冬の寒さで定評ある京都を訪れたとき、真冬だったが意外にも寒気を強く感じなかった。同行の人によれば、当地浜松は空っ風と呼ばれる冬の季節風が強いが、京都は盆地で風が吹かないので、気温は低くても外での寒さはさほどに厳しく感じないのだそうだ。
雪国から浜松に転居してきた人々は、異口同音に当地の冬の寒さに驚いたと語る。冬の間中、風速5mから10mもの空っ風が終日吹いていては、たしかに体感温度が下がる。体感温度は風速1mにつき1度の割合で下がるから、気温が5度前後であっても、風速が5mなら体感温度は0度前後ということになる。雨や汗で濡れていれば、更に体感温度は低くなる。
登山中に低体温症で動けなくなる事故も、体感温度が下がることによりひき起される。最近の登山ウェア、特に冬山用のそれは性能が著しく進歩して驚くばかりだが、その機能を過信するのは危ない。特に透湿発熱素材を使ったインナーなど、その性能が誇大に喧伝され過ぎている。決して魔法の素材ではない。
冬山の登山ウェアは保温性が第一であるが、同時に運動で身体から発散される水蒸気を速やかに外部へ放出する機能が欠かせない。水蒸気を被服の内部に籠もらせてはならない。それは凝固水(コンデンスウォーター)となって、皮膚とインナーを濡らす。すると、インナーは保温性を失い、急速に体熱が奪われる。外からの雨に対しては、皮膚に雨水が及ばない高性能の透湿素材でできたレインウェアーでも、降雨下では外気と湿度差がなくなるから、被服内の水分は放散しない。ときどき通気に気を配らないと、飽和した水蒸気は凝固してインナーを濡らしてしまう。
降雪下でも事情は同じだ。積雪のある山での運動量は夏の1.5倍ほどになるから、晴れていない時は凝固水が発生するのを避けられない。発汗の水蒸気で繊維を発熱させる機能をもった、新素材のインナーを身につけて登山をすれば、運動による体温上昇と相俟って更に発汗は強まる。そしてその水分は、蒸発する際に体熱を奪う方に働く。透湿発熱インナーは、気温の低いところで、汗をかかずに過ごしているときに強みを発揮する衣料である。
山歩きは冬でも汗をかく。凝固水を防ぐには、行動中に汗を溜めないよう、シャツやジャケットなどをこまめに開閉するのが望ましい。汗をかくときは衣服内の温度が高すぎるのだ。歩いていて暑いと感じたら、首周り、腕周りをくつろげて体熱を逃がすようにしたい。行動をしない休憩や食事のときは、保温性の高いウェアを身に纏い体温を逃がさないよう心がけたい。休憩中に低体温に陥るケースが多い。
透湿発熱衣料を身につけて冬山登山をすると、皮肉なことにかえって低体温症を招くこともあることを登山者は知っていなければならない。特に体温調節機能の衰えた中高年登山者が、発熱の言葉に惑わされてその機能を過大に信頼するのは危険だと思う。
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