れているのだろう。
好みは人それぞれで、柿の評価も一長一短ということになろうが、食物は多様を知ることの入口だから、色々な種類を味わうことを楽しみたい。
面白いことに、私の周りでは、完熟した軟らかいものを好む派と熟さない硬い実を好む派に分かれる。ニュージーランドでは欧州に輸出するほど生産しているが、総じて白人は完熟を好むという。その方が、彼らの食事と馴染みが好いのだろう。
柿は国内では最もポピュラーな果物だが、日本での果物生産は、とかく品種に優劣をつけて希少化、高級化を図る傾向がある。これは生産者の側だけの問題でなく、消費者の側にも問題がある。
外観の見映えにとらわれる習性、病気見舞いや贈答に希少果物を選ぶ献上習慣、これらは、雑多な果物やその加工品を、食事の一部として日常的に食べている民族から見れば、極めて奇異に映るだろう。
和食は洋食と比べ、食材として果物を活用しなかった。食後に果物で口をさっぱりさせる必要もない。それが、私たちの食卓を寂しいものにしてきた。現在は西洋に倣って食後のデザートに果物を食べることが習慣化したが、まだまだ消費量は欧米に及ばないという。
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