てんちゃんのビックリ箱

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北斎とジャポニズム 展 感想

2017-12-09 01:32:55 | 美術館・博物館 等
開催名称:北斎とジャポニズム
場所:国立西洋美術館
開催期間:2017.10.21~2018.1.28
訪問日:2017.11.29
惹句:HOKUSAIが西洋に与えた衝撃
内容:1.北斎の西洋における受容
   2.北斎と人物
   3.北斎と動物
   4.北斎と植物
   5.北斎と風景
   6.波と富士山

 約150年前、日本が開国した際、いろんな場で海外と日本の出会いがあった。特にドラマチックだったのが芸術の部分で、音楽では西洋の楽器、オーケストラ等の大型構成が日本にいきなり入ってきた。また美術でも油を用いた洋画や身体の構造から分析したリアリズムの表現手法が導入され、日本から音楽では滝廉太郎、美術では黒田清輝などが海外留学をすることで、それらの導入が図られた。
 それとは逆に、西洋へ浮世絵などの絵画が非常に大きな影響をあたえた。
 
 西洋美術は非常に貪欲であり、19世紀初頭には中国文化を「シノワズリ―」として取り入れ、その後の日本、そして20世紀にはアフリカや中南米文化を取り入れ表現を拡大してきている。

 こういった導入の中で、日本の開国およびその美術品の流出が、西洋の変革模索(政治から文化まで)の時と相まって、非常に大きな影響を長期間あたえることになった。
 日本の美術品の中で、西洋に最も大きな影響を与えたのが葛飾北斎の作品であるので、その影響について、北斎の作品とそれに影響を受けたことがはっきりわかる作品とを並べて示したのがこの展覧会である。

 1章では、初期流出の中で最初に日本に関わった人たちによって北斎が見いだされる過程を示す。2章~5章で、人物、動物、植物、風景の分野における北斎の絵とそっくりの西洋の絵を比較して示す。そして6章で西洋の人に最もインパクトの大きかった波(神奈川沖の絵)と富士山の絵の影響について示す。
 
 この展覧会の主張は、以下である。
1.人物
 人物画において、西洋は骨や筋肉の付き方などから積み上げるリアリズムの方法を持っていたが、人の自然な動き、表情の作り方などサラッと書いて本質的な存在を実感させるようなリアリズムはなく、西洋の画家たちはその技法に非常に着目した。そして北斎がスケッチ教本として作った北斎漫画の中に見本が非常に参考になり、多くの画家がそれをもとに絵を描いた。そしてその人の特徴を一層アピールするデフォルメ(東洲斎写楽のイメージ)にあこがれ、また実在しない幽霊や妖怪の表現が、シュールレアリズムの先駆けとなる人々へと引き継がれていった。

 

 左 北斎漫画の力士の像、右 ドガの踊り子。 力士の右下の姿がそっくり。 日常のリアルが追求され、彼女たちをのぞき見している感じになる。

   

 左 北斎の「百物語 こはだ小平治」 右は ルドンの「ゴヤ賛 Ⅱ 沼の花」 北斎の亡霊の絵が、シュールレアリズムの先駆へ 影響を及ぼしている。

2/3.動物および植物
 動物は、西洋では博物館的なリアリズムで描かれていたが、狩猟対象、もしくはペットとして人物像の添え物であった。また昆虫類は宗教等のシンボルとして描かれる程度であった。それが日本では、自立した生き物として生き生きと描かれ、時には擬人的に人と意志が通じ合うもののように描かれた。
 植物は、西洋では花瓶等に入れられた静物でほとんどが肖像画の付属品で、枯れる運命にあるものとして扱われたが、日本では大地に根を張って、動物と同様に自立したものと扱われる。両者とも人間と自然との関係が、日本と西洋で異なることに基づく。
 それに驚いた西洋の芸術家たちは、積極的にそれらを題材として取り上げるようになった。

 

 左 北斎の「和漢絵本魁」 右 ガレの 「壷 ペリカンとドラゴン」 鳥の姿がほとんどそっくり

  

 左 北斎の「菊に虻」  右 モネの 「菊畑」  あまり似ているとはおもわないが、日本から北斎のような絵が入ってくるまで、自然の中で花が自己主張する絵は西洋になかったとのこと。 

4.風景
 西洋では、科学的な遠近法に基づいて絵は描かれ、そして近景、中景、遠景と存在すべきものの属性(例えば木々は遠景の邪魔をしない)はほぼ定まっていた。この科学的遠近法は、日本でも開国後習得すべき技術として、積極的に展開された。
 それに対して西洋では、日本の遠近法から外れた主張すべき所は主張する描き方に、現状打破したい画家が着目した。そして大胆な画面分割や遠景を遮るような太い木を前景に置くなどの新しい構図に感激して、それを取り入れようとした。
  

 左 北斎の 「富嶽三十六景 駿州江尻」  右 モネの「アンティーブ岬」  前景の斜めの大木・・こんな描き方はそれまで西洋にはなかった。

5.波と富士山
 北斎の神奈川沖浪裏(富嶽三十六景)の大波は、西洋に大きなインパクトを与え、絵画だけでなく、楽譜から彫刻まで多くの参考とした作品が生まれた。それはデザインの分野へも及んでいる。それとともに、海の波の日本画家の執着心を受け継ぐ西洋画家が多数生まれた。
 また富嶽三十六景のように、ある一つの対象に執着し、いろんな視点でそれを連作で描いていくという画家としての手法を受け継ぐ作家が現れた。(セザンヌの山、モネの積み藁 等)
  

 左 北斎の 「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」 右 カミーユ クローデルの「波」  このビッグウェーブは、絵画だけでなく彫刻やポスター、工業製品まで影響を与えている。
  

 左 北斎の 「富嶽三十六景 駿州片倉」  右 セザンヌの 「サント=ビクトワール山」  ともに山の連作のうちの一点


 北斎だけでなく歌麿や写楽等の多くの作家の作品が西洋に伝達することによって、上記のような大きなムーブメント(ジャポニズム)が起こったが、こういった日本文化の西洋への伝達において、北斎は、「波」と「富士山」とおいう最高のアイコン、そして「北斎漫画」という表現の基本的なエッセンスかつデータベースを提供したことで、決定的な役割を果たした。
 印象派からシュールレアリズムに至る芸術の流れを、準備したようなものだ。1998年に米国「ライフ」誌が企画した「この1000年間に偉大な業績をあげた世界の人物100人」では、日本人でただ一人北斎だけが選ばれているが、当然のことだと考える。



 今回の展覧会は、北斎の絵とそれと関わる西洋の作品を一緒に並べたものであり、西洋側では、これまでに示したように、非常に有名な作家のものが並んでいる。北斎およびジャポニズムの影響を明確に示す勉強のための展覧会としては素晴らしい。

 しかし注意しなければならないことは、「ウォーリーを探せ」という状態になるうことだ。特に北斎漫画の何種類か図の入ったページと、西洋の大きな絵が並んでいると、どこが似ているのかを一生懸命さがし、似ている所を見つけただけで満足してしまう・・・ そんな状態になるし、私の周辺の観客もそんな見方をしていた。

 この展覧会のテーマとして「西洋の芸術家は北斎の作品のどこに惹かれたのか、北斎から何を学び新しい扉を開いたのか。」 という言葉が パンフレットに書かれている。
 この前半のどこに惹かれたのかについては、多分なんとか理解できる。しかし後半の「新しい扉」すなわちどんな新しいステージへ昇ったのかということは、ただ見ているだけではわかりにくい。

 実は影響を受けた西洋の画家の作品というのは、かなりのものが日本の美術館にあるものである。そして以前こういったジャポニズムの説明なしに出会って、感激した作品もあった。しかしここでは、あまり感動なしに眺めてしまう。

 これではまずいと思って、2章のところまで戻って西洋画家のみを見直した。そしてやっぱり感動した。彼らとしては北斎を吸収しているだけでなく、従来の伝統も組み合わせその人の個性としての表現に昇華していることがわかった。
 
 だから、この展覧会は見方にちょっと注意が必要と思う。
 そして、黒田清輝等の洋画家、そして岡倉天心一派の日本画家が西洋の影響を受けた新しい絵を描いていたが、今の日本はどうそれを継承し新しいステージへあがっているのか、改めて考えなければいけない。

コメント
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